2021.11.06

LIFESTYLE

江戸前寿司の名店「銀座 鮨青木」の次男坊がフランス料理のシェフになった意外な理由とは?

『レフ アオキ』のオーナーシェフ、青木誠さんと、オーナーマダムの青木三代子さん

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歌舞伎座の裏手に9月にオープンしたフランス料理店『レフ アオキ』。寿司屋の次男坊として育ったオーナーシェフの青木誠さんは、なぜフランス料理のシェフになったのか?

13年間、パリで構えていた店をたたんで

食道楽が”銀座のアオキ”と聞いて思い浮かべるのは、予約困難な人気店として知られる『銀座 鮨青木』だろう。江戸前寿司を京都に広めた初代・青木義さんが銀座六丁目に店を開いたのは1992年のこと。残念なことに義さんは翌年、急逝してしまったが、その遺志は長男である2代目・利勝さんに受け継がれ、彼の手により銀座屈指の人気店に育てられた。

『レフ アオキ / LES FRERES AOKI』。ランチ5500円、季節のコース(時価)、ディナー2万円(税込、ディナーのみサービス料10%別途)。東京都中央区銀座3-12-6 1F Tel.090-2101-3959 営業時間 12:00-14:30(13:30LO)、18:30~(一斉スタート)月曜定休


その『銀座 鮨青木』から歩いて約10分。歌舞伎座の裏手にもうひとつの”アオキ”が誕生した。『レフ アオキ』 と名づけられたその店は、鮨屋ではなくフランス料理店。オーナーシェフとして厨房に立つのは義さんの次男である誠さん、オーナーマダムとしてサービスを担当するのは長女の三代子さんである。2人は一昨年、パリで13年間構えていた店をたたみ、今年から家族が働く銀座で、新たな一歩を踏み出すことにしたのである。

「長らく母のことは兄にまかせっきりでしたので、我々もそろそろ日本に帰る時期かと考えていました。開いたのはカウンター10席の小さな店ですが、ここなら母も兄もいつでも立ち寄ることができる。実際に2人は仕事が終わった後、ちょくちょく顔を出してくれるんですよ」(誠さん)

だが、次男坊とはいえ鮨屋の息子がなぜフランス料理のシェフになったのか? その質問に対し、本人から意外な答えが返ってきた。

「実は子供の頃から米酢が苦手で……。酢飯をつくっている香りで、むせてしまうんですよ」

誠さんが幼い頃から憧れていたのは、テレビで見たフランス料理。いつか自分の手でこんなきれいな料理をつくってみたいと考えるようになり、高校卒業後は帝国ホテルや名店『ロオジエ』で修業を積んだ。父親が亡くなってから実家の鮨屋を手伝っていた時期もあるが、25歳の時に思い切って渡仏。その後、同じく修行のためフランスに渡った姉と、パリ・シャンゼリゼの裏通りに『Restaurant Makoto AOKI』を開いたのは、それから12年後のことである。

フランス語で”きょうだい” を意味する店名

そんな誠さんがつくるのは「何を食べているのかがはっきりと分かるシンプルな料理」。パリ時代からビネガー類や柑橘類の使い方に定評があり、たとえばシマアジのマリネにはオレンジを、また近江牛のハツのコンフィにはバルサミコソースを使うことで、味の輪郭をきれいに際立たせている。

シマアジのマリネ ディル風味 フヌイユとオレンジ


一方、仔羊肩肉のパスティアは、柔らかな肉をパイ生地で包み込んだモロッコ発祥の伝統料理。コリアンダー風味のキャロット・ピューレを添え、洗練されたモダンな料理に仕立てている。また仔鳩のローストは、しっとりと柔らかな胸肉と、濃密で歯切れのいいもも肉が味わえる、誠さん自慢の一品。最後は、たっぷりの生クリームと供される、焼き菓子のババも外せない。

 仔羊肩肉のパスティア キャロットのピューレ コリアンダー風味


柔らかな色合いが特徴的な食器は三代子さんがパリのセレクトショップで買い付けてきたもので、内装のアクセントに金色を使っているのも彼女の発案によるものだという。ちなみに店名の”レフ”は、フランス語で”きょうだい”を意味するLES FRERES(レフレール)に由来する。まさに仲のいいきょうだいの絆を表した店名だ。

「僕は鮨の世界には進みませんでしたが、料理人になったのはやはり父のおかげです」と、誠さんが言う。「父はとにかく食べることに貪欲で、仕事を離れても、家族と料理を作ったり、外食に出かけたりするのが大好きな人でした。そんな父のもとで美味しいものをたくさん食べて育った自分は、自然と味覚が鍛えられたんでしょうね。思えば僕がつくるフランス料理も、素材の味を何より大切にするという点において、どこか鮨に通じるものがあるのかもしれない。それも知らず知らずのうちに受けた父からの影響なのかもしれません」。

文=永野正雄(ENGINE編集部) 

(エンジンWEBオリジナル)

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