2021.04.17

CARS

これがベストSクラスかも!? ガソリンのS500Lに続き、ディーゼルのS400dに乗った

試乗車は、メルセデス・ベンツS400d 4マチックの左ハンドル仕様。

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7年ぶりのフルモデルチェンジで新たなステージへと進化を遂げたメルセデス・ベンツSクラス。先にリポートしたガソリン・エンジンにロングボディを組み合わせた「S500 4マチック・ロング」とともに、ディーゼル・エンジンを積む標準ボディの「S400d 4マチック」にも試乗。果たしてガソリンとディーゼル、ロングボディと標準ボディにはどのような違いがあるのか。異なる2台乗ってみて気付いたことは何か。モーター・ジャーナリスの島下泰久さんが解説する。


ボディ・サイズは全長5210×全幅1930×全高1505mm(AMGライン装着車)。ホイールベースは3105mm。先代と比べると若干大きくなった。ホイールベースはロングボディよりも50mm短い。
ボディの長さが異なる以外、標準ボディとロングボディのデザインに大きな違いはない。

標準ボディでも全長は5180mm

改めて言うまでもなく、メルセデス・ベンツの最高峰セダンであるSクラスには長い長い歴史がある。2020年9月に発表され、いよいよ日本上陸を果たした新型は、初めて正式にSクラスを名乗った1972年デビューのW116から数えても、実に7世代目のモデルとなる。


今回試乗したのはS400d 4マチック。標準ボディに搭載するエンジンは直列6気筒3.0リッター・ディーゼル・ターボで、トランスミッションには9段ATを組み合わせる。先にリポートしたガソリン・エンジンのS500ともども、駆動方式は4MATICのみが用意される。もちろん、今後のラインナップ拡充に際しては、違った設定も選択できるようになるのかもしれない。


標準ボディとは言っても全長は5180mmにも達する。先代との比較では25mmの拡大だ。しかも試乗車はオプションのAMGラインを装着していたから、その長さは5210mm。決して小さいわけではない。なお、ロングボディはノーマル・モデルで全長5290mm、AMGラインで5310mmとなる。


ヘッドライトはLED式で3つの光源を微小な130万個の鏡で光を屈折させることで照射範囲を制御する。
横長形状になったリア・コンビネーションライト。
ボンネットの上にはスリーポインテッドスターが鎮座する。
格納式になったドア・ハンドル。空力の向上や風切り音の低減などに効果を発揮する。

よりエレガントになった

大型化されたラジエーター・グリル、3点が光るデイタイム・ドライビングライトを内蔵したヘッドライト・ユニットなどによって、フロントのデザインはややエレガントな方向に寄った印象だ。格納式のドア・ハンドルを採用するなどシンプルに徹して、プロポーションと面構成の美しさで見せるサイド・ビュー、そして横長の2分割式コンビネーションランプを採用するリアもやはり同様で、全体により伸びやかでクリーンな存在感と言える。正直、最初は違和感皆無ではなかったが、実車を見たらひと目で気に入ってしまった。


インテリアにはロングボディと標準ボディの間に基本的な意匠の違いはない。差は後席まわりのスペースの広さで、前席は変わらず。ユリの花をモチーフにしたというステアリング・ホイールの向こうにはデジタル・メーターパネルが、その上には大型のヘッドアップ・ディスプレイが備わる。また、ダッシュボード中央には縦型の大型タッチスクリーンが新設され、見るからにハイテクな雰囲気を醸し出している。


印象的なのがアンビエント・ライトの使い方だ。新型では単色だけでなく複数の色を変化させながら灯せるようになっているが、それだけではなく車両が接近しているのに気づかずドアを開けようとした際に光と音で警告を行なうなど、単なる照明に留まらず、実際に役立つ機能も与えられている。以前には「Sクラスにこんなもの……」とも思わないではなかったが、こうなれば否定する理由などひとつも無い。


実は前に乗ったS500 4マチック・ロングとの間には一点、大きな違いがあった。実はS500 は右ハンドル、S400dは左ハンドルだったのだが、後者の方が断然、自然なドライビングポジションを取れるのだ。


右ハンドルはペダルが全体にやや左寄りなのに加えて、センタートンネルの膨らみのおかげで左足の置き場が窮屈。違いがほかにもあるのか、ないのかはわからないが、一度こちらを味わってしまうと、左ハンドルの方を断然勧めたくなる。


インパネは中央に12.8インチのタッチパネルを新たに採用するなど、先代と比べてデザインも使い勝手も大きく変わった。標準ボディとロングボディの間に違いはない。
オプションの「ナッパレザーエクスクルーシブパッケージ」を装着。シート表皮がナッパレザーになるほか、ふわふわのクッションが備わるヘッドレストやブルメスター製の3Dサラウンドサウンドシステムも追加される。
ロングボディのように足が投げ出せるような贅沢な空間は持ち合わせていないが、標準ボディもサルーンとして十分な広さを有する。

ディーゼルとは信じがたい……

まず感銘を受けたのがパワートレインだ。直列6気筒3.0リッター・ディーゼル ターボユニットはマイルドハイブリッドのISGなどが備わらないにも関わらず、アイドリング付近の回転数からアクセル操作に即応して、いやなラグとは無縁にスムーズにクルマを前に進める。しかもトルクは分厚く、とても頼もしい。


それでいて静粛性も非常に高く、そして滑らかなのだから恐れ入ってしまう。トップエンドまで回してもフィーリングは上質なまま。ぎっしり詰まったトルクこそいかにもディーゼルらしいが、それ以外は言わなければ、いや言われてもそれとは信じられないくらいの仕上がりである。


この高い静粛性には、ボディ骨格に一体化された発泡遮音材、全車標準装備の赤外線反射・ノイズ軽減ガラス、さらにAMGパッケージに含まれる「MO+S」と表記される静音タイヤも貢献しているのだろう。無音というわけではなく、心地良い静寂をもたらしてくれる。


3チャンバー式エア・サスペンションのおかげで快適な乗り心地と自在なハンドリングを両立する。
3.0リッター直6ディーゼル・ターボはディーゼルらしい力強さを有しつつ、窓を閉めている限りはガソリン・エンジンかと思うほど静かで、しかも回転フィールも滑らか。

フットワークも素晴らしい

フットワークも素晴らしい。先代では包み込むような乗り心地を持つ一方で、初期ロールの大きさが気になったが、新型は先にEクラスなどで使われている3チャンバー式のエア・サスペンションを採用することで、普段のしなやかさを犠牲にすることなく必要な場面ではしっかり引き締まった走りを可能にしている。煽られるような動きが無く姿勢が一発で決まるので、自信を持ってターンインできるのだ。


旋回姿勢に入った後も、ロングより110mm短いホイールベースもありグイグイ良く曲がるのには驚くばかり。後輪操舵機構は60km/h以下では前輪と逆位相に最大4.5度、それ以上では前輪と同位相に最大3度操舵するとされており、こうした場面では基本的に同位相に切っているはずなのだが、実際に旋回中の車両を見ていると、状況に応じて舵角をきめ細かく調整しているから、後輪操舵の貢献度はやはり大きいのだろう。


大トルクを余さず路面に伝える4MATICのトラクションも文句なし。文句なしのドライバーズカーに仕上がっているというのが実感である。


Sクラスと言えば、やはり主力はガソリン・エンジン車でロングボディ、そして今やおそらくは右ハンドルなのだろう。しかしながら、今回乗ったS400d 4マチックの左ハンドル仕様がもたらすドライビングプレジャーは、これを顧みないという手は無いでしょう? というぐらいの鮮烈なものだったのだ。


先代同様、メーターは液晶パネルを用いたバーチャル表示を採用。取材車には映像が立体表示される「3Dコックピットディスプレイ」が装着されていた。表示パターンはこの「クラシック」をはじめ7種類用意されている。


赤を基調にした「スポーティ」は未来志向のデザイン。エンジン回転数は中央部分の奥行きを変えることで表す。


速度計と時計を組み合わせた「ディスクリート」。速度計の表示を必要最低限にするなど、情報を絞っている。


「エクスクルーシブ」は金属調の上質なデザイン。


液晶全面がナビの地図になる「ナビゲーション」。フォルクスワーゲンやアウディが先鞭を付けたパターンだ。


自動運転でこそないものの、最先端の運転支援技術を持つSクラス。「アシスタンス」ではその作動状況を表示する。


「サービス」はメインテナンス時期など車両の状況を表示する。

■メルセデス・ベンツS400d 4マチック
(AMGライン、ベーシック・パッケージ装着車)
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5210×1930×1505mm
ホイールベース 3105mm
トレッド 前/後 1650/1650mm
車両重量(前後重量配分) 2180kg(前1180kg:後1000kg)
エンジン形式 直列6気筒DOHC直噴ディーゼル・ターボ
排気量 2924cc
ボア×ストローク 82.0×92.3mm
エンジン最高出力 330ps/3600-4200rpm
エンジン最大トルク 700Nm/1200-3200rpm
変速機 9段AT
サスペンション形式 前後 マルチリンク式+空気ばね
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40R20 101Y/285/35R20 104Y
車両価格(税込) 1462万8000円(標準仕様:1293万円)


文=島下泰久 写真=柏田芳敬


(ENGINEWEBオリジナル)

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