私が最初に乗ったのは、6段MTモデルだった。ホテルからサーキットまで、一般道と高速道路を走る。エンジンに火を入れた瞬間から、ノーマルのカレラやカレラSとはまるで違う激しい脈動を伴ったエンジン音が背後から響きわたってくるのは996の時代から変わらないが、脈動のうねりは、先代よりやや大人しくなったように感じられる。ステアリングやペダル類の操作フィールも、ノーマル・モデルよりハッキリと重いのは996時代から変わらないが、GT3同士で比べれば、代を重ねるごとに軽くなっている。クラッチのミートにもデリケートな印象は皆無で、スッとスムーズに動き出した。とてもレーシング・エンジンそのままとは思えないくらい低速トルクが太く、たとえ街中で使ってもストレスなど一切感じないくらい扱い易いエンジンだ。
足回りは硬い。しかし、かつて996GT3がそうであったような、地面を強引に押さえつけながら走る感覚ではなく、しっかりとサスペンションが動いて仕事をしていることが常に感じられる。乗り心地は望外にいいと言っていいだろう。すべてがキュと引き締まったタイトな感じを与えるのだけれど、それがむしろ心地いいようにさえ思えるのだ。6段MTのシフト・フィールは、これまでの人生で乗ったMT車の中でも、1、2を争うくらい素晴らしいと思った。短めのストロークでコンッと吸い込まれるように入る。カレラ系の7段MTも後期型になってずいぶんと進化した印象があるが、それとは別格と言っていいくらい気持ちのいいシフト・フィールだ。しかし、それにも増して素晴らしかったのがエンジンだと言わなければならない。どこにもユルいところがなく精緻に組まれた機械が、こんなにも気持ち良く回るというのは、本当に体験してみなければわからないものだ。どこから踏んでも鋭く回転を上げてくれるが、ずっと踏み込んでいくと4000回転あたりで表情が変化し、さらに7000あたりでまた変わって、そこから上はクオーンという甲高い音を立ててクライマックスに向けて高まっていく。音に演出は感じられない。あくまで機械音、排気音、吸気音が合わさって奏でられる自然なサウンドで、聞いていてまったく飽きることがない。これを聞いてしまうと、カレラSの爆音スイッチを入れた時の派手なボボボッという音が演出に感じられて味気なく思えてくる。GT3が凄いのは、あらゆる点で本物感が半端ではないことだ。いや、実際にすべてが本物なのだから、あたり前か。
サーキットに到着すると、先導車について周回するプログラムが始まった。そこで最初に乗ったのはPDKモデル。これが素晴らしく速く、素晴らしくよく曲がって、素晴らしくよく止まる。要するに、文句のつけどころがまるでないくらいに完璧なクルマだったのだ。運転というのがこんなに楽しいものかと、素直に感動してしまった。もっとも、この後、MT車に乗ってワルター・ロール氏に引っ張られて走ったら、この時はあまりに忙しいのに辟易した。とてもではないが、こんな速いクルマ、私にはMT車をサーキットで乗りこなす自信はない。サーキットに軸足を置いて走りたいのなら、絶対にPDKをオススメする。しかし、一般道に軸足を置くならどっちだ?この後、PDKモデルで一般道を走ったのだが、MTを体験した後だと、比較して、わずかながらユルさを感じてしまうのにちょっと戸惑った。たとえGT3でもノーマル・モードではクルマが勝手に少し早めにギアを上げようとする。それが気になり始めると結構気になるものだ。新型GT3は速いのはもちろん、熟成度が凄い。だからこそ、私なら、それを隅々まで味わい尽くせるMT車を選びたい。速さより運転の楽しさ、の時代が来ている気がする。
▶「ポルシェのおすすめ記事」をもっと見る文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェA.G.■ポルシェ911 GT3駆動方式 エンジン・リア縦置き後輪駆動全長×全幅×全高 4562×1852×1271mmホイールベース 2457mm車両重量 1430kg(PDK)、1413kg(MT)エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHC排気量 3996ccボア×ストローク 102.0×81.5mm最高出力 500ps/8250rpm最大トルク 46.9kgm/6000rpmトランスミッション 7段PDKないし6段MTサスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイルサスペンション(後) マルチリンク/コイルブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(試乗車はカーボン)タイヤ(前/後) 245/35ZR20/305/30ZR20車両本体価格(税込み) 2115万円(ENGINE2017年7月号)
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