2023.01.20

CARS

「私は壊れるクルマは嫌なんです」と言いながら、にっこり笑って夫婦で旧車を楽しむ奥さんに拍手! ボルボとポルシェとロータスの理想的なバランスのカーライフとは

ボルボ240ワゴン(1993)とポルシェ911(2000)とロータス・エラン(1964)が現在の理想のラインナップ。

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一目惚れのセブン

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ボルボを手に入れた翌年、坪井さんはダイビング仲間の勧めで東京から鎌倉に転居。街乗りに便利なモペットの魅力にハマる一方で、クルマ趣味の世界にも足を踏み入れていく。

「実は昔からの友人と2人で一緒にポルシェに乗ろうって言っていたんです。彼は911を買ったんですが、僕は浮気してケータハム・セブンを買ったんです。一目惚れでしたね。乗ったらよかったんですよ、軽いってこんなに素晴らしいんだって!」

かつて乗っていたケータハム・セブン。夫婦で山梨の温泉に旅行に行った際、体調を崩した坪井さんを助手席に乗せ、修子さんが運転して帰宅したこともあったという!


坪井さんが手に入れたのは、1600ccのローバーKユニットを搭載した00年式のスーパーセブン。ところが程なくして件の友人が海外赴任することとなり、2000年型の996カレラ4ミレニアム・エディションも加わることとなった。

「06年のことだと思います。友人から、よかったら乗ってくれないか?ということで、引き取ったんです」

2オーナー6万8000kmでやってきた996は、奥様の修子さんのアシとしても活躍し、現在のオドメーターは13万kmに達している。冬場はスタッドレスを履いて新潟へ出かける機会が多いこともあり、2021年になって錆びたマフラーを交換しているが、15年間ほぼノートラブルで活躍しているそうだ。

世界限定911台で発売された911カレラ4ミレニアム・エディション。

その後09年に今のご自宅を新築し、雨風気にせずにセブンを停められるガレージも確保。理想的な3台体制が整ったのだが、13年にセブンを手放すこととなった。

「かなり気に入っていたのですが、動体視力というか、自分の感覚との遅れを感じるようになったんです」

そこでセブンの代わりに……と目をつけたのがモーガンだった。

「もうちょっと落ち着いて嫁さんも乗れるようなクルマがいいなと。イギリスのスポーツカーの古典で、シーラカンスのように生きているモーガンって面白いなと思って」

なかなか売り物が見つけにくい中、熊本で売りに出ていた72年型の4/4がセブンの代わりにガレージに収まったのは13年のこと。もちろん、今もお気に入りなのだが、一方でスパルタンなセブンの爽快感が、再び恋しくなったのだという。

「箱型で軽くて速くて、メンテもパーツ入手も楽なフォード系のエンジンのスポーツカーに乗りたいなと。そんな時、モーガンの主治医のところに行ったら、レストア途中のこれがあったんです」

2年近いレストアを終え、今年の7月に納車されたばかりという1964年型ロータス・エランS2/SE。

それが、2021年の7月に加わったばかりだという、オリジナリティの非常に高いエランS2である。

「そもそもガレージを建てる時に、あまり大きいクルマを入れることは想定していなかったんですけど、実際に入れてみたら、面白いことにセブンもモーガンもエランもサイズがほとんど同じなんですよ」

確かにあつらえたかのように、ガレージのサイズはエランにピッタリだ。ちなみにガレージの壁紙、ロフト、床の塗装はすべてご自身でされたのだという!

細いレザーステアリング、ハードトップなどオリジナリティを非常に高く保った個体である。

「ガレージの内側もそうですけど、手芸というか、無印の白いトートバッグを自分で染めてワッペン縫いつけて、ロータスやモーガンのバッグを作るんですよ。そこは唯一すごいなと思います!(笑)」

と話すのは修子さん。「私は壊れるクルマは嫌なんです」と言うものの、この4台との生活をご夫婦揃って楽しまれているように感じられた。

夢にまで出てきた240

「僕はベーシックなものが好きなんですね。240も、996も、モーガンも、エランもベーシックじゃないですか。そういう飽きがこないのを選んでるので、逆に手放せなくて困っているんです(笑)」

そう話す坪井さんの気持ちを象徴しているのが、白い240ワゴンだ。実は今の240は3代目。初代と2代目がいずれも高速での事故に巻き込まれて廃車となったが諦めず、新たに探し出したシルバーの個体を過去の2台と同様に白へ塗り替えたうえで、純正と同じ組み合わせになるように、わざわざ2代目の内装を移植したのだそうだ。



「私にしてみれば内装を移植するなんて、ボルボも実用ではなく趣味のクルマですよ」

と修子さんは笑う。しかしながら坪井さんがそこまでしても240を持ち続けるのには理由がある。

「実は911を買った時、ボルボを手放そうかと思ったんです。そうしたら夢の中で240を探し回る自分を見て……。ああ、これは手放しちゃいけないんだと。そのくらい衝撃的な夢だったんですよ」

そうした想い出とともに、クルマを通じて知り合った人との繋がり、好きな物だけで繋がっているゆえの、垣根がない関係が、ものすごい財産になっていると坪井さんは言う。その言葉に優しく頷く修子さんの姿もまた、アイディアル・パートナーという言葉がぴったりだった。

文=藤原よしお 写真=望月浩彦

(ENGINE2022年2・3月号)
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