愛らしいデザインで人気を博すフィアット500のイメージを踏襲するSUVとして登場した500X。そのスモールSUVをベースに車高を下げるなど500Xの大きな特徴であるSUVらしさを薄め、ちょっとしたホットハッチ風に仕立てたのが、この500Xスポーツだ。真っ赤なボディが眩いスモール・ハッチバックに島下泰久氏が試乗した。
「これ、いっそアバルトを名乗ってもよかったんじゃない?」
試乗していて、思わずそんな言葉が口をついて出てしまった。その出来栄え、そして愉しさは正直言って期待以上。フィアット500Xに昨年加わった新グレード、その名もフィアット500Xスポーツは、そのそっけない名前とは裏腹に、ドライバーをとてもアツくさせる仕上がりだったのだ。
アンダーガード風にデザインされたにバンパーや鉄板と樹脂でクラッディング処理されたホイール・アーチ、樹脂の色のままのサイドシルなどによって、いかにもクロスオーバーSUVらしく仕立てられたベースの500Xに対して、500Xスポーツは大きな開口部を持ち、左右のフォグランプがアクセントとなったフロント・バンパー、ボディ同色のサイドシルやフェンダー、ディフューザー風に処理されたリア・バンパーによって、重心をグンと低く見せている。
足元のタイヤ&ホイールは何と19インチ・サイズ。車高は13mm下げられ、スプリング・レートやダンパー減衰力も高められた。
結果としてクロスオーバーSUV風味は薄れて、フォルムは背の高いホットハッチとでも表現したくなる独特なものに仕上がっている。試乗車のセダクションレッドのボディ・カラーが、直球なスポーツイメージでとても良く似合う。
インテリアは、ステアリングホイールやメーター・フードにアルカンターラがあしらわれ、シートはレザー張りに。全体に黒基調で、赤いステッチがアクセントとなっている。そう、こちらもストレートなスポーツ性の表現が微笑ましい。
一方、パワーユニットには変更はない。すでに使われている直列4気筒1.3リッターのマルチエア・ターボ・エンジンは最高出力151ps、最大トルク270Nmを発生する。トランスミッションは6段デュアルクラッチ式で、駆動輪は前輪である。
走り出すと乗り心地は明確に硬く、こんなところでまで解りやすいスポーツ性は要らないけど……などと最初は思うのだが、速度が上がってくると、その硬さの中にじわりとしなやかな感触が出てくるのが解る。抑え過ぎない適度なロールで路面をなめていくこの感じ、マニアックだ。
これは楽しそうだという直感に任せて、タイトなワインディング・ロードへと足を踏み入れる。思った通りロードホールディングは上々で、やや操舵力重めのステアリングを切り込めば、ぴたりと狙ったラインに乗せていける。右へ左への切り返しも、ロール感は適切でグラリと傾いたりはしない。サイズの小ささ、取り回しのしやすさもあって、気づくとどんどんペースが上がっていく。
パワートレインもいい仕事ぶりを見せる。1.3リッター・ターボ・エンジンは1850rpmで最大トルクを発生するというスペック通り、低回転域からしっかりと力が出て、タイトコーナーの立ち上がりでももどかしさを覚えることはない。しかも組み合わせるのがデュアルクラッチ式トランスミッションなだけに、レスポンスはリニアでダイレクト。思わず踏み込むと、回せば回しただけパンチが増してくるから、ついアクセルを踏み込んでしまう。
気づくとつい走りに没頭してしまう、まさに直球のスポーツ性でドライバーを歓ばせる500Xスポーツ。走るほどに引き込まれ、引き込まれるままにアクセルを踏み込めば、更にまたクルマがしっかり応えてくれるから、愉しさが止まらない。それだけにアバルトと名付けてもいいくらいだと感じたわけだが、ともあれイタリアン・ブランドがスポーツとつくクルマを作るとなれば、ベースが何であれ期待通り、こういうクルマができるというわけだ。
■フィアット500Xスポーツ
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4295×1795×1610mm
ホイールベース 2570mm
トレッド 前/後 1545/1545mm
車両重量 1440kg
エンジン形式 直列4気筒SOHC16V直噴ターボ
総排気量 1331cc
ボア×ストローク 70.0×86.5mm
エンジン最高出力 151ps/5500rpm
エンジン最大トルク 270Nm/1850rpm
変速機 デュアルクラッチ式6段自動MT
サスペンション形式 前後 ストラット式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 225/40R19
車両価格(税込) 344万円
文=島下泰久
(ENGINEWEBオリジナル)
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