スーパースポーツカーを代表するクルマと言えば、ミドシップV8フェラーリをおいてほかにあるまい。その最新型が上陸、いち早くチョイ乗りする機会を得た。
昨秋、フェラーリの本拠地イタリア・モデナで開かれた国際試乗会で乗ったF8トリブートがようやく日本に上陸したという知らせが届いた。
ただし、今回の車両は本国で特別にランニングインされた広報試乗車ではないので、詳細な試乗インプレッションはしないで欲しいという条件つきで借りることになった。よってこの稿はロード・テストではなく、あくまで気軽なエッセイとしてお届けすることを予めお断りしておこう。
現れたのは、これぞフェラーリと口笛を吹きたくなくなるような派手なロッソ・コルサ(レーシング・レッド)のボディを持った個体だった。美しい、と感じる以上に見る人を圧倒するような迫力を持ったスタイリングである。それは穴の開き方が関係しているように思う。ロードカーとしては初めて488ピスタに導入されたF1由来のSダクトがこのF8トリブートにも移植され、巨大なフロントのエアインテークに加えて、ボンネットの中央にもエア・アウトレットが設えられていることが、レーシーな迫力をもたらしているのだ。背後に回ると、F40を模したスリットの入ったポリカーボネイト製に変更されたリア・ウインドウが、さらにレーシーな雰囲気を高めている。



運転席に乗り込み、ステアリング・ホイール上の赤いスターターボタンを押すと、あたり一面に響き渡るような大きな音を立てて背後にある4LV8ツインターボに火が入った。車名通り、さすがは自ら讃えるだけのことはあると思わず納得させられるエンジンの存在感だ。
もっとも、その大きな音は、数十秒たって温度が上がってくると、スッーと波が引くように静かになる。むろん、それでもフツウのクルマに比べたらずっと大きな音を立てているのだが、最初があまりに強烈だから、突如、静寂が訪れたように感じるのだ。

街中を走り始めた第一印象は、見た目の迫力とは裏腹に、これはなんと乗り易いスーパースポーツカーなんだろう、というものだった。
モデナで乗った時にも真っ先に感じたことだが、この数年のフェラーリは新型車を出すごとに快適性と運転のし易さ増しているとはいえ、今回はとりわけその振れ幅が大きいように感じる。もちろんフェラーリに乗っているのだから緊張感はある。幅の広いボディを狭い街中で操る難しさもないわけではない。しかし、それにもかかわらず、こんなに乗り易いと感じるのは、720psのスーパースポーツカーに乗っているとは思えない足回りのしなやかさと、ピーキーな感じがまったくしないハンドリングのバランスの良さのおかげだろう。
一昔前のフェラーリはあまりに軽快で、触れなば切らんというオーラを発散しすぎていて、決して乗り易いシロモノではなかった。それが嘘のように今では軽快さと重厚さが絶妙にバランスしているのだから、改めて感嘆させられてしまった。

日本で乗って初めて気付いたこともある。驚くほど積極的にアイドリング・ストップ・システムが働くということである。ウェット、スポーツ、レース、CTオフのすべてのモードでこれが働くとは知らなかった。しかも、完全停止する前にエンジンが止まってしまうことがあるから、渋滞の中ではギクシャクして走りにくいことこの上ない。オフ・スイッチを探したが、なかなか見つからなくて一苦労。取説を読んで、ようやくルーフの照明のところにあると発見した次第。まさかフェラーリがここまで燃費に気を使うメーカーだとは知らなかった。
もっとも、高速道路を走る時には時速100㎞で7速2200rpmくらいだから、決して極端な燃費指向のギア比ではない。走りは走り、燃費は燃費で別問題ということなのかも知れないが、それにしても高速道路をF8トリブートでクルージングする気持ち良さは、特筆モノだった。ターボ・エンジンになってからは、高音を響かせながら走る楽しみはなくなったが、その分、リラックスしてクルージングできる大人のスーパースポーカーになったように思う。

この日、ほんのわずかだけれど山道も走ってみた。そこでF8トリブートが見せた顔は、それまでの街中や高速道路で見せたものとは違っていた。すなわち、かつての“触れなば切らん"の切っ先鋭さをかいま見せる場面もあった。それでも圧倒的な安心感があるのは、黒子として働く様々な電子制御システムのおかげなのだろう。
ここから先のインプレッションは本格的な広報試乗車が来てからにするが、街中から高速道路、さらには山道(あるいはサーキット)まで自在にこなす多様性を備えたF8トリブートが、もっかスーパースポーツカー・リーグの最前列にいるのは間違いないと思った。
▶「フェラーリのおすすめ記事」をもっと見る■フェラーリF8トリブート
駆動方式 エンジン・ミド縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4611×1979×1206㎜
ホイールベース 2650㎜
車両重量 1570㎏(前軸660㎏、後軸910㎏)
エンジン形式 直噴V8DOHCツインターボ(バンク角90度)
排気量 3902cc
ボア×ストローク 86.5×83㎜
最高出力 720ps/7000rpm
最大トルク 78.5kgm/3250rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(CCM)
タイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/30ZR20
車両本体価格(税込み) 3264.3万円
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=郡 大二郎
(ENGINE2020年6月号)
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