これぞデザイナーズ・コンパクトSUV、パリでも東京でもメチャ映える3台にモーター・ジャーナリストの今尾直樹氏が試乗した。
東京・湾岸エリアのタワー・マンション、略してタワマンは子育て世代に大人気だそうである。人気の秘密は、都心で暮らしながらにして海を一望できるオシャレ感でありましょうか。恐れを知らぬ若者、もしくはヤング・アト・ハートな方々向きの果敢な住居で、筆者自身はタワマンに行ったことすらないので想像するほかないのですけれど、住民の方はつまり、東京タワーとか都庁の展望台とかで暮らしているという、じつに斬新な感覚であるにちがいない。
タワマンは1997年に規制緩和の一環で建築基準法が改正となり、2000年頃からニョキニョキしはじめ、いつの間にか東京の景観を東洋のマンハッタン、もしくは香港につくり変えてしまった。筆者なんぞは、レインボーブリッジを渡って風景を眺めるにつれ、「東京ってスゴイ!」と嘆息する今日この頃である。
タワマンが近頃東京に流行る建築の代表だとすれば、コンパクト・クロスオーバーSUVは近頃東京に流行るファミリー・カーの代表である。エンジン横置きの小型前輪駆動車のプラットフォームを使ってつくられるこの実用4ドア車は、日本に限らず、世界的な流行商品だけれど、ではなぜコンパクトSUVはかくも人気なのか? タワマン同様、20世紀には存在しなかった、都会の新しいライフスタイル商品だから。すなわちオシャレだから、であろう。
というようなことをぼんやり考えながら、筆者はこのデザイナーズ・コンパクトSUV3台の試乗に挑んだ。
それでは、編集部が選んだこのセグメントの最新モデルをご紹介しながら、これらがいかにオシャレな実用4ドア車であるか、について具体的にご紹介したい。以下、試乗した順に記す。
あら、こんなところにコルクが! と室内に乗り込んで驚いた。センター・コンソールの下部周辺とカップホルダーの蓋に用いられているのはワインの栓でお馴染みの素材だ。
ご存じの方はご存じのように、マツダの歴史は創業者の松田重次郎が1920年にコルクの製造会社、東洋コルク工業を興したことに始まる。しかも、試乗車は本年3月31日まで受注している「100周年特別記念車」で、マツダ初の軽自動車R360クーペにオマージュを捧げた赤と白の2トーンを採用している。こういう本歌取りのようなことを日本語で「洒落ている」というのである。
走り始めると、あれ? フツーのガソリン自動車だ。というのが、ふたつめの小さからぬ驚きだった。今回の試乗車は2リッター直噴4気筒ガソリン・エンジンにスターター&ジェネレーター(ISG)とリチウム・イオン電池等を組み合わせた24Vのマイルド・ハイブリッド(MHEV)なのに……。
ISGのモーターは最高出力6.9ps、最大トルク49Nmで、これはスズキ新型ソリオの1.2リッター直4MHEVのモーターの3.1ps、50Nmと同等のトルクを意味する。ソリオは車重1000kgと、MX-30より500kg近くも軽い。だからなのか、EVモードでスーッと走る感覚がある。マツダ独自の「Mハイブリッド」にはそれがまったくない。MHEVなのに……という意味では物足りないけれど、ピュア・ガソリン自動車に馴染んだ筆者にとって違和感がないのはなによりである。
1997ccのガソリン直噴のミラー・サイクル・エンジンは、136ps/4400rpmと220Nm/1300─4300rpmを発揮する。印象としては、まるでディーゼルのようにゆっくり回る。数値も速さも控えめながら、全開にすると、許容回転の最終段階の6500rpmあたりから、ぶううううんと軽快なエンジン音を奏で出し、6800rpmの手前でシフトアップして、音階を1オクターブ上げ、クオ~ンと囁きながら、さらに加速を続ける。
6段ATゆえ、ダウンシフト時はトルク変動が大きく、ステアリングはややスローなきらいはあるものの、街中から高速まで、フツーに走っているときにスムーズで心地よい感覚が味わえる。エレガントな内外装にふさわしい、エレガントなコンパクトSUVなのだ。
なお、観音開きの「フリースタイルドア」は、前のドアを開かないと後ろのドアを開くことができない。その意味では実用性に欠ける。「わたしらしく生きる」をコンセプトに掲げるこのクルマの4ドアは、後ろにひとを乗せるためではなくて、こんなドア、不便じゃん、と考える筆者のような旧弊な頭の持ち主を遮断し、「わたしらしく生きる」自由な感覚を得るための新しいトビラなのである。精神の解放が自動車の真の実用性だとすれば、これぞオシャレな実用4ドアでありましょう。
う~む。いかにもクーペだ。小雨降る東京・丸の内の撮影現場でMX-30から乗り換えると、フロント・スクリーンがグッと傾斜していて、MX-30「100周年特別記念車」とはまた違ったパーソナリティを感じる。
MX-30ほど凝った内装ではないし、そもそもサイズ的には1クラス下になるわけだけれど、かといって1クラス下という雰囲気はまったくない。タコメーターがないのは残念ですけれど、それは個人的な見解として、まずもって着座位置の高さがMX-30とほとんど変わらない。1795mmの全幅は同一だし、2640mmのホイールベースは15mm短いものの、筆者に必要なレッグ・スペースには以上の空間がとられている。
とりわけ走り出して小ぶりなクルマに乗っている感があるのは、新型ルノー・ルーテシアそっくりのクイックなステアリングと、ルーテシアと同型の静かでトルキーな1.3リッターエンジンと7段デュアル・クラッチ式トランスミッション(DCT)によるものだと筆者は思う。
といっても新型ルーテシアに乗ってらっしゃる方は多くないでしょうけれど、基本的に乗り心地がファーム、すなわち硬めで、ステアリングがクイックで、スポーツカーみたいな味つけなのだ。ただし、キャプチャーのほうがルーテシアよりちょっとだけユルめで、ホイールベースが55mm長くて、車重が100kg以上重いゆえか、乗り心地がマイルドに感じられる。とはいえ、おっとりしたMX-30から乗り換えると、これは硬い! と思うほど硬い。
ルノー・日産・三菱のアライアンスによって新たに開発されたという1333ccの4気筒直噴ターボ・ユニットは154ps/5500rpmと270Nm/1800rpmを発揮する。MX-30の2リッター自然吸気以上の最高出力と最大トルクを、150kg軽いボディに搭載し、7段のデュアル・クラッチ式トランスミッション(DCT)を介して走らせる。なので、わずか1.3リッターでもMX-30より速くて、爽快感のある走りを披露するのだ。
ただし、小排気量のターボで、DCTということもあってでしょう、ちょいとばかしタメというか、微妙なギクシャクを感じるときもある。
エンジンは回しても静かすぎるほど静かで、排気音もほとんど轟かせない。風の音と路面からの音のほうが断然大きい。
試乗車は本年2月25日から販売が始まったルノーの2代目新型キャプチャーの、インテンス・テックパックという高いほうのモデルで、「レーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)」という最新の運転支援システムを標準装備している。もちろん、あくまでアシストではあるけれど、ストップ&ゴー機能付きの「アダプティブクルーズコントロール」はメリハリよく加減速し、首都高速での渋滞時、けっこう使えた。
2013年発売の初代キャプチャーが全世界で170万台以上を販売するヒット作になったということで、2代目は初代のイメージを継承しつつ、中身を一新するという、先に登場した新型ルーテシアと同じスタイルの全面改良を受けた。抑揚のあるデザインに好き嫌いはあるでしょうけれど、感情に訴えるのがデザインなのだから、それも当然。価格は319万円と比較的手に届きやすいこともまた、実用4ドアとしての実用性を高めている。フランス車は安い!
本年1月に国内販売のはじまった3008のフェイスリフト版である。最近のプジョー共通のキバのカタチのデイタイム・ラニング・ライトと、フレームレスのグリルを得て、スッキリ男前になって帰ってきた。
マーケットの分類上はマツダMX-30と同じクラスのはずだけれど、2675mmのホイールベースはMX-30より20mm長く、3台のなかで一番大きくて立派だ。当然、室内は一番広く、後部の窓が3列シート車ぐらい遠くにあると感じる。
運転席まわりはダッシュボード中央のディスプレイが8インチから10インチに拡大されている。そのディスプレイの、エアコンの吹き出し口の下に並んだトグル・スイッチは508を彷彿させる。試乗車のGTブルーHDiの場合、インテリアにアルカンターラを用いていることも高級感につながっている。473万6000円という価格に説得力がある。
ハンドリングと乗り心地も魅力的だ。1997ccの4気筒ディーゼル・ターボは177ps/3750rpmの最高出力と400Nmもの最大トルクを2000rpmで生み出す。この分厚い低速トルクを生かし、アクセル・ペダルを軽く踏んでいる程度だと、ワイド・レシオの8段ATが2000rpmの手前でシフトアップし、つねに1500rpm近辺で走らせる。ゆるゆる回っているだけだから、たいへん静かで存在を表立てない。
プジョー独特のiコックピットを特徴づける小径ステアリングホイールはクイックすぎないことが不思議なほどで、ややフロント・ヘビーながら、違和感なく素直によく曲がる。ワインディングではときに大きくロールし、外輪に荷重をのせながらオン・ザ・レール感覚を維持する。
ドライブ・モードをスポーツにすると、ディーゼル・エンジンは、ぶろろろろろろっ、と大音量でV8みたいなサウンドを発し、アクセル・ペダルに対するレスポンスが俄然よくなる。ステアリングも若干重くなり、クルマがぎゅーっと圧縮されちゃった感がある。ノーマル・モードのほうがエンジンの伸び感があって筆者的には気持ちよいように思う。
当然、後席は3台のなかで最も広く、サンルーフ付きだと明るくて居心地がいい。もしも後ろに乗せるひとがすでにいらっしゃって、ちょっとお高いというハードルをクリアできるのなら、こちらがオススメだ。
ゆいいつ気になったのは、ドシンバタンという路面からの音の侵入で、遮音がもうちょっとしっかりしていたら508ぐらいの高級車に感じられるだろう。でも、3008が508ぐらいになっちゃったら、508の立場がないので、それはありえない。
オシャレなコンパクトSUVに、あれやこれやと求めすぎてはいけない。ほどのよさ、というのも魅力のひとつなのだからして。
■マツダMX-30 100周年特別記念車
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4395×1795×1550mm
ホイールベース 2655mm
トレッド(前/後) 1565/1565mm
車重 1460kg
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量 1997cc
最高出力 136ps/4400rpm(6.9ps/1800rpm)
最大トルク 220Nm/1300-4300rpm(49Nm/100rpm)
トランスミッション 6段AT
サスペンション(前) ストラット/コイル
サスペンション(後) トーションビーム/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前/後) 215/55R18
車両価格 315万7000円
■ルノー・キャプチャー・インテンス・テックパック
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4230×1795×1590mm
ホイールベース 2640mm
トレッド(前/後) 1555/1540mm
車重 1310kg
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・ターボ
排気量 1333cc
最高出力 154ps/5500rpm
最大トルク 270Nm /1800rpm
トランスミッション ツインクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ストラット/コイル
サスペンション(後) トーションビーム/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク/ドラム
タイヤ(前/後) 215/55R18
車両価格 319万円
■プジョー3008 GT BlueHDi
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4450×1840×1630mm
ホイールベース 2675mm
トレッド(前/後) 1580/ 1590mm
車重 1610kg
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・ターボ・ディーゼル
排気量 1997cc
最高出力 177ps/3750rpm
最大トルク 400Nm /2000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ストラット/コイル
サスペンション(後) トーションビーム/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前/後) 225/55R18
車両価格 473万6000円
(ENGINE2021年5月号)
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