2022.05.17

LIFESTYLE

本田宗一郎の哲学は生きている! 元HONDA社員が開発した、超高齢化社会における革新的なデバイス

歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」

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HONDAが始めた新事業創出プログラムで初のスタートアップとなったAshirase(あしらせ)。暮らしの豊かさを“歩く”で創ろうとしている。

ロービジョンの増加が懸念される日本の未来

人間の五感でもっとも情報量が多いのは視覚だ。視力が機能しなくなると、日常生活は著しく不便になる。生まれつき、または後天的でも若いうちに視力を無くした場合、補う聴覚や触覚が鋭敏に発達することは少なくない。だが、白内障や緑内障、網膜剥離など、加齢や疾病によって目が不自由になるとかなりの困難を覚えるようだ。全盲ではなくても、眼鏡やコンタクトレンズで充分に補正しきれないこうした視力の障がいをロービジョンと呼ぶ。超高齢化社会を迎える日本において、今後の増加が懸念されている。

本田技術研究所の社員だった千野歩氏は、妻の祖母が視力の衰えが原因の転落事故で亡くなったことを機に、ロービジョンへのサポートを課題として考えるようになった。

「自動車メーカーを選んだのは昔からモビリティに興味があったからです。でも事故をきっかけに歩くこともモビリティと考えるようになりました」

黒いストラップが4カ所の振動子を備えたインターフェイス。足の甲、側面、踵からのバイブレーションで、歩く方向やストップなどのナビゲートを行う。

多くのロービジョンの人と交流するうち、自動車の安全技術を歩行に活かす研究を開始する。

「視覚が不自由といっても、それ以外は僕らと何も変わらない。しかし、美味しいものを食べたい、夜遊びしてみたいと思っていても、目の不自由さであきらめなければいけない」

靴の中の振動で目的地へ

問題を解決するため、開発したのが歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」。本体を靴に装着してスマホアプリと連動、目的地を音声等で入力を行う。GPSと足元の動きから誘導情報を生成し、足に取り付けられたストラップの振動を信号として体感させる。前進、停止、右左折それぞれ部位とテンポが異なるため、より直感的に認識できるのが画期的。

独創的な発想が高く評価され、ホンダ初の社外ベンチャーとして資金調達を実現。社内外の仲間をあつめ、株式会社Ashiraseとしてスタートさせた。

かつて本田宗一郎は、「相手の人の心を理解すること」をものづくりの哲学と新人社員たちに説いた。その会社で技術の研鑽を積んだ若い起業家は、「社会的弱者の歩行」という新しいフェイズへ進みつつある。希代の技術者にして経営者のDNAは確実に継承されているようだ。



株式会社Ashirase代表の千野歩氏。青山学院大学理工学部卒業、本田技術研究所に入社し、ハイブリッド車のパワートレイン制御や自動運転システムの研究開発に取り組んでいた。2021年に起業のために独立。Ashiraseホームページ https://www.ashirase.com/

文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫、Ashirase

(ENGINE2022年6月号)

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