デビュー・コンサートの直前に忽然と姿を消した天才ヴァイオリニスト。数々のクラシックの名曲で彩られた意欲的な音楽ミステリーが公開された。
少年の家族が辿った悲しい運命
イギリスの音楽評論家、ノーマン・レブレヒトによる処女小説を映画化した『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』は、クラシック音楽を題材とした骨太な歴史ミステリーである。
第二次世界大戦前夜のロンドン。9歳のマーティンの家に、同い年の少年ドヴィドルが引っ越してきた。ポーランド系ユダヤ人の彼は、ヴァイオリンの才能を伸ばすため、親元を離れてロンドンで暮らすことになったのだ。2人は兄弟同然に暮らし、成長するが、21歳の時に思わぬ事件が起きる。天才ヴァイオリニストと謳われたドヴィドルが、大切なコンサートの前に突然、姿を消してしまったのだ。

時を経て明らかになるのは、ドヴィドルの家族を含むユダヤ人が辿った悲しい運命。防空壕で少年が披露するパガニーニの奇想曲、35年の時を経て披露されるブルッフの協奏曲、そしてホロコースト被害者を追悼するオリジナル楽曲「名前たちの歌」など、全編を彩る弦の響きが美しくも切ない。人類の共通言語である音楽を通して、20世紀の悲劇を伝える意欲的な作品だ。

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』監督はシルク・ドゥ・ソレイユやオペラ、舞台劇のほか、『レッド・バイオリン』や『グレン・グールドをめぐる32章』といった映画の演出も手がけるカナダ出身のフランソワ・ジラール。『だれがクラシックをだめにしたか』などの著作がある評論家、ノーマン・レブレヒトの小説を映像化した。主演はティム・ロスとクライヴ・オーウェン。物語に重要な意味を持つ楽曲『名前たちの歌』はハワード・ショアが作曲した。劇中のヴァイオリン演奏は、2009年にエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝したレイ・チェンが担当。113分。新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中。
(C)2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft
文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINE2022年1月号)
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