2020.08.13

CARS

崖っ淵のイタリアの老舗カロッツェリア、ザガートを救ったクルマとは? 一度は後継を拒否した三代目がとった行動がカッコいい!

イタリアの老舗カロッツェリアであるザガートの3代目に就いたアンドレア氏。

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しかしいくら好きでも自爆の道を歩むわけにはいかない。自分が継ぐ以上、「改革」が必要だと考えた。我が一族が大切に育てた、私が大好きなザガートを守るためには、モダナイズしなければならない。と言っても自動車メーカーに対抗する規模拡大を考えたわけではない。私が目指したのは逆。さらにザガート色を強めることだった。ひとつにはデザイン、もうひとつはハイレベルなエンジニアリング。マスではなくエンスージアストに向けて、オートクチュールのようにクルマを製作したい。「ゴー・バック・トゥ・ザ・アトリエ」、これが私の考えた改革である。

この第一弾となったのがアルファ・ロメオS.Z.だ。1989年のジュネーブ・ショーでES30という名のコンセプトモデルとして発表、この年、S.Z.とネーミングされて生産車となった。軽量を得意としたザガートは伝統的にボディにアルミを用いたが、S.Z.ではスチール・ボディにFRPカウルを装着した。これにより車重は1290kgに抑えることができた。エンジンはアルファ・ロメオ75ターボIMSAからのデリバリー。パワーはオリジナルより32馬力ほど増強された。リア・サスペンションは75と同じくド・ディオン。トランスアクスルによって理想的な前後重量配分を得た。

しかし私の立場でもっとも思い出深いのは、このモデルで初めてCAD、CAM、CAEという3つの計算システムを用いたことだろう。我々の規模のアトリエでは相当早い導入だったはず。その後、ランチア・ハイエナやフェラーリFZ93、ランボルギーニL147とLM003のプロジェクトも同様に行った。自動車だけではない。ヨットなどでも採用した。いずれもS.Z.での経験がパイオニアになったということだ。

S.Z.を製作することで、私は仕事の上で確信のようなものを掴んだ。「大丈夫だ、この方向で進んでいける」。このモデルののち、ザガートは私が望んだ本格的なアトリエの道を歩み、1993年、私は責任者に就任した。S.Z.は2019年に創業100年を迎えたザガートにとって会社を新たな時代に導いたモデルだが、私にとっても同じだ。このクルマによって私の人生は大きく変わった。


文=アンドレア・ザガート 翻訳=松本 葉


(ENGINE2020年7・8月号)

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