『男と女』の名匠、クロード・ルルーシュ監督が、44年前に撮った9分の短編映画『ランデヴー』。この作品に着想を得た新たな作品が、フェラーリの公式ウェブサイトで公開された。
日本でその作品の存在が知られるようになったのは2000年前後だったように記憶している。トンネルを抜けると、フェラーリのV12サウンドが唸りをあげ、地を這うようなカメラアングルで縦横無尽に早朝のパリの街中を駆け抜ける。あまりにインパクトのある映像にエンスージァストの間では「凱旋門を4速で回った」とか「ストレートでは200km/h近く出てるはずだ」など、画面を通しての推理劇が繰り広げられたほどだ。
その作品のタイトルは『C'était un Rendez-Vous (邦題:ランデヴー)』。1966年にカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した名作『男と女』を監督したクロード・ルルーシュが1976年に発表したわずか9分間の短編映画である。タネを明かすと、この映像はメルセデス・ベンツ450SEL 6.9のノーズに付けられたカメラで撮影されたものに、ルルーシュの所有するフェラーリ275GTBのサウンドをアテレコしたものなのだが、作品の持つ清々しさ、スリル、そしてちょっとした背徳感は今も色褪せることがなく、評価も高い。
それから40年以上が過ぎた2020年6月15日、フェラーリとのコラボレーションで、82歳になったルルーシュが久々にメガホンをとった新作がWeb上で公開された。そのタイトルは『Le Grand Rendez-Vous (ル・グラン・ランデヴー)』。今度の舞台はパリではなく、早朝のモナコだ。
映像は「2020年5月24日、第79回モナコ・グランプリはキャンセルされた。しかし……」というテロップから始まる。そう、これは世界的に猛威を振るう新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の影響で、本来ならモナコGPが行われるはずだったその日に、感染症と闘う全ての人々、そしてロックダウンから立ち直る世界に向けてのメッセージとして企画、撮影されたものである。
モナコ生まれのフェラーリF1ドライバー、シャルル・ルクレールがドライブするフェラーリSF90ストラダーレが、ホームストレートではなくトンネルから走り始めるのは、まさに前作へのオマージュといえる部分だ。
意外に思われるかもしれないが、モナコではクルマでグランプリコースを周回できないようになっている。そのためモナコ公国全面協力のもと、撮影は一般道を閉鎖して特別に行われた。良く見ていくと、トンネル明けのシケインの出口で公道を外れ、ヨットハーバー(タバコ・コーナーからラスカス)へ入っていく様子が映し出されている。
コースを周り、ホテル・ド・パリに到着したルクレールを迎えるのは、マスク姿のモナコ公アルベール2世だ。
3月19日にCOVID-19に感染し、その後回復したことが伝えられたアルベール2世をルクレールが助手席に誘い走り出す姿は、まさにロックダウンが解除されたモナコの街が、立ち直りつつあることを象徴しているようだった。
およそ5分のショートムービーは、冒頭に出てきたマルシェで花を見繕っていた女性が、アルベール2世とルクレールに花束を渡した後でSF90ストラダーレの助手席に乗り込み、ルクレールと共にマスクを外してにこやかに走り去るシーンで終わる。
実はこの女性は、前作のラストシーンで現れる恋人役を演じたグニラ・フリーデンとルルーシュの孫娘、レベッカ・ブラン・ルルーシュなのだ。
ルルーシュはこのショートムービーに一切のセリフを入れることなく、過去との繋がり、現状からの回復、そして未来への希望を彼らしいタッチで見事に描き出してみせた。まさに『Le Grand Rendez-Vous 』の名にふさわしい一編である。
『Le Grand Rendez-Vous』はフェラーリの公式ウェブサイトのThe Official Ferrari Magazineで公開中。 https://magazine.ferrari.com
文=藤原よしお 写真提供=フェラーリ・ジャパン
(ENGINEWEBオリジナル)
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