スタッドレスタイヤを履いたジャガーIペイスで、雪を求めて新潟まで日帰りのショート・トリップの後編篇。
ジャガー・ジャパンのキャンペーンを知ってノキアンタイヤのハッカペリッタR3 SUVというスタッドレスタイヤを装着した89号車のリポート。キャンペーンの内容は前篇をご覧頂くとして、後編の今回はそのスタッドレスとIペイスの雪上性能をお伝えしようと思う。スノー・ロードを求めて北上した89号車が目指したのは新潟県妙高市。早朝東京を出発し、午後3時、妙高高原ICに到着。ここではじめて走行モードを電力消費を抑えるエコからAdSRに切り替えた。スキー客に混じって、雪の登り坂をそろそろと駆け上がる。気温は0℃以下。積もった雪の下が凍っていてもおかしくない。雪、氷、水の三拍子がそろった、いかにも日本の冬にありがちな劣悪な環境だ。
最初こそおっかなびっくりだったが、まわりの流れにそって走っている限り、ノキアンタイヤが空転したり、滑り出す気配がまったくないことが、すぐにわかった。発進時やコーナリング中にわざと強めに右足を踏み込んでみても、モーターの回転がすっと自然に抑えられ、姿勢が乱れる気配すらない。試しに走行モードをダイナミックにしても、ステアリングが重くなるだけで、右足の動きに対する反応はほとんど変わらない。
ひとけのない駐車場で姿勢制御安定装置のボタンを長押しし、電子制御の介入を減らしてみる。数年前、ジャガーFタイプの4WDモデルで定常円旋回をしたのを思い出したからだ。いくらテールをスライドさせようとしてもガンとして滑り出そうとしなかったのに、ボタン1つでまるで後輪駆動モデルのように右足の操作に呼応し、ぐいぐいと向きを変えるようになる。試して見ると、89号車もやはり同じだった。すぐに雪を掻き上げてしまい、タイヤのグリップが回復するから長い間スライド状態は保てないけれど、自在に向きが変えられるのはFタイプそっくり。しかも反応は、Fタイプより機敏なくらいだ。
雪道を楽しんだ後は山を降り、上信越自動車道と並行して走る18号を北上し、道の駅あらいを目指す。ところが10分も走らないうちに雪はやみ、路面もべしゃべしゃのシャーベット状に早変わりした。ラジオから流れる高速道路情報によれば、積雪による速度規制こそ出ているものの、通行止めの気配はない。道の駅あらいに着く頃には、すっかり車体についた雪も溶けて消えてしまった。ここで89号車は充電を、我々は早めの夕食にありつくことにした。
食事を終え、2度目の充電をしようかと話しながら89号車に戻ると、雪の量が一気に増えていくことに気がついた。あたりのクルマは、まるで雪だるまだ。バッテリー残量が8割ほどあるのを確認し、車体の雪を払って大急ぎで上信越自動車道に入ると、そこは今まで体験したことのない、風と雪と暗闇の世界だった。
路面は真っ白の新雪。吹き寄せる雪で、ワイパーの速度を最大にしても前が見えない。前走車がいるうちはまだよかったが、片側2車線あるはずなのに、どこが中央線で、どこが路肩なのかが、次第にわからなくなっていく。ドライ路面でも感じていたが、ノキアンタイヤの直進性の高さが、この時ほどありがたいと思ったことはなかった。
新井スマートICからわずか50km。1時間以上かけて黒姫野尻湖SAに辿り着いた瞬間、肩で大きく息をついた。肩の力が抜けて、はじめて自分が思っていたよりずっと緊張していたことに気がついた。時刻はまだ6時だったけれど、まるで長い長い真っ暗な道のりを、一晩かけて延々走ってきたような気分だった。
万一事故で道が塞がれたら、あっという間に立ち往生したに違いない。89号車のバッテリー容量なら、シートヒーターだけを使って暖を取れば、おそらくかなりの時間を過ごすことはできる。内燃機関のクルマのように、一酸化炭素中毒を防ぐためのマフラーの除雪も必要ない。こんな状況下でもEVにはEVの、内燃機関のクルマには内燃機関のクルマのメリットがある、と僕は思う。だけど、電気を使い果たしたらEVはすぐには何もできなくなってしまう。結果的に交通の流れを乱す恐れがないとは言い切れない。
無事自宅へ戻ったのはスタートから16時間後。600kmの道のりを電力の余裕を見て走りきるには、最低5回の充電が必要だった。それにしても、あの時の雪の降るスピードは、今思い出してもぞっとする。備えあれば憂いなし、ということで、魔法瓶にインスタント食品、毛布に携帯トイレといった用意したサバイバル・キット一式は、この冬そのまま89号車の荷室に載せておくことにした。
ジャガーIペイスとノキアン・ハッカペリッタR3 SUVで行く雪道は安楽で快適で、そしてEVのスノー・ロードにおけるスポーツ・ドライブの可能性を感じられるものだった。けれどいっぽうで、あらためて自然の恐ろしさを再認識させられた。EVならばもちろん、そうでなくても、冬のドライブは入念な準備と、情報収集と、時には撤退する勇気をお忘れなく。ゆめゆめ雪道を侮ることなかれ。
■89号車/ジャガーIペイスHSE
JAGUAR I-PACE HSE
新車価格 1183万円(OP込1365万9000円)
導入時期 2020年6月
走行距離 2万1651km(スタート時1万809km)
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人
(ENGINEWEBオリジナル)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.19
WATCHES
エンジン時計委員、菅原茂のイチオシ 世界限定1200本! グランド…
2024.11.01
CARS
これは間違いなく史上最速のウルスだ! プラグイン・ハイブリッドのウ…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.15
自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
2024.11.15
GR86の2倍以上の高出力 BMW M2が一部改良 3.0リッター直6ツインターボの出力をさらにアップ
2024.11.16
ニスモはメーカーによる抽選販売 日産フェアレディZが受注を再開するとともに2025年モデルを発表
2024.11.20
抽選販売の日時でネットがざわつく 独学で時計づくりを学んだ片山次朗氏の大塚ローテック「7.5号」 世界が注目する日本時計の傑作!