2021.04.16

CARS

実は運転して楽しいドライバーズ・カー!? メルセデスのフラッグシップ、新型S500ロングに乗る

試乗車は、メルセデス・ベンツS500 4マチック・ロングの右ハンドル仕様。

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7年ぶりに新型へと生まれ変わったメルセデス・ベンツの最高峰、Sクラス。先代は世界中で50万台以上という高級車としては驚くべき販売台数を記録した。今やライバルの追撃を振り切り、“敵ナシ”と思えるほどの成功を手にしたと言っていいだろう。そんな新型Sクラスが日本に上陸。モータージャーナリストの島下泰久さんが、ロングボディにガソリン・エンジンを組み合わせたS500 4マチック・ロングと、標準ボディ仕様にディーゼルを積んだS400d 4マチックの2台に試乗した。まずはS500 4マチック・ロングの出来栄えから探っていく。


ボディ・サイズは全長5320×全幅1930×全高1505mm(AMGライン装着車)。ホイールベースは3215mm。仕様にもよるが、先代と比べると全長が20-40mm、全幅が20-30mm程度大きくなった。ロングボディのホイールベースは50mm長くなっている。
フォルムには先代のイメージが色濃く残るものの、大きくなったグリル、切れ長に形状変更されたヘッドライトなどにより、フロントまわりはよりエレガントなデザインに進化した。

スリーポインテッドスターがボンネットに鎮座

メルセデス・ベンツの旗艦であるだけでなく、世界のラグジュアリー・カーのベンチマークとしても君臨するメルセデス・ベンツSクラスが、フルモデルチェンジを行った。なお、この新型にはW223という型式名が与えられている。


日本に上陸したのは、まずガソリンのS500 4マチックとディーゼルのS400d 4マチックの2モデル。いずれにも標準ボディとロングボディが用意され、さらに左ハンドルと右ハンドルも選べる。まずはS500 マチック・ロングの右ハンドルについて報告する。


まず触れるべきはデザインだろう。エクステリアは「Sensual Purity」(官能的な純粋)を謳う近年のメルセデス・ベンツに共通の、ラインやエッジを可能な限り削ぎ落とし、面の美しさで魅せるもの。先代に較べるとサイズは全方位少しずつ大きく、とくに試乗車はAMGライン装着ということで全長は5320mmにも達するが、佇まいはむしろ威厳よりも軽快感や若々しさが強調されている。一方、スリーポインテッドスターは依然としてフード上に置かれている。もはやEクラスにもCクラスにも装着されないだけに、より一層、凛とした存在感が際立つ。


ダッシュボードの上側の奥に横長液晶パネルを2枚配してした先代に対し、新型はインフォテインメント用の大きな縦長タッチパネルをセンターコンソールの延長上に配置するなど、デザインはもちろんのこと使い勝手も大きく変わった。
インパネ中央のタッチパネルは12.8インチ。ハザードなど最小限のスイッチも備わるものの、空調、オーディオ、ナビ、車両設定などの操作は基本的にこのパネルで行う。
先代では丸形だった空調吹き出し口の形状は横長の長方形に変更された。

ハイテクとラグジュアリーの融合

変貌ぶりはインテリアの方が大きい。ダッシュボードの中央には縦型の大型タッチスクリーンが据えられ、メーターも当然デジタル。大型のヘッドアップ・ディスプレイまで備わる空間は、昔ながらのラグジュアリーな表情からはずいぶん遠く離れたところに来たなと感じさせる。


しかしながら実際に使ってみれば、各種操作の動きは軽快だし、直感的に機能を呼び出すのも容易で、すぐに馴染んでしまった。とくに印象的だったのは、ヘッドアップ・ディスプレイを使って前方の景色の中に矢印などを表示させるARナビゲーション。先進感という嬉しさもあるし実用性も非常に高い。


今や、いくらラグジュアリーなライフスタイルといえども、執事でも居ない限りはスマートフォンやタブレット抜きというのはあり得ない。そう考えれば、新しいSクラスにはしっかり“今の”ラグジュアリーのあり方が表現されていると言っていいかもしれない。


車体は完全に刷新されている。ボディはアルミ比率が50%以上とされ、軽量・高剛性化を推進。このモノコックに発泡遮音材を一体化した新構造もトピックだ。


ロングボディはナッパレザー表皮になる「レザー・エクスクルーシブ・パッケージ」が標準となる。ヘッドレストに備わる「ラグジュアリー・ヘッドレスト」と呼ばれるクッションはふわふわの枕のようで気持ちいい。ヒーターやベンチレーションはもちろんのことマッサージ機能も付くなど至れり尽くせり。
ロングボディにのみ設定されるオプション価格125万円の「リア・コンフォート・パッケージ」を備えた後席。表皮は前席同様、ナッパレザー。ふわふわヘッドレストも標準装備。
助手席側はリクライニングとスライド機能に加えフットレストがせり出すことでこのような快適空間を作り出すことができる。
左右に1つずつ配される11.6インチの液晶モニターも「リア・コンフォート・パッケージ」に含まれる。

実際に走らせてみると、まずはその静粛性の高さに唸らされることになる。ライド・コンフォートも、やはり素晴らしい。普段はとてもしなやかに動きながら、速度が高まるほどにぴたっと姿勢が落ち着いていく、理想的な乗り心地を実現している。


これには3チャンバー式とされたエア・サスペンションの恩恵が大きいに違いない。コーナリングでも、ステアリングを切り込んでいった際、先代は最初にはっきりとしたロールがあり、続いてクルマの向きが変わっていくような感覚があったが、新型は操舵初期から素直に旋回姿勢に入っていく。


さらに新型Sクラスは後輪操舵を搭載しているおかげもあってか、非常に良く曲がる。しかも、外からは状況に応じてかなり積極的にステアしているのがよく見えるのに、ステアリングを握っている限りはワインディング・ロードでも、あるいは車庫入れでも、これっぽっちも後輪操舵車にありがちな違和感を抱かせないのだ。その調律ぶりは見事と言うほかない。


S500のパワートレインは、先代の後期型で初登場した直列6気筒3.0リッターにターボチャージャー、電動コンプレッサー、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたもの。トランスミッションは9段ATで、全車フルタイム4WDの4マチックとなる。


アクセル操作に対するツキが良く、トルクが即座に得られ、しかも吹け上がりはストレート・シックスらしく粒が揃っているという具合で、その走りはとても爽快だ。複雑なメカニズムが見事な連携プレイで、極上のフィーリングを作り出している。


後席にも乗ってみた。コンフォート・パッケージを選ぶと大型フットレスト、リア・エンターテイメント・システムなどが付き、最大43.5°のリクライニングも可能になるこの空間は、当然ながら至極快適。フロアに振動が伝わったりということもなく、心地よく過ごせる。フワフワとした感触のラグジュアリー・ヘッドレストに頭をあずけてマッサージを受けていると、立ちどころに睡魔に襲われそうになる。


とは言いつつも、実際に強い印象を残したのはドライバーズ・シートでの体験である。新型Sクラスは真のドライバーズ・カーへと変貌を遂げた。試乗後に強く思ったのは、そういうことだ。


今の時代、まさにSクラスに乗るようなエグゼクティブと呼ばれるような人たちは、世界的に見ても、運転手付きでの移動はトレンドではなくなってきている感があるし、仮に平日はそうでも、週末には自らステアリングを握る人が多いと言われている。であるなら、Sクラスがそのように進化していくのも、また必然と言うべきだろう。その観点から見れば、よりエレガントになったデザインも、今どき流の使い勝手を得たハイテクなインテリアも、すべて納得。整合性取れている。


声高にそう言っているわけではないが、確かにSクラスは変わった。さすがこのセグメントの絶対王者。ユーザーの嗜好の変化を鋭くキャッチして、この時代に相応しいラグジュアリー・カーを出してきたなと、深く深く唸らされたのだ。


普段はしなやかだけど、速度が高まるとフラットな姿勢を保つ理想的な乗り味を実現。静粛性も高く、高級サルーンとして高い快適性を有する。
パワートレインは3.0リッター直列6気筒ターボに48Vのマイルド・ハイブリッドと9段ATを組み合わせる。ターボチャージャーのほかに48V電源を用いたモーター駆動の機械式過給器を備えることで、ターボが効くまでの間の応答性を向上させている
後輪操舵は全モデルに標準装備。操舵角度は、同位相が最大3度、逆位相が最大4.5度となる。写真は上が通常時で、下が逆位相時。4.5度とはいえ、比べて見るとけっこうな舵角が付いているのがわかる。
ロングボディの荷室容量は505リッター。31個のスピーカーを持つBurmester(ブルメスター)製のハイエンド4Dサラウンドサウンドシステム(85万円)を装着した場合は480リッターとなる。

■メルセデス・ベンツS500 4マチック・ロング(AMGライン、リア・コンフォート・パッケージ装着車)
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5320×1930×1505mm
ホイールベース 3215mm
トレッド 前/後 1650/1650mm
車両重量(前後重量配分) 2250kg(前1200kg:後1050kg)
エンジン形式 直列6気筒DOHC直噴ターボ+モーター
排気量 2996cc
ボア×ストローク 83.0×92.3mm
エンジン最高出力 435ps/6100rpm
エンジン最大トルク 520Nm/1800-5800rpm
モーター最高出力 22ps/-rpm
モーター最大トルク 250Nm/-rpm
変速機 9段AT
サスペンション形式 前後 マルチリンク式+空気ばね
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40R20 101Y/285/35R20 104Y
車両価格(税込) 1948万8000円(標準仕様:1724万円)


文=島下泰久 写真=柏田芳敬


(ENGINEWEBオリジナル)

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