2021.04.24

LIFESTYLE

三角敷地に建つコンクリートの狭小住宅 小さいから面白い【ENGINE・ハウス】

東京都渋谷区に建つ腰越邸。正方形の大きな窓と、開閉可能な長方形の細長い窓が規則的に並んでいる。竣工6年を迎え、外壁のコンクリートは風合いが出てきた。4層で半地下階は、腰越さんの設計事務所。地上部分は自宅となっている。敷地は60平方メートルしかないが、60%ある建蔽率を30%強しか使わず庭としたので、延床面積64平方メートルの小さな家に見えない。もっともスマートの駐車エリアをみると、大きなシマトネリコの根本ギリギリに停めているのが分かる。この木は、町中にある住宅の玄関を隠すとともに、成長すると2階...

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東京の都心、人気の恵比寿エリアの住宅街に建つ腰越邸は、60平方メートルもない狭い敷地に建っている。クルマも小さな白黒パンダのスマート。ここには小さいからこそ面白い世界がある。


茂みのなかの白黒パンダ

端正な姿をしたコンクリート打ちっ放しのビル。横の茂みには、パンダみたいな白と黒のスマート・フォーフォー・ターボ(2016年製)が頭を突っ込んでいる。ここは建築家の腰越耕太(こしごえこうた)さん(44歳)の、自邸+事務所だ。場所は東京都渋谷区の南恵比寿。代官山や恵比寿ガーデンプレイスまで歩いて行ける、都心の真ん中のお洒落な地区に建っている。


「本当に小さな家だから驚かないで下さいね」


と、腰越さんは我々取材チームを招き入れた。横に停まっているクルマが小ぶりなうえ、庭に多くの木が植わっているので分りにくいが敷地は60平方メートルもない。建物も4m×4mサイズの4層で、延床面積は64平方メートル。この小さな家は、建築家の自邸だから実現できたものだ。


腰越さん夫婦は、自然の豊かな地方で育った。この家に移る前は神楽坂の賃貸に住み、別途その近くに事務所を借りていた。だが二人とも戸建て住宅で育ったため、「小さくてもよいので、地に足をつけた一軒家で暮らしたかった」ことから家作りが始まる。土地探しは1年近くかかった。「最も拘ったのはエリア」と奥様。気分が上がるような都市型生活ができる街を重点的に探した。そうして見つけたのが、南恵比寿の小さな三角形の土地だ。道路に接した部分が13mもあるので、面白い家が建てられそうなことも決め手のひとつとなっている。


構造:RC 規模:地上3階地下1階 敷地面積:59.60平方メートル 建築面積:20.07平方メートル 延べ床面積:64.76平方メートル 竣工年:2015年 所在地::東京都渋谷区 設計:腰越耕太建築設計事務所 www.koshigoearchitects.com

腰越さんたちがこの場所を手に入れたのは2013年のこと。使いにくい変形の小さな土地だが、そこは都心の一等地。地価を聞いて驚いた。


「それでも払っているローンは、以前借りていた部屋と事務所の家賃を合わせたよりも安いんですよ。ましてや車庫まで借りるなんて、当時は考えられない話でした」


家を建てクルマが持てた

それが、都会の真ん中に家が建っただけでなく、敷地内に車庫も確保。こうして腰越さんは、人生で初めて自分のクルマを手に入れることができた。素敵な話じゃないか。


「特に車種を想定せず、小さな駐車スペースを用意しておきました。そして子供を授かり、クルマを持つことに。仕事柄デザインは譲れません。FIAT500かスマートで悩みましたが、ショールームに飾られていた白と黒のモデルが可愛くてスマートの方を選びました。買い物や3歳の子供を公園まで乗せていくような街乗りだけでなく、親子3人で帰省する際にも活躍しています。小さいクルマですが、高速走行も楽ですよ。もちろん仕事で現場に行くのにも使います。クルマはいいですね。実は運転が好きだったんです」


2階のリビング・ダイニング・キッチン。16平方メートルしかないが、実際にこの場に身を置くと、天井も高く窓の向こうに視線が抜けているので、狭さは感じない。コンクリート打ちっ放しだった床は冬寒く、生まれてくる子供がハイハイするので、竣工後2年目で杉材を貼った。デザイナーもののダイニングセットはこの時処分し、普段は床に座って食事をする子供中心の生活。

さて、腰越邸は平面図を見て分かる通り、小さな敷地だが余裕をもって建てられている。60%ある建蔽率(当時の規定で。現在は70%)をギリギリまでではなく、30%強しか使っていない。容積率も200%のところを140%までで。最初は建蔽率一杯に建てるプランを半年ほど考えていたが、しっくりいかなかった。どうやっても隣家との間に50cmほどのスペースが生まれる程度で、エアコンの室外機を置いたらそれで終わりである。そこで建蔽率を目一杯使うことを止めることで、今のプランが生まれた。建物の周り3カ所にちょっとした庭を設けた結果、腰越邸は狭い土地に建っているようには見えない。こうした割り切りも、建築家の自邸ならではだ。


16平方メートルでも狭くない

さて、4層からなるこの家の間取りは、外階段を下りた半地下が腰越さんの事務所。別の階段を上って玄関を入った1階が水回りと予備室。2階がリビング・ダイニング・キッチン。3階が寝室で、その一部が奥様の書斎スペースになっている。限られた空間を広く感じさせる工夫が随所にされているのは、やはり建築家の自邸だ。居室部の天井高は238cmと、普通の家より少し高い。窓も床から40cmの高さから始まる大きなもの。さらに建物は通りに対して30%傾けて建っているので、向かいの建物の窓と視線が合わない位置関係だ。付近には同じような高さの家が無く、窓からの眺めは視線が抜けている。そのため2、3階は16平方メートルもない空間だが狭さを感じない。


布団を敷いて寝室に使っている3階は、普段は何もない。腰越さんが座っている場所は奥様の書斎で、ここでリモートワークもする。その左手に見えているのが、この家唯一の収納スペース。この引き戸や1階の木製の壁、トイレの扉などは自分たちで塗装した。モノの少ない住宅なので、窓周りの仕上げや手摺の形状など意匠にも気を配った。窓は大きく近隣の建物とも距離があるので、ブラインドを開けると視線が遠くまで抜ける。

驚いたことに収納は、3階に大きいものがひとつあるだけ。引っ越しの際に本当に必要なものだけを選んで、ミニマルな生活を送っている。さらにお子さんが生まれたのを機に、コンクリート打ちっ放しの床に厚さ3cmの国産の杉材を貼った。赤ちゃんはハイハイをするので、椅子やベッドの生活を止めて床の生活をするためだ。デザイナーもののダイニングセットは、この時処分した。3階は布団を敷いて眠るので、普段は床に何もない。こうした積み重ねのおかげで、腰越さんが心配した小さな家を訪れた感じは全くなかった。


ところで、わざわざ都心のお洒落なエリアを選んで建てた家である。いったいどのように暮らしているのだろう。特に自宅の下で働くのだから、相当な長時間労働ではと想像したが大間違い。建築事務所は18時で業務終了。所員には残業を禁じている。会社勤めの奥様とは、自宅に仕事を持ち込まない約束をしているので、それ以降は家族の時間だ。仕事が忙しい時は、早朝から働くライフスタイルである。


しかも夫婦やお子さんとの生活だけではない。アクセスが良いので、実家のお父様が上京し、この家を拠点に趣味の落語を聴きに出かける事もあるのだとか。なるほど。けして大きくなくとも、拘った家ができると人生はより豊かになる。腰越邸を訪れて、そう強く感じた。


建築家:腰越耕太。1976年新潟県生まれ。神奈川大学卒業後、設計事務所勤務を経て独立。自邸は構造で無理をしないようにRC造としたが、近年は木を使用したSDGs的な建築を得意としている。写真はRC造の4階建てのビルの建て替え。1-2階は鉄骨、3-6階は木造として建物の軽量化に成功し、4割増の床面積を実現させた。2年後には15階建ての木造ビルが完成する予定。Photo : GlassEye Inc./海老原一己

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一


(ENGINE2021年5月号)


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