2021.07.08

CARS

ヴァンテージ・ロードスターとDBSスーパーレッジェーラ 古典的なイギリス製スポーツカーの雰囲気を味わいたいならアストン・マーチンに限る

アストン・マーティンの末弟、ヴァンテージに加わったロードスターとフラッグシップ・モデルのDBSレッジェーラに乗った桂 伸一氏。サーキット経験豊富な彼が、この2台のアストン・マーティンに感じたこととは。

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とびきり贅沢な時間

アストン・マーティンの最高峰DBSスーパーレッジェーラと、ヴァンテージ・ロードスターを同時に連れ出してのドライブ。日常ではなかなか叶わない、贅沢なひと時だった。

ヴァンテージ・ロードスターは、今までとはグリルが違う。個人的にもアストンらしいのはコッチでしょ、と思うヴェーンド・グリルは、どこか見覚えがあるなと思ったら、映画007「スペクター」に登場したボンドカー、DB10のイメージである。ちなみにこのグリルはロードスターの専用ではなく、クーペでも従来のマスクと選択ができるようになった。いっぽう、対照的に大きく口を開けた獰猛なマスクと、この上なく優雅なスタイリングがミスマッチな感覚を産むのが、DBSスーパーレッジェーラだ。

この2台で早朝、都内で撮影を終えた後、高速道路で移動し、スポーツカーとして真の走りを確認するため、制限速度を気にせずに走れるステージ、袖ヶ浦フォレストレースウェイに向かった。

プロポーションはアストン・マーティンそのものだが、抑揚があって筋肉質で、他のモデルよりもワイルドなイメージのDBSスーパーレッジェーラ。フロント・バンパーの巨大なエアの吸入口や、タイヤハウスから連なるボディ・サイドの排出口などもそうした印象をより強くしている。最高速は340km /h。0-100km/h加速は3.4秒をマークする。

リアル・スポーツカーのよう

まずは久しぶりに乗るDBSで都内を行く。イグニッション・スイッチを押すと、セルモーターが重苦しくいななく、長めのクランキングが聞こえる。V型12気筒を回す、アストンの伝統だ。

早朝の澄み切った空気の中、低速域はゴロゴロと喉を鳴らし、回転を上げると軽いハミングに変化する。エンジンはマイルドで扱いやすい。5.2リッターとは思えないほどアクセレレーターのツキは俊敏で、しかも有り余るトルクが、右足の動きに直結する。その先の劇的な盛り上がりと車速のノリを知るだけに、右足を深く踏み込みたい衝動を抑え切れない。日本の高速道路上の80~100km/h巡航はDBSのようなスーパー・グランドツアラーには退屈でしかない。轍など外乱に左右されず、矢のように突き進む頼もしい直進安定性も、超高速をステージとするクルマの最重要項目である。走行モードはGTを選んでいれば、ソフトでストローク感のある乗り味で、路面の継ぎ目を舐めるようにいなす。

欧州のカントリー・ロードを想定してフォレストレースウェイを走る。グリップの限界までタイヤを酷使せず、あくまでも公道をスムーズに速く走るイメージだ。

DBSスーパーレッジェーラのインテリアは基本、ベースとなるDB11と共通だが、メーターユニット部分はヴァンテージと同じ3分割タイプとなる。



725馬力のパワーが炸裂

DBSの5.2リッターV12は低回転からまさに柔軟性の高さを絵に描いたような滑らかさと力強さで、クルマを軽快に押し出す。2000rpmも回せば途方もない最大91.8kgmものトルクが溢れる。さらに踏み込むと725psのパワーも炸裂。速度は豪快にどこまでも伸びて行こうとする。体感的にはリア2輪駆動としては驚愕の0-100km/h加速3.4秒という数字も、アストン・マーティン量産モデル随一の340km/hという最高速も、あくまでもデータ……ではなくリアルに出そうだ!

ハンドリングは前後のウルトラ・ワイドなタイヤ・サイズが効き、ダイナミックな動きを展開する。これほどの巨体なのに、ノーズの動きは軽快で、スッとインを向く。グランドツアラーというよりも、ずっとコンパクトなリアル・スポーツカーのような軽快なフットワークに惚れ惚れする。ルーフやボンネットなどのカーボンファイバー化などによって、ベースとなったDB11から約70kgの重量を削ぎ落としたことも効いているが、この身のこなしはスーパーレッジェーラの名に結びつく。とはいえけっして過敏ではなく、操舵角の変化に対し、高い精度で忠実にクルマの姿勢を変えていく。

DBSスーパーレッジェーラもヴァンテージも、バルクヘッドとストラットタワーを繋ぐ強固なタワーバーが付く。



Cピラーの内側に目立たぬよう配置された吸入口から取り込まれた空気は、ラゲッジ・ルームの上方を通り抜けて後方から排出される。極力無粋なダクトを見せないような配慮が施されている。

走行モードはGTのほかスポーツ/スポーツ・プラスの3段階だが、GTからスポーツ・プラスへ切り替えた際の、一気に身の引き締まるドラマチックな変身ぶりにも驚かされた。まるでサルーンとスポーツカーほどの劇的変化である。

やる気にさせる

その特性は基本的にはヴァンテージ・ロードスターも同じだ。ただしDBSに比べて全長もホイールベースもショートなことに加えて、電子制御ディファレンシャルのE-デフが左右後輪を旋回の初期はフリーにして回頭性を高め、そこから脱出に向けてLSDのように働く。通常はアンダーステアになるところを、ほぼニュートラルな操縦性で立ち上がる。ステアリングの操作に直結したかのような前輪の応答性や俊敏性は、お見事としかいいようがない。

登場当初はまるで深海魚を思わせるグリルがフロント・スポイラー部分まで広がった“ハンター・グリル”のみだったが、遅れて試乗車のようなアストンの伝統に則った“ヴェーンド・グリル”がオプションで用意された。DBSスーパーレッジェーラに比べるとノーズ中央部分の段差はやや大きめ。最高速は306km/h。0-100km/h加速は3.7秒をマークする。

さらにロードスターは乗り味の滑らかさがクーペとは違う。開口部が大きいゆえにサイドシルは補強され、ねじり剛性はクーペ並み。ボディ、ウインドウ、スカットル付近をビクリともさせない剛性感がある。タイヤの接地面の張りは強いが、ロードスター専用にチューンされたサスペンションが、角のない、硬さを抑えたマイルドなストローク感の乗り味を生む。そう、ロードスターはクーペよりも乗り心地に優れている。

ピュア・スポーツカーとして位置づけられるヴァンテージのサーキットにおける挙動は、ロードスターでも変わりはない。ドライバーとクルマが一体となるような、自分を軸にクルマが旋回するような感覚をもたらすいっぽう、けっして過敏すぎない操縦特性は、アストン・マーティンならではのもの。クルマの動きを予知しやすいことは車両の安定性にも繋がる。

凸型にシフト・スイッチを配置した個性的なヴァンテージのインテリア。

ロールオーバーバーの間には透明で脱着可能なウインド・ディフレクターが付く。

フォレストレースウェイの400mの直線で、ヴァンテージ・ロードスターは181km/hに達した。この数字はDBSと同値だが、加速はまだ伸びる途中である。0-100km/h加速は3.7秒(クーペは3.6秒)とDBSとほぼ遜色ない。

走行モードはDBSと異なり、パワートレインもサスペンションもデフォルトがスポーツ。その上にスポーツ・プラス/トラックとなる。4リッターV8のパワー&トルク特性とサウンドはまさにスポーツカーのそれ。低速域ではドロドロと重低音を響かせるが、回していくと高周波に変化する。滑らかかつ素早く正確に変速する8段ATも断然いい。変速時の燃焼室から出るパラッという音は、アクセレレーターをオフにした時も響く。これぞドライバーをやる気にさせるエンジンからの囁きか。

クーペに比べロードスターは60kg重量が増している。50km/hまで開閉することができる電動開閉式の布製の幌は、開ける際に6.7秒、閉じる際に6.8秒を要する。

トランク・フードの裏側には傘がセットできるようになっている。荷室と室内が繋がっているクーペとは異なり、ロードスターは独立したスクエアな荷室を持つ。



サーキット走行を終えた後は、ソフト・トップを開けて一路都内へ。ロードスターにとって、梅雨の前のこの時期はまさに最適なシーズンだ。オープン時の空調の効きも万全。サーキットでは気分が高揚するエンジン・サウンドも、時と場合によっては騒がしいが、走行モードをスポーツにすることで、ずっと穏やかな特性に変えられる。



スーパーGTカーのDBSスーパーレッジェーラと、伝統的なマスクも選択できるようになったピュア・スポーツカーのヴァンテージ・ロードスター。現代のアストン・マーティンは先進の電子制御技術を持ってはいるが、2台ともその走りからは、どこか古典的な、イギリス製のスポーツカーの雰囲気が漂っている。いざとなれば驚愕するほどの走行性能を備えながら、そんなどこかちょっと気が抜ける、優しい人肌感が心地いいのだ。

文=桂 伸一 写真=郡 大二郎

■アストン・マーティン・ヴァンテージ・ロードスター
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4465×1942×1273mm
ホイールベース 2704mm
車両重量 1770kg
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツインターボ
排気量 3982cc
ボア×ストローク 83.0×92.0mm
最高出力 510ps/6000rpm
最大トルク 69.8kgm/2000-5000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル
(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 255/40ZR20/295/35ZR20
車両本体価格 2159万9000円

■DBSスーパーレッジェーラ 
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4712×1968×1280mm
ホイールベース 2805mm
車両重量 1880kg
エンジン形式 水冷V型12気筒DOHCツインターボ
排気量 5204cc
ボア×ストローク 89.0×69.7mm
最高出力 725ps/6500rpm
最大トルク 91.8kgm/1800-5000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル
(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ(前/後) 265/35ZR21/305/30ZR21
車両本体価格 3573万600円

(ENGINE2021年7月号)

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