アストン・マーティンのフラッグシップ、DBSとツーシーター・スポーツのヴァンテージに乗り、英国流スーパースポーツカーのエッセンスを考える。
西川 やっぱりアストン・マーティンってGT色が濃い。ヴァンテージはそれでもスポーツに振っている方だったけど、DBSスーパーレッジェーラは豪華で逞しいGTだった。
山崎 ヴァンテージはデビューしたときに乗った個体と比べてかなり洗練されたような気がするな。
西川 そう、けっこう感じが違った。当初はもっとスポーツカーしていたと思う。この前、京都まで乗って帰ったんだけど、とてもしなやかな、そういう意味では良いGTでした。
山崎 そうやってデビュー時に鮮烈なイメージを植え付けておいて、後は徐々に変えるのかなぁ。
西川 そこまで戦略的ですかね。
村上 というよりむしろ、我々メディアやユーザーの声に真摯に対応しているだけだと思うけどなぁ。
山崎 ランニング・チェンジを怠らないってのは、ありますよね。
村上 先代のV8ヴァンテージもそうだったよ。13年も造ったから、最後は別モノになっていた(笑)。
西川 最近とみにそう思うんですけど、この手の専門的なスポーツ・ラグジュアリー・ブランドって、徹底的にマーケット・インじゃないかと。プロダクト・アウトのように見えて、その実、カスタマーの声を日々必死になって拾っているというか。
山崎 フェラーリが実はそうだからね。アストン・マーティンも最近ではサーキット・プログラムなどにVIPカスタマーを呼び込んで、生の声を聞いている。
西川 そこで得た情報を、できるだけ早く生産車に反映させる。時をおかずに。そうすれば客はたとえ同じクルマでも買い換えてくれるから。
荒井 徐々に完成していく感じ。
村上 それはそうと、今日この2台を乗って改めて思ったことは、アストン・マーティンってやっぱりカッコいいな、ってことだよね。
山崎 シンプルにカッコいい。
西川 誰が見てもカッコいい。
荒井 文句なしにカッコいい。
村上 どうしてあんなにもカッコ良く見えるんだろうね。
山崎 黄金比ってやつじゃない?
西川 クルマのカタチって真横で決まるって思うんだけど、カッコいいクルマをバランスよく描くと、だいたいアストン・マーティンになる。
山崎 タイヤとキャビンの位置関係とかね。あとはやっぱりマレク・ライヒマンの才能でしょう。
西川 なかでもDB11は最高です。
村上 パーフェクト。驚くよ。だから逆に言うと、12気筒を完全にフロント・ミッドに置こうという発想にはならない。性能かスタイルか、となれば、アストン・マーティンにとってはやっぱり美しいクーペ・スタイルありき、なんだよね。
山崎 一方で“我々だって性能を重視することもできるよ”ってOne77のような限定車も造りました。
西川 アレは完全にフロント・ミッドでしたね。当時の12 気筒モデルより10cmも低く25cmも後ろにエンジン積んでましたから。
村上 カタチ的にもちょっとアストン・マーティン離れしていたし、One77は完全にスーパーカーだ。
山崎 見るからに速そうだったし。
西川 異形のアストン・マーティン。
村上 それに比べると今日乗ったDBSスーパーレッジェーラは、確かにスーパースポーツカーかもしれないけれど、西川流スーパーカーの範疇には入らないってことだね。
西川 スーパーGTかな。
荒井 内装のステッチがすごかった。アバンギャルドというか。
山崎 英国車に独特だよね。そんなアストン・マーティンもこれからミドシップ・モデルを投入します。
村上 デザインのアストン・マーティンという話ではなくなりそうかな。
西川 シンプルにカッコいいでは飽き足らず、乗ってみたいと思わせるような空力コンシャスなミドシップ・デザインをアピールしてきた。それでどうブランドのイメージが変わっていくのか。興味深いですね。
村上 とはいえ現在のラインナップでも独特な乗り味のクルマばかりだと思うよ。エンジンなんて、まるで色気がないじゃない?
山崎 それも英国車の特徴かも。
西川 伝統的に英国車のエンジンって、高性能だけど丈夫で長持ちというイメージがある。
村上 見た目にはあんなにエレガントなのに、エンジンはそうじゃない。
山崎 少なくとも繊細ではないよね。
西川 その分、長く使えるというか。コスワースのDFVエンジンとか思い出すと、英国車のエンジンって官能ではなく性能重視だなと。
山崎 随分と長く使っていたものなぁ、前のV12エンジンだって。
西川 一度造ったエンジンを長く使うっていうDNAがあるのかも。
山崎 今日ヴァンテージに乗ってみて最も印象的だったことは、スポーツカーには最適なサイズがあるってこと。今、どのジャンルもどんどん大きくなっていく中で、箱根で乗ったヴァンテージはともかくジャスト・サイズだった。
西川 馬力で勝負しないってところもオトナだなと。500馬力ちょっとでしょう? それって20年前くらいに衝撃的だった出力ですよ。さっきの話じゃないけれど、妙にエンジンにこだわらず、あくまでもパッケージングで堂々と勝負している。
村上 その分エモーショナルではないかもな。それが英国らしさというか。それで思い出したんだけど、デザインの世界でイギリスのものって“ドライ”って表現するんだよ。
西川 機能優先ってことですか?
村上 いや、ちょっと違って、なかなか表現しづらいんだけど、割り切りがあって、しかもエキセントリックであるというか。イギリスのお札って派手で色とりどりなんだけど、あれが“ドライ”っていうらしい。
山崎 突出している、ですかね。
村上 イギリス人って野蛮と洗練が同居しているとか、いろんな言い方するけど、アストン・マーティンに乗るとなるほどそうだな、これが“ドライ”っていうことだな、って妙に納得する。
山崎 音は派手だし……。
荒井 内装なんかを見ると、スーツの裏地が派手なジェントルマンというイメージがある。
村上 最近のは乗るとかなり洗練されている。工業製品としても、昔に比べて随分と親切になったというか。
山崎 メルセデスAMGからのいい影響を受けて、これから益々良くなると思いますよ。
村上 もっともっと乗りやすくなるだろうね。その一方で、昔のアストン・マーティンのイメージもあって、そこにミドシップ問題も絡んで。
西川 とても興味深いです。老舗ブランドゆえ、昔からのファンも未だ多い。決して美しかった時代ばかりじゃない。無骨だった時代もありました。そういうのを繰り返すのもまた英国ブランド故なのかな。
荒井 そうだと思う。で、一度決めたら頑固にやりぬく。ぶれない。そこはいかにも英国風。ミドシップだって三兄弟をいっきに出す。
村上 でもさぁ、考えれば考えるほど、アストン・マーティンの魅力ってやっぱりスタイル、なんだよなぁ。
荒井 あまりに美し過ぎて、目立たない気もするけれど。
西川 みんながカッコいいと思うデザインだからですかね。美し過ぎるとかえって冷静になっちゃう。
山崎 とはいえ、そこはこれからも変わって欲しくない気もするね。
西川 美しくて野蛮、みたいな? イギリス人らしい。正に007。
村上 タキシードを着たタフガイ、だよね。アストン・マーティン……。
西川 やっぱりいい響き。
山崎 名前だけで痺れるよね、もう。
■アストン・マーティン・ヴァンテージ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4465×1942×1273mm
ホイールベース 2704mm
車両重量 1730kg
エンジン形式 V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量 3982cc
最高出力 510ps/6000rpm
最大トルク 685Nm/1800~5000rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40ZR20 295/35ZR20
車両本体価格 2056万円9000円
■アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4712×1968×1280mm
ホイールベース 2805mm
車両重量 1910kg
エンジン形式 V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量 5204cc
最高出力 725ps/6500rpm
最大トルク 900Nm/1800~5000rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 265/35ZR21 305/30ZR21
車両本体価格 3567万8073円
語る人=西川 淳(まとめ)+山崎元裕+村上 政(ENGINE編集部)+荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=神村 聖
(ENGINE2020年12月号)
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