2020.11.21

LIFESTYLE

三角の敷地に建つ三角の家 光と影のリビングルーム

1階は大きなワンルームで中央部に柱がない。正面のボックスには、トイレ・収納などが。リビングを65㎝下げたのは、縁に人が腰かけることを想定して。犬用に追加で階段を設けた。畳の部屋の下部は収納。50代の家作りなので、将来の親との同居時への工夫も。

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三角の敷地「へた地」に建てられた三角の家。複雑な採光のおかげで居心地のいいリビングが生まれた。建築家の自邸は面白い。

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建築家の自邸は本当に面白い。クライアントに気兼ねすることなく自身の理想を実現できるうえ、試してみたかった実験的な試みも盛り込めるのだから。しかもメディアで紹介された際の宣伝効果が大きい。人の目を引く個性的なものが多いのも当然だろう。もっとも多くの建築家は、勤め人同様に予算の上限がある。そこをどう折り合いをつけるかも腕の見せ所だ。そうした面も含め、建築家である下吹越武人(しもひごしたけと)さんの自邸は非常に興味深いものである。

竣工から2年たち、植栽は大きく育った。


写真から分かるように、下吹越邸の1階は巨大なワンルームだ。しかも形は三角形である。三角の敷地に合わせて設計されたから、この形になった。家の前を通るのは、近年の都市計画で作られた一本の真っ直ぐな道。その向こうは、低層の新しいビルが幾つも建つ公園街区だ。この敷地は、その直線道路を通す際に残ってしまった、「へた地」と呼ばれる種類の土地である。

リビングの向こうに東側の庭が見えるので、面積以上に広さを感じる。


大抵家は四角く建てられる。以前この場所に建っていたのも、四角を組み合わせた家だった。そのため、上手く土地が利用されていなかったという。偶然ここをネットで見つけた下吹越さんは、「建築家なので、逆にこの敷地であれば、より個性的な家を建てられる」と手に入れた。そして解決策が三角形の家だったのである。ただし、単純な三角形ではない。中央部にある正方形をした2階建て部分に、3つの三角形の吹き抜けを結合させたレイアウトなのだ。


天窓から太陽光が入るダイニング・キッチンは、明るく心地よい空間。キッチンはできるだけ小さく設計。食器用の木製のキャビネットや壁の照明の使い方など、下吹越家の美意識が感じられる。


1枚目の写真だと、左奥の下吹越さんと奥さんの里美さんがいるダイニング・キッチン部と、右のらせん階段がある玄関ホールが三角形の部分にあたる。隣家との距離が近く南に大きな窓を設けにくい土地なので、この三角形の上部や側面、さらに途中に入れたスリットから光が入ってくる仕組みだ。そして畳の部屋と、そこから一段下がったリビング、中央のトイレや収納があるボックス部分が中央の正方形にあたる。天井は高く、大空間の木造住宅にもかかわらず、家の中央部に大黒柱は存在しない。ボックス部分も天井と接しておらず、柱は家の周囲に8本あるだけ。よく練られた構造が家を支える仕組みになっている。もちろん建物の外観も幾何学的。下吹越さんがこれまで手掛けた中でも、群を抜いて個性的な家である。想像の通り、施工は楽ではなかったそうだ。


植栽の裏にあたる半屋外の東部の庭。窓のある正面が正方形の部分で、手前の天井との間にスリットが入っている。備え付けの照明を点けてビールを飲みながら読書することも。

初めての一軒家で


この家に移るまで、下吹越さんたちは建築事務所まで歩いて数分の、都心のど真ん中のマンションで暮らしていた。一軒家を建てることになったのは、お嬢さんが犬を飼うことを強く希望したから。そしてやってきたのが、イタグレのルーク君である。細く長い美しい脚が自慢だ。もっとも下吹越さん夫婦は犬を飼った経験がなく、共同生活が始まると多くの予想外のことが。その経験は今後の家作りに活きるはずだ。


もうひとつ下吹越さんたちが一軒家暮らしで楽しみにしていたのが庭である。もっとも一般的なそれではなく、この家における「庭」は、吹き抜けとなった三角形のエリアを指す。たしかにこのゾーンは天井が高く、広くて光が入って明るく、一般的なマンションの「部屋」とはけっして同じレベルのものではない。特にキッチン・ダイニングのある西側の庭は、窓の向こうはすぐ隣家の壁だが、天窓からの光が白い壁に反射し、屋外よりも明るさを感じる空間だ。そこから扉なしに続く北側の庭は、らせん階段のある玄関ホール。ハイサイドライトから明るい光が降り注ぎ、余白のある空間が、オリジナルで製作したらせん階段の美しさを引き立てている。


美しいらせん階段は、実験的に極限まで細くした柱で作ったもの。


この二つの庭は屋内にあるが、東側の庭は、三角形と正方形の間にスリットが入った半屋外の空間。このスリットを入れるアイディアを出したのは奥様である。下吹越さんの事務所で働いているが、建築家ではない。構造を優先させる建築家では、なかなか思いつかない発想だ。しかもその庭の一部には、個性的な植物が植えられている。床を下げたリビングのソファーの目線と同じ高さにある緑がなんとも心地よい。


この家で最も日当たりが良いのは、南に面した2階のバスルーム。西側の吹き抜けからも光が入るように工夫されている。隣家の窓の位置を調べ、特等席にバスタブを置いた。


この家に暮らし始めて、面白いことも分かった。リビングと東の庭の間のガラス戸を開け放っておくと道行く人の話し声が壁で反射し、数段大きくなって家の中に届くのだ。マンション時代は体験することのなかった、街で暮らす人々の気配を下吹越さんたちはこの家で楽しんでいる。


幾何学的な造形が印象的な外観。

クルマは外見? それとも


敷地内のちょっとしたスペースにまで植物を植えているにもかかわらず、玄関脇のスペースをコンクリートのパーキングとしたのは、下吹越さんがクルマ好きだからに他ならない。学生の頃はいすゞ117クーペに乗っており、走りの気持ちよさをよく覚えているそうだ。今の愛車のアルファ・ロメオ159(2008年型)には5年間乗っている。建築家という仕事柄、ちょっと離れた現場に赴くのにクルマは欠かせない。その前は、ミニに乗っていた。都心の狭い駐車場にも停められるうえ、走るとゴーカート的で楽しかった。乗り換えたのは、これまたお嬢さんが4ドアのクルマを希望して。調査を重ねたうえで実際に試乗し、運転して楽しいクルマとして選んだのが159である。最初はアルファ党でなかったが、オペラに例えられることもある官能的な魅力が少しは分かるようになったと話す。


二階の寝室も、大きなワンルーム。手前が高校生のお嬢さんのエリア。カーテンで仕切れ、個室として使うことも可能。


もっとも奥様からは、「シトロエンDSとか、ジャガーEタイプのような、ルックスの良いクルマが良かった」とも。そこを、「クルマは実用面も重要」と返す下吹越さん。この家は、そんな二人が作ったものである。一見デザイン重視のようでありながら、暮らしやすさを建築のポリシーとしているという下吹越さん。クルマ選びにも、どこか共通する点があるように感じたものだ。だから建築家の自邸とクルマは面白い。



■建築家:下吹越武人 1965年広島県生まれ。横浜国立大学大学院修了後、北川原温の事務所を経て独立。快適でシンプルが設計ポリシー。個人住宅の他に、集合住宅、中高層ビルを数多く手掛ける。また、ランドスケープデザインも。法政大学の教授として後進の指導も行う。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2020年12月号)

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