アウディ初の量産型電気自動車として2020年に日本での販売が開始されたe-トロン。アウディが掲げる電動化戦略の名称をそのまま車名に持つSUVスタイルのEVだ。当初のラインナップはクーペ・スタイルのスポーツバックに設定された初回限定車のみだったが、2021年1月にモーターの出力や電池の容量を落とす代わりに安価な価格設定にした通常販売モデルいわゆるカタログ・モデルの50クワトロを導入。今回試乗するのはその50クワトロで、初回限定車にはなかった普通のSUVボディ仕様となる。
2018年の夏、オランダからトルコ、イラン、中央アジアを経て、とんでもなく厄介なイルケシュタム峠の国境を越えてキルギスから陸路中国に入国した私たちは、天山山脈東部のオアシス都市トルファンのホテルに到着した。
驚いたことに、その広い駐車場は様々なテストカーで埋め尽くされていた。それこそ吉利や見たこともない中国ブランドから欧州勢まで、ほとんどがいわゆる電動車だったが、中でも目を引いたのはアウディe-トロンの各種プロトタイプだった。しかもほとんど偽装もされていない。
近くにいたドイツ人らしき若者に話しかけると、やはりそうだった。今やデスバレーではなく、中国の新疆ウイグル自治区の砂漠地域がヒートテストのメッカになっているらしく、ここ何年も夏の間の3ヵ月はトルファンに滞在するのだという。最初は警戒していた彼も、私たちがオランダからからクラシック・ボルボでシルクロードを辿って北京を目指す途中であると知ると、緊張を緩めて話してくれたのだ。1台だけ厳重にカバーされていたのはその低さから見てアウディe-トロン GT(つい先日発表されたタイカンの兄弟車)に違いなかった。その1か月後後に正式発表されたのが、アウディ初の市販BEV「e-トロン・クワトロ」である。
日本には2020年9月にまずクーペSUVの「e-トロン・スポーツバック55クワトロ」がベース・モデルになる初回限定車の「e-トロン・スポーツバック1stエディション」が先に導入され、年が明けてからSUVの「e-トロン50」が発売された。e-トロン 50クワトロの搭載バッテリーは71kWhで、先発のe-トロン・スポーツバック1stエディションこと55クワトロの95kWhと比べて小さく、WLTCモードの航続距離も316kmと55クワトロの405kmより短く、いわばベーシック仕様だ。その分価格もリーズナブルだが、それでも1000万円に近い。スポーツバック55クワトロが前170ps(125kW)/後190ps(140kW)の2基の非同期モーター(引きずり抵抗が小さい代わりにコスト高)で通常時は計360ps(265kW)と561Nmを生み出すいっぽう、50クワトロの合計出力&トルクはそれぞれ313ps(230kW)と540Nm、ちなみに55クワトロは短時間ながらブーストモードで408ps(300kW)と664Nmを発生し、その場合の0-100km/h加速タイムは5.7秒。ただし、最高速は200km/hに制限される。一方それが備わらない50クワトロは6.8秒と190km/hという。ちなみにモデル名の数字は最高出力のレベルに合わせた現行アウディの統一表記法で、「50」は210~230kW。「55」は245~275kW、そして「60」は320~340kWであることを示す。
アウディe-トロンの特長をひと言で言えば、自動車としてきわめて洗練されていることだ。2.4トンもあるヘビー級ながら、ゆっくり走る際の扱いやすさ、ブレーキやアクセル・ペダルの自然なレスポンスと滑らかな操作感、フラットでスムーズな乗り心地はEVでもまずアウディであることを主張しており、さらに機械としての安定性、耐久性について万全の対策を施していることもポイントだ。600km近い航続距離を豪語するテスラ・モデルSロングレンジに比べて、後発モデルなのにアウディもポルシェもその程度か、と考える人がいるかもしれないが、これは考え方の違いである。
たとえばe-トロンは冷却性能に徹底的に配慮されており、バッテリーはもちろん、前後のモーターにもクーラント冷却剤が循環している。e-トロンは最大150kWでの直流急速充電にも対応しているが(約80%充電まで30分、ただし日本仕様は50kW)、その場合にも冷却は欠かせないため4系統の冷却システムが備わり、常時バッテリーに最適な25℃から35℃に保つという(テスラは情報公開に消極的なので詳細は不明だがモーターには冷却システムが備わらないはず)。トルファンでのテストは伊達ではない。「ウチのは何度でもフル加速できます」と海外試乗会で話を聞いたエンジニアは胸を張っていたが、いかにも高速走行が必須であるヨーロッパ車らしい設計といえる。
パワーユニットがどんなものであれ、あるいは自転車でもそうだが、スロットル・ペダルから足を離した場合の滑らかな“空走感”こそ高級車の証ではないかと思う。
e-トロンはスイーッと速度が落ちることなく滑らかにコースティングする。これだけのサイズのボディ-を持ち、太いタイヤを履くSUVとは信じられないほど、惰性でどこまでも転がって行くようで、回転部分の精度の高さ、徹底的なエアロダイナミクス処理をうかがわせる。
右足ひとつで運転できる「ワンペダル・ドライブ」が電気自動車の特徴ではないのか、それじゃエネルギー回生ができないじゃないか、との反論も聞こえそうだが、もちろんそれをアウディが見落とすはずはない。コースティングするか、回生ブレーキを作動させるかは、モード設定と周囲の交通環境(ミリ波レーダーが先行車を感知した場合など)に応じて変化する。さらにステアリング・パドルで回生ブレーキのレベルを3段階に切り替えることもできる。ブレーキ・ペダルを踏み込んでも0.3G相当までは通常の機械式ブレーキは作動せず、回生ブレーキのみが働くという。とにかく念入りに考えられているのだ。アウディによれば車速が70km/hを超えると、転がり抵抗など他の要素よりも空気抵抗が一番の課題になるという。
また、ご存知のように、高速走行時の相対的な効率の低さが電気自動車の弱点のひとつである。それを克服するための鍵となる技術が回生制御とエアロダイナミクスである。eトロンはアウディQ5よりひとまわり大きなサイズのSUVにもかかわらず(テスラのモデルXより若干小さい)、バーチャル・エクステリア・ミラー(オプションだがこれには賛否両論あるはず)を装着したeトロンのCd値は0.27(一般的なドア・ミラー装着車は0.28という)と非常に優秀だ。もちろんそれだけではなく、アンダー・フロアは完全にフラットな上にエア・サスペンションは120km/h以上の高速になると車高を26mm低めるという(車高を上げるオフロード・モードもあり)。さらに上下ふたつに分かれたグリル開口部の奥には条件に応じて制御されるシャッターが設けられおり、空気抵抗の低減と冷却能力の確保をコントロールする。
もう2年も前になるが、アブダビで開催された試乗会(モデルは55クワトロ)では砂地の上でも“クワトロ”と名乗るに相応しい戦闘力を持つことも確認している。奇抜なデザインや飛び道具的な性能ではなく、総合力で勝ちに来たのがアウディe-トロンである。新しいものをはなから拒否するほど偏狭ではないつもりだが、正直言って電気自動車びいきとは言えない私でもその出来栄えを認めないわけにはいかないのだ。
■アウディeトロン50クワトロSライン
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4900×1935×1630mm
ホイールベース 2930mm
トレッド 前/後 1650/1650mm
車両重量 2400kg
動力形式 交流非同期電動型×2
モーター最高出力 313ps/-rpm
モーター最大トルク 540Nm/-rpm
変速機 1段固定
電池 リチウムイオン電池
電池総電圧 397V
電池総電力量 71kWh
サスペンション形式 前/後 ダブルウィッシュボーン式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 255/50R20
車両価格(税込) 1108万円
文=高平高輝
(ENGINEWEBオリジナル)
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