2021.06.21

CARS

新型BMW4シリーズ、440iと440iカブリオレが上陸! 最新GTカーの主流はドイツ車にあり!!

最新のGTカーとして引っ張り出したBMW4シリーズ。残念ながらカブリオレは日本上陸したてで、まだナンバーがついておらず、公道では走れなかったが、クーペに乗り、カブリオレを矯めつ眇めつしてGTカーについて考えた。

人間は移動する生き物

村上 コロナ禍で旅行に行けなくなってはや1年以上。私が最後に海外出張したのは昨年2月のことです。国内だって、緊急事態宣言の谷間の9月に京都へ国際写真祭の取材に行ったり、福島や青森や岐阜にクルマの取材に行ったりはしたけど、あくまで控えめにソロリと動いている。


塩澤 僕はどこにも行っていない。この間、マイカー&マイハウスの取材で軽井沢まで日帰りしたくらい。それ以外はプライベートでもなし。

荒井 オレはいろいろ行っちゃった。熊野古道も行ったし、京都にも行った。12月にクルマを買ったもんで、うれしくてアチコチ行った。で、最近は、とにかく道が混んでいる。桜が咲き始めてからは、みんなもう我慢できなくなってきたんじゃないの。

村上 ようやく緊急事態宣言が解けて、イッキに繰り出しているんでしょう。でも、それでまた“まん防”が出たのだから、なかなか難しい。

塩澤 結局、どこにも行けないで閉じこもっていると、心身ともにおかしくなってくる。それで改めて思うのは、人間はやっぱり外に出て行くのが必要な生き物なんだなあ、ということ。知らない所に出かけて刺激を得ることが、成長したり、進化したりするのに必要だというのを、なんだか細胞レベルで感じるんだよね。

巨大なキドニー・グリルを得て、押し出しの強い顔つきになった4シリーズ。

村上 なるほど、それはまさに今回のGTカー企画のテーマに繋がる話だね。GTカー、すなわちグランド・ツーリング・カーの起源は、18世紀にイギリスの貴族の子弟たちの間で流行したグランド・ツアーに使われた馬車にある。グランド・ツアーというのは、学業の総仕上げとして見聞を広めると同時に、人生経験を積むために行われた、今の修学旅行をもっと豪華にしたような大周遊旅行で、まずパリに行き、さらにアルプスを越えてローマを目指した。

荒井 お金持ちの貴族のことだから、お供とか連れて行ったんでしょ。

440iは19インチのバイ・カラー・ライト・アロイ製ダブルスポーク・ホイールを標準装備する。

Mツインパワー・ターボ・テクノロジーで武装した直6ユニットは、昔より前進して高い位置になった? そのせいか、ややフロント・ヘヴィに。

村上 そう。召使いや家庭教師も連れて行ったらしい。チューターと呼ばれるその家庭教師の顔ぶれが錚々たるもので、のちに『教育論』を書いたジョン・ロックや『国富論』のアダム・スミス、『リヴァイアサン』のトーマス・ホッブズが雇われていたというのだから、半端じゃない。実は家庭教師たちにとっても、グランド・ツアーは自分たちの大勉強旅行でもあったんだね。


塩澤 イギリス人だけじゃなく、他の国でもそういうのあったんでしょ。

村上 さすがに富裕層の子弟が出かけるのはイギリスの貴族ならではだったみたいだけど、ドイツからも、かのゲーテが大周遊旅行してローマに行っているし、モーツァルトだって馬車に乗って大旅行している。

塩澤 時代も場所も乗り物もまったく違うけれど、映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』に描かれたチェ・ゲバラの2輪の旅だって、グランド・ツーリングに他ならない。

ルーフラインが美しい。

荷室容量は440リッター。

村上 そうだね。そういう大冒険旅行は、ある種のビルデゥングス・ロマンを形成していく旅なんだよね。それはともかく、18世紀の話に戻すと、あまりにグランド・ツアーが流行ったものだから、今で言うハウ・トゥー本も出ていたんだって。そこで旅の必需品としてまず挙げられていたのが、エレガントで丈夫で、速くて快適な馬車。当時は馬も馬車もイギリス製が最上とされていた。

塩澤 なるほど、グランド・ツアラーの主流は、当時はイギリス勢だったわけね。果たして、それがクルマの時代になってどうなったか。

村上 GTという名前を最初にモデル名に使ったクルマは……。

荒井 1951年、イタリアのランチア・アウレリアGT。戦後になって、ようやくみんなが再びグランド・ツアーに行けるようになったことを象徴している。以後、スタイリッシュな2ドア・クーペにGTと名づけるのがどんどん拡がっていった。



村上 その通り。というわけで、戦争ならぬコロナ禍がもうすぐ明けて再びグランド・ツアーに出かけられるようになるのを先取りして、最新のGTカーをじっくり考えてみようという企画を組んだわけ。

アウトバーンがGTを鍛えた


村上 さて、そこで我々が真っ先に選んだGTカーが、BMW4シリーズのクーペ&オープン。ちなみに、18世紀の貴族の子弟たちは、行き先にドイツを入れることはまずなかったのだとか。なぜなら当時のドイツはメチャメチャ道が悪かった上に、辺境の田舎でわざわざ勉強に行くようなところではなかったから。ところが、そのドイツが今やGTカーづくりの主流になっている。

最新3シリーズにも共通するデザインのインテリア。メーターはフル・デジタルの液晶パネルで、マルチファンクションMスポーツ・レザーステアリング・ホイールを標準装備する。握りの太さには賛否両論ある。

Mスポーツシートは座面が大きく長距離でも疲れない。



塩澤 道が悪かったというけれど、今のドイツをGTカーの主流に押し上げたのは、逆に素晴らしい道を持っているからでしょう。大陸内の長距離移動を可能にしたアウトバーン。これがなければ、現在のドイツ車の隆盛はなかった。

村上 馬車の話と同じで、エレガントで丈夫、速くて快適という要素が現在のGTカーにも求められると思うけど、とりわけ丈夫で速いという点に関しては、ドイツ車の右に出るものはないでしょう。それはまさにアウトバーンで鍛えられたからこそ得られたもの。今回取り上げるM440i xドライブのクーペとカブリオレは、その最新の代表選手と言っていい。乗ってみてどうだった?

塩澤 4駆が新しい4シリーズのメインなの?

村上 M440iには4駆しかない。

塩澤 正直言うと、なんか時代が変わったなという感じがした。BMWと言えば後輪駆動のスポーツ・セダンの代名詞みたいなものだったのに、それが4駆だけになったなんて。

オープン時には幌屋根は完全にカバーの下に収納される。

フロント・シートにはシート・ヒーターはもちろん、首に温風を吹き出すエア・カラーも装備する。

リア・シートも見た目以上にしっかり座れるから、子供はもちろん大人でも短時間なら過ごせるだろう。


村上 乗ってすぐに感じるのは、ものすごく重厚な乗り味になったということだよね。ひと昔前のBMWといえば、3シリーズのとりわけ4気筒モデルなんて鼻先が軽くてひらりひらりと曲がっていくようなクルマだった。あるいは後輪駆動でパワーのある6気筒はテール・ハッピーとかね。でも、そういう種類のクルマとはまったく違うものになっている。ズバッと速く快適に遠くまで行くというGTカーとしての性能を一気に上げてきている気がした。

荒井 本当にそう。安全で、速く、快適に、目的地に着くということに徹している。そこがものすごく分かりやすいというか、今、GTカーが欲しいと思っている人が求めているものにドンピシャなクルマになっている。その背景にあるアウトバーンの威力は大きい。高速で延々巡航し続けるには、当然高いスタビリティが必要だし、快適な乗り心地でなければ乗っていられない。加速感や制動力の安心感まで含めて、まったくソツがなく、イイモノ感にあふれている。オープンだって、シート・ヒーターとエア・カラーがあれば、ルーフを開けていても我慢しなければならないものはほとんどない。

ルーフを下ろすと、船のクルーザーのような雰囲気になる。50km/h以下なら走行中でもルーフの開閉が可能だ。

村上 今の4シリーズ・クーペって、ひと昔前の3シリーズ・クーペのことでしょ。あれはそもそもGTカーという性格のものではなかったと思う。2002から出発した、もう少しカジュアルなスポーツ・セダン。2ドアでも昔はセダンと言っていた。でもこれは、それより一段も二段も格上のものになっている。実は僕はエンジン創刊当初、長期リポート車として318Ciに乗っていたの。

荒井 左ハンドルでマニュアルの。

村上 そう。初めてのガイシャでとても苦労しながら乗ったんだけど、今思うと、正直言って、あれ、遅かったし、ズバ抜けてスタビリティが高いクルマじゃなかった。118馬力しかなかったから良かったけど、この440iみたいに387馬力もあったら結構怖かったかも。これはGTカーにするために、あえて4駆にしたということがあると思う。

この個体の幌屋根は、オシャレなシルバー光沢仕上げのアンソラジット・カラーだった。

折り畳み式ウインド・ディフレクターは、使用しない時には後席バックレスト裏のストレージ・ボックスに簡単に収納できる。



荷室容量はクローズ時385リッター、オープン時300リッター。

塩澤 たとえば、同じ387馬力でもハンドリング・カーとして後輪駆動でつくることだってできるはずだけど、そうはなっていない。キビキビしたハンドリングよりも圧倒的な直進安定性を重視した味付けになっている。もちろん、これで峠道を走ったら、それはそれで楽しいんだけど、でもそれ以上に、4駆にしたことにより、これだけのパワーをどんな天候でも安全に速くというGTカーの方向に振っているのは明らか。

村上 もちろん、4シリーズは4駆だけでなく、4気筒の420iクーペは後輪駆動なんだけど、それでもGTカー寄りの味付けになっていると思う。なにしろ、昔の3シリーズ・クーペとはクルマの大きさからしてまるで違う。6シリーズがなくなって、上級移行しているのもある。見た目だって、顔の押し出しの強さといい堅牢な感じといいGTカーそのものだよ。それでいてルーフの形状はエレガントで、昔の馬車のグランド・ツアラーの定義にピッタリ。



モダンGTのベストはオープン


塩澤 クーペとカブリオレをGTカーとして比べて面白いと思うのは、外界との繋がり感がどのくらいあるか、だよね。屋根を開けるとある一定のスピード以上は出せなくなるから、超高速を安定して走ることはできない。だから、高速では閉じて走って、降りてから開けることになるでしょ。その時、外界が一気に自分に近づいてくる。風や光や匂いや、そのほか様々なものが押し寄せてくる。GTカーとして知らない街を通っても、クローズかオープンかでは受け取るものがまるで違うと思う。

荒井 今のクルマはオープンでも耐候性が抜群だから、屋根を閉じていればクーペに遜色ない走りができる。

村上 先代まではリトラクタブル・ハードトップだったのが、また幌屋根になってエレガントさが一気に増したのもいい。布と金属の風合いの違いを楽しめるなんて、素晴らしくオシャレなことだと思う。電動化と自動化でクルマがどんどん白物家電化する時代にあって、プレミアム・カーが生き残るのに必要なのは、こういう特別な要素をどれだけ上手にアピールできるかにかかっている。

荒井 それでも、M440iに乗っていると、やっぱりこれは何よりも目的地に速く行くという性能に一番振ったクルマだと思うよ。だって、優雅に流すというより、どうしたって飛ばしたくなっちゃうもの。

村上 それだけに、屋根を開けることで、ホッとひと息ついて、外界との繋がりを取り戻すことが大切なんじゃないの。

塩澤 鳥の囀りも聞こえてくるしね。

村上 そう考えていくと、現代のGTカーはオープンがベストなのかもしれない。荷室容量もしっかり確保してあったし、ウインド・ディフレクターがリア・シートの背に収納できるようになっているのにも舌を巻いた。さすがドイツ車、あらゆる面で最先端を行っていると思ったよ。

話す人=村上 政(まとめも)+塩澤則浩+荒井寿彦(すべてENGINE編集部) 写真=神村 聖


■BMW M440i xドライブ・クーペ(カブリオレ)
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 4775×1850×1395mm
ホイールベース 2850mm
トレッド(前/後) 1580/1590mm
車両重量 1740kg(1880kg)
エンジン形式 直噴直列6気筒DOHCターボ
排気量 2997cc
最高出力 387ps/5800rpm
最大トルク 500Nm/1800-5000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前)225/40R19、(後)255/35R19
車両本体価格(税込み) 1038万円(1089万円)

(ENGINE2021年6月号)

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