畑野自動車のデモ・カーであるワイド・ボディのランチア・デルタやルノー・ルーテシアV6トロフィー、そして英国バックヤード・スポーツカーとして知られるウルティマなど、強者たちが並ぶ一画に漆黒のタスカンは潜んでいた。同社整備スペースには売却済みとなったもう1台のタスカンの姿も。日本国内で生存しているのは10台以下と言われるタスカン"S"が2台並ぶのはこのお店ならではの光景。
■TVRタスカンSスピード・シックス 2003年型 ブラック/ブラック・レザー 右ハンドル 5段MT LSD クロスミッション 走行1.6万マイル 修復歴なし 定期点検記録簿 禁煙車 628万円
ウエダ 今月のENGINEはスポーツカー特集ということなのですが、気づいてみれば集まった顔ぶれ、意外と曲者的なモデルが多いんですよね。
ワタナベ へぇー。というと?
アライ 新しいところではダラーラ・ストラダーレとか、アストン・マーティン・ヴァンテージのMTとか。
ウエダ アルファ・ロメオ4Cやロータス・エリーゼもあります。
ワタナベ 世のスーパーカー連中のパフォーマンスがとんでもない領域にぶっ飛んでるから、作り手はかえってそこと一線を画した提案がしやすくなってるし、乗り手もまったく異なる体験を望んでいるんじゃないの? それが顔ぶれに現れたとか。
アライ なるほど。確かにもう自分たちが御する範疇にはないですからね、最近のスーパー・スポーツ系は。
ワタナベ 逆に見れば、800ps級をまともに動かせるっていうテクノロジーの進化も凄いんだけどね。
ウエダ そんなわけで今回は、スポーツカーの真髄ともいえる曲者を探してきました。
アライ ちょ、これ曲者というより際物って感じじゃん。ABSもないし。
ワタナベ さっきのスーパーカーの話からすれば、これは丸腰すぎて裸で走ってるようなもんだよ……。





ウエダ 皆さんお忘れかもしれませんがタスカンはTVRの第二次隆盛期の最中、1999年のデビューです。
アライ これ、位置づけ的にはグリフィスの後継ってことになるの?
ワタナベ うーん、この頃はキミーラとかサーブラウとかもあったけど、どちらもちょっとGT的なテイストが強かったし、スパルタン度でいえばグリフィスの後継とするに相応しいのはタスカンなのかもね。思えば60年代の初代タスカンも初代グリフィスの後継的な位置づけだったし。
アライ そうか、そうやって考えると90年代のTVRって意外と歴史に倣ったラインナップを構築しようとしていたのかもしれませんね。
ウエダ ちなみにこちらのタスカンはモデル・ライフ後半に設定されたスポーツ・モデル"S"の前期型。後期型との違いは、リア・スポイラーがトランク・フードではなくボディ側に装着されていることだとか。
ワタナベ うわぁ、そんなマニアなネタわかんないよ……。
アライ なにせ今日はお邪魔してるのが曲者の館ですからねぇ。
ウエダ こちらの畑野自動車さんは、TVRのメンテナンスも多数手がけられていて、ウィーク・ポイントなども熟知されているそうです。
アライ 多数手掛けるほどあるのかなぁ、台数。
ウエダ 畑野自動車にはつい先日までタスカンSの販売物件が2台あったんですよ。そのうち、カメレオン・カラーの個体は売れちゃったので、今日は黒を見せてもらってますが。
アライ 売れたんだ……。
ワタナベ オーナーズ・クラブも日本にあるらしいよ。
ウエダ で、タスカンといえば鋼管スペース・フレームにファイバー・ボディという実にイギリス製スポーツカーらしい成り立ちなわけですが、そのデザインと共にとりわけオーラを放っているのがオリジナルの直列6気筒エンジンだと思います。
ワタナベ 通称スピード・シックス。3.6〜4ℓのキャパシティがあって、タスカンでは最大400psまで絞り出してたんだよね。これ、色々調べても自社製エンジンってことみたいなんだけど、実際のところ保ちはどうなんだろう。




ウエダ 本国出荷時のECUは燃調が濃く6連スロットルのバランスも取れていなくて、低回転域で超扱いにくいレーシーな設定なんだそうです。
アライ 畑野自動車さんはそれらをバランス型に調律し直していて、相当乗りやすいキャラになっているとか。本当は純正ECUよりモーテックで制御したほうがさらに扱い易いそうなんですが、やはりお客さんはオリジナリティを重視するそうで。
ワタナベ 確かに新車当時の取っつきにくさというか、イキりっぷりは凄かったもんなぁ。その当時は耐久性をすり減らしてるような儚さを感じたものだけど、エンジン本体は意外なほど丈夫だったんだね。
アライ しかしこのデザインって、今みるとちょっとジャガーEタイプのオマージュ感ありますね。
ワタナベ そうなんだよね。僕も当時はよくわからなかったけど、これはイギリス人が思い浮かべるスポーツカーの頂点的理想の1つなんだと思う。汎用的に使われてきたビュイック由来のローバーV8ではなくて、フルオリジナルの直列6気筒に拘ったのも、志の高さを物語っているんじゃないかな。
ウエダ 当時の代表だったピーター・ウィラーはすでに亡くなってるみたいですが、氏の情熱あればこそ、この時期のTVRは輝ける存在になったんでしょうね。
話す人=渡辺敏史(まとめも)+新井一樹+上田純一郎(ともにENGINE編集部) 写真=阿部昌也
(ENGINE2020年5月号)
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