2020.10.18

CARS

GMA T.50登場! マクラーレンF1の後継車がついに発売 開発者のゴードン・マーレイにインタビュー

マクラーレンF1の登場から30年近い月日が流れ、世はスーパーカーの春。ここに現れたのは、そのF1の作者、ゴードン・マレー氏の最新作である。

フォーミュラ・ワン好き、あるいはスーパースポーツカー好きならば、その名前を知らない人はいないゴードン・マレー氏は1946年生まれの南アフリカ出身の英国人。レースの世界の最高峰を目指し渡英。1969年にブラバムF1チームのテクニカル・ディレクターに就くと数々の傑作をものにし、奇才としてその名を馳せた。とくにBT44BやBT49シリーズ、さらにはBT52といった駿馬は記憶に焼きついているのではないか。1981年と1983年にはネルソン・ピケを世界チャンピオンに押し上げた。

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その後、低全高低重心のコンセプトに取り組むも最高の成果を挙げることは叶わず、1987年にマクラーレン・レーシングに移籍。そこで低重心コンセプトを見事開花させて、TAGターボ(ポルシェ)からホンダに搭載エンジンが切り換わった1988年にはMP4/4で16戦15勝という前人未踏の記録を打ち立てた。その後のMP4/5やMP4/5Bにもマレーの知見が活かされていた。アイルトン・セナやアラン・プロストにドライバーズ・タイトルをもたらしたマシンたちである。

1990年に自身が設計したF1マシンが通算50勝に達したのを機にF1界を去り、市販ロードカーを開発製造するマクラーレン・カーズ・リミテッドの設立に尽力した。そこであの奇跡のような究極のスポーツカー、マクラーレンF1を生み出したのだった。2005年にマクラーレン・カーズを離れたマレーは2007年に自身の会社、ゴードン・マレー・デザインを設立してさまざまな設計開発プロジェクトに携わり、あるいは自ら発信者として新しいコンセプトを提案してきた。


そんなマレー氏が立ち上げたゴードン・マレー・オートモーティヴ社がその 新しいスーパースポーツカー、T.50を正式発表する直前、僕らは英国に居るゴードン・マレーにリモート・インタビューする機会を得た。訊きたいことはいくらでもあるが、時間は限られている。ならば本題から入るべきだろう。


なぜ今、なぜ再びスーパーカーなのですか? それが知りたいです。


かつてのマクラーレンF1のように、ドアは甲虫が翅を広げるように上方へ跳ね上がる。ルーフ・ラインからなだらかに連なるエンジン上の部分も同じように中心線を支点に上へ左右が跳ね上がるように開く。左右後輪前方の荷物スペースへのアクセス・リッドを兼ねている。ルーフ上にラムエア圧を利用するエンジン用新気取り入れ口がある。

「2017年、私はカー・デザインに携わって50周年を迎えたんだ。年初に思ったんだよ。我々は何かそれを祝うことをやるべきだって。で、11月にエキシビジョンをやることにした。親しい人たちに招待状を出してダンスフォールドにある我々の会社の建物のひとつに、僕が持っている42台のクルマ、レーシングカーを一堂に会して楽しんでもらったんだ。そこで色々な人と話したら、予想もしなかったほどにマクラーレンF1が話題に上ったんだよ。そこで考えた。あのクルマ以後、数多のスーパーカーが登場した。もっと有能でなんでもできるクルマ、もっとスピードの出るクルマとかね。でもそのどれひとつとしてドライビング・エクスペリエンスに焦点をきりきりと合わせ込んだクルマではないんだ。


そんなことだから、マクラーレンF1が出てもう30年近く経つのに、いまだにあのクルマを運転した体験が最高だっていう人がたくさんいるんだと思う。なんでこんなことになっているのか考えたよ。スーパーカーを作っている連中は皆、肝心なこと、正しい答えに辿り着くための公式が分かっていないんじゃないか。あるいは大きな会社組織では、役員とかなってるし、スタイリングはどんどん複雑になってきている。ウイングみたいなものがあちこちに付いていたり、穴だらけだったり、ひどく装飾的だったり。思うにライバルとの競争がクルマを形作っている。それじゃ時の検証に耐えるものは作れないよ。すぐに廃れてしまう。だから、もう一回、本当に素晴らしい、運転する喜びに焦点を合わせ込んだクルマを、われわれが作って、それを望む人の声に応えるべきなんだって考えたんだ。


装飾的であることを徹底的に排除しながら軽量化を優先しているにもかかわらず、いかにも上質な仕立であることが如実に伝わってくる室内。運転席は中央配置。3人の大人が掛け値なしに快適に過ごせる空間が確保されている。会ってみれば分かるが、マレー氏はかなりの長身なのだ。

T.50は最後の偉大なアナログ・スーパーカーだよ。ハイブリッドでもエレクトリックでもない。2tのスポーツカーなんて、そんなもん全部忘れちゃえばいいのさ。アナログなスーパー・レスポンス自然吸気V12をぶん回してライトウェイト・スーパーカーでドライビング・ハイに興じるのさ。だから、理由は2つだよ。50周年を記念すること。そして、もうひとつ、ドライビング・エクスペリエンス追求に特化した真のドライバーズ・カーを世に問うだけの余地がそこにあるということだな。



目標としたのは、マクラーレンF1より軽く、重心はもっと低く、美しいタイムレスなスタイリング、そして、究極のドライビング・エクスペリエンスが得られる。そういうクルマを作ることさ。マクラーレンF1より優れたクルマを作るのに僕は適任だよ。誰よりもそれをよく知っているからね。さらに加えるなら、スーパースポーツカー愛好家のなかにはマクラーレンF1を運転した経験のない若い人がたくさんいるんだ。45歳以下の人にとってはマクラーレンF1を手にするチャンスすらなかったわけだし。年齢からいってね。年齢層を問わずとも運転したことのない人はたくさんいる。でも、いまマクラーレンF1を手に入れようと思っても、価格が高騰して、いまや2000万英ポンドとかになっちゃってるから難しいよね。こうした諸々が、なぜ今なのか、なぜスーパーカーなのかという問いへの答えだよ」 


いつの間にか髪も髭もグレーになっていたマレー氏は、立て板に水のごとく説明してくれた。ゴードン・マレー・オートモーティヴ社が送り出すT.50の核にあるものは、その答えのなかに歴然としている。究極のドライバーズ・カーを作る。間違いなく超絶級のものとなるはずの動力性能やコーナリング性能は、それ自体が目的ではないのである。


大きなアップ・スウィープをもつリア・ディフューザーから分かるように、ダウンフォースは床下を流れる気流を利用したグラウンド・エフェクト(対地効果)で得ている。リア・エンド上部の大きなファンは、速度依存性が通常は不可避的なグラウンド・エフェクトを積極的に可変型とする役目を担う。サクション・ファンの働かせ方によって、ダウンフォースを増減制御可能という。マクラーレンF1の開発時も試みたかったそうだが、当時は風洞がフォーミュラ・ワンでフル稼働状態だったために満足に使えず、諦めたそうだ。T.50にウイングの類は大小を問わず備わらないが、床下には可変フラップがあり、リア・エンド後端上縁部分は電子制御で立ち上がるスポイラーとなっている。エンジン排気口はファンの左右に開口する。

自然吸気V12後輪駆動で1t!

では、T.50のあらましを見ていこう。リア・ミドシップに縦置きされる心臓はコスワース社がオーダーメイドで手がけた4.0ℓの自然吸気V型12気筒エンジンだ。Vバンク角は65度。明快なショート・ストローク型で、許容上限回転数はなんと1万2100rpm! 最高出力は663㎰/1万1500rpm。比出力は166㎰/ℓと驚異の値を示す。最大トルクは47.6kgm/9000rpm。しかし、その71%が僅か2500rpmから得られるという。もちろん潤滑はドライサンプ式。カムシャフト駆動系も含めて補機の駆動はすべてギア式と、レーシング・エンジンさながら。単体重量は僅か178㎏しかない。エンジン前端にはクランクシャフトとギアを介して繋がる大型のISG(スターター一体型発電ジェネレイター)が付く。反対側のエンジン後端に組みつけられるのは、エクストラック社が専用開発した横置き式6段マニュアル・ギアボックス。当然、左脚によるクラッチ操作が必要になる3ペダル式となる。MTの利はその軽さにあり、80.5㎏しかない。クラッチは複合材を使ったトリプル・プレート型だ。駆動輪は潔く後輪のみ。トラクション・コントロールやESPの備えはあるが、これも任意でカット・オフ可能という。


ヘッドライトの造形もカバー形状ともどもシンプル。
ノーズに付くゴードン・マレー・オートモーティヴのエンブレムは、マレー家の氏家紋からとった人魚がモチーフ。
設計開発はゴードン・マレー・デザイン社。

かつてのマクラーレンF1と基本理念は変わらず、だから、クルマ全体の構成も軌を一にする。センター(というよりフルに近い)モノコックと外板はオートクレーブで焼くCFRP製で、これの後部隔壁にパワートレインをマクラーレンF1の時と同じように半剛結して振動を巧妙に遮断しながら、パワートレインを応力担体としている。ここにリア・サスペンション・アームが直接取り付けられる。サスペンションは前後ともにアルミ鍛造パーツを使うダブルウィッシュボーン式で、リアにはトー・コントロール・アームが加わる。シンプルに徹した構成だ。ただし金属スプリングと同軸ダンパーを作用させるのは前後とも上昇レートを可能にするプッシュロッド式となっている。


シート配置は運転席が中央配置の3座式。クルマとの完全なる一体感を希求する理念ゆえだ。変速機はMTだから、3ペダルで、運転席右側にHパターン列の導線をもったシフトレバーが生えている。だからといってT.50は、スパルタン一辺倒のクルマなどではない。さすがはロック・ミュージック愛好家のマレー氏だから、10スピーカー式専用オーディオが備われば、エアコンももれなく付いている。ドアは甲虫の翅のように開くダイヘドラル式だ。


T.50の車名は、マレー氏が手がけた50台目のプロジェクト、カー・デザイン歴50周年の意が込められている。
V12は超高回転自然吸気エンジン開発で人後に落ちないコスワース社。
サスはプッシュロッド式である。

高速が出せるスーパースポーツカーに必須のダウンフォースを産むのは、車体後部に備わる直径40㎝の電動式大型サクション・ファンを空力系に組み込んで、単純な速度依存型から脱却した可変型グラウンド・エフェクト設計で、ファンの回転速度を司るのは6つのモードを持った電子制御システムである。あのブラバムBT46Bを設計したマレー氏ならではだ。目立つ空力付加物はこのファンのみである。


乱暴にかい摘むと、概要は以上おしまい、である。驚くべきは、日常に使える完璧な実用性と、究極のドライビング・エクスペリエンスを実現するための峻厳とでもいいたいほどに妥協なき軽量設計の両立にあるというべきだろうか。 


最後にマレー氏の一言で締めよう。


「運転を終えてクルマを離れる刹那、思わず振り返りたくなるのが、真に素晴らしいクルマの証なんだ」


ゴードン・マレー 1946年生まれ。フォーミュラ・ワン好き、あるいはスーパースポーツカー好きならば、その名前を知らないということはないだろう。南アフリカ出身の英国人。レースの世界の最高峰を目指し渡英。1969年にブラバムF1チームのテクニカル・ディレクターに就くと数々の傑作をものにし、奇才としてその名を馳せた。とくにBT44BやBT49シリーズ、さらにはBT52といった駿馬は記憶に焼きついているのではないか。1981年と1983年にはネルソン・ピケを世界チャンピオンに押し上げた。その後、低全高低重心のコンセプトに取り組むも最高の成果を挙げることは叶わず、1987年にマクラーレン・レーシングに移籍。そこで低重心コンセプトを見事開花させて、TAGターボ(ポルシェ)からホンダに搭載エンジンが切り換わった1988年にはMP4/4で16戦15勝という前人未踏の記録を打ち立てた。その後のMP4/5やMP4/5Bにもマレーの知見が活かされていた。アイルトン・セナやアラン・プロストにドライバーズ・タイトルをもたらしたマシンたちである。マレーは1990年に自身が設計したF1マシンが通算50勝に達したのを機にF1界を去り、市販ロードカーを開発製造するマクラーレン・カーズ・リミテッドの設立に尽力した。そこであの奇跡のような究極のスポーツカー、マクラーレンF1を生み出したのだった。2005年にマクラーレン・カーズを離れたマレーは2007年に自身の会社、ゴードン・マレー・デザインを設立してさまざまな設計開発プロジェクトに携わり、あるいは自ら発信者として新しいコンセプトを提案してきた。

■GMA T.50


駆動方式 リア・ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4352×1850×1164㎜
ホイールベース 2700㎜
トレッド 前/後 1586/1525㎜
車両重量〔乾燥重量〕 986㎏〔957㎏〕
エンジン形式〔重量〕 自然吸気65度V型12気筒DOHC 48V〔178㎏〕
総排気量 3994㏄
ボア×ストローク 81.5×63.8㎜
最高出力〔許容回転数〕 663㎰/11500rpm〔12100rpm〕
最大トルク 47.6kgm/9000rpm
変速機〔重量〕 横置き6段MT〔80.5㎏〕
サスペンション 前後 ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCM-R)
タイヤ 前/後 235/35R19/295/30R20
車両価格(英国課税前) 200万英ポンド以上(約3億円以上)


文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=Gordon Murray Automotive


(ENGINE2020年11月号)

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