2022.08.22

CARS

販売方法、訴求ポイント、価格、日本での乗用車参入を決めたBYDの戦略とは

中国の自動車メーカーとしては初めて日本の乗用車市場への本格参入を発表したBYD。EVバスなどではすでに日本での販売実績を持つが、乗用車では規制やユーザーの趣向など市場から求められるものも異なるだろうし、さらに日本市場ではまだまだ発展途上の電気自動車(EV)への参入となれば障壁も多いはず。そのあたりをBYDはどのように考え、対策をしていくのか。販売やアフター・サービスなど、日本での販売業務を行うBYDオート・ジャパンの代表取締役社長を務める東福寺厚樹氏に参入の背景などを含め、今回の参入について伺ってみた。



BYD本社の強い思い

――日本の乗用車市場参入というニュースにも驚きましたが、2025年までにディーラー100店舗を目指すという規模感にはそれ以上に衝撃的でした。BYDは日本で、どういうビジネスをしていこうと考えているのでしょうか。

「正直、私も最初はテスラや韓国のヒョンデと同じようにウェブ販売で始めるべきじゃないかと考えていました。BYDは日本において完全に新規のブランドですし、保有台数はほぼ皆無です。しかも、登録乗用車市場の中で1%に満たないバッテリーEV市場への参入ですから、小さく始めてしっかり育てるのがいいんじゃないかと話しました。しかしBYD本社としては、BYDの持つフルレンジに近い商品をしっかりとしたかたちで全国にお届けすることで、“eモビリティを皆のものに”というBYDのブランド・モットーを実践していくんだと強く思っていた。それをカタチにしたということですね」

――その店舗数だけでも、真剣な取り組みであることが伝わりますが、今の輸入車ビジネスは新車を売るだけでは収益にならないですよね。それらのクルマが車検、整備などサービスに入ってくるようになって、ようやく商売として成り立つというのが現状だと思いますが……。

「その通りです。ですからBYDに対して、ディーラー展開していくというのは並大抵のことじゃないですよという話は随分してきたんですが、BYDとしては確固たる存在になるまでずっと続けると、意思は固くて……。ブランド・ミッションの“Technological innovation For a better life”(より良い暮らしのための技術革新)の通り、乗用車を一旦やると言った以上は、場当たり的にちょっと出してみたというのではなく、しっかりとお客様に使っていただいて、その中からフィードバックを得て、さらに良い商品を送り出し、リピートしていただける存在になるという覚悟の下に、今回満を持して発表したということです」



型式認証を取得する

――日本のユーザーは自動車に対する目が肥えていると言われていますし、実際そうだと思います。そんな市場に対してBYDはどのように対応していくのでしょうか。

「まず真剣味を示す物差しになるかもしれないこととして、国交省の認証制度の中できちんと型式指定を取得するというカタチを採ります。最初に導入するATTO3(アットスリー)はPHP(輸入自動車特別取扱制度=少数の輸入自動車のために設定された認証制度)を使いますが、ゆくゆくは型式指定を受けて、中国の工場でラインオフしたクルマでそのまま完成検査証が得られるという状態までもっていこうと考えています。2車種目、3車種目までにはなんとか間に合わせようと走り出しているところです」

――試乗したアットスリーはとても良くできたクルマだと思いました。でも特に輸入車は、よく出来ているというだけは売れないのも事実です。ユーザーにどこをアピールしていきますか?

「奇策は無いと思っています。正直、私と同じ世代の人にとっては中国製というと安かろう悪かろう、最近では安くて、まあ良いものも出てきたよねくらいなイメージでしょう。ファースト・チョイスはしっかりとしたブランドのクルマをとなるはずです。したがって、あえてBYDを選んでいただけるとしたら、セカンダリー・チョイスになると思います。そんな中でBYDも使ってみようと思っていただけるオルタナティブ・チョイス、ファースト・チョイス以外の選択肢としての存在感をいかに認知していただけるようになるかがカギになるでしょう。私の息子の世代になるとモノが良ければいいんじゃないという話も聞こえてきているので、頑張って続けて5年、10年すると世の中の雰囲気も変わってくるかなと期待してます」

――たしかに近道は無いのかもしれません。でも、あまり時間をかけてもいられないですよね。それこそ店舗数が多いと。

「小さく生んで小さく終わるわけにはいかないので、ある程度規模感がとれるような仕掛けはちゃんとつくって、慎重にアプローチしながら良いものをちゃんと提供できるようにしていくつもりです。PDIセンターでしっかりチェックして、品質的にも性能的にもまったく問題がないというものだけを、しっかり世に出していこうと。今、本社の深センからアフターセールスやネットワーク、セールスの人間が来て我々と一緒に作り込みを行なっています」



スピード感がすごい

――中国と日本ではやはり考え方の違いみたいなものはありますよね?

「はい、彼らも日本のやり方を見ていて、我々が“ここをこうしてほしい”とか“この状態は中国ではOKかもしれないけど日本ではダメ”というところを学んでいる最中です。クルマ本来の品質には問題が無くても、見たとき、所有したときのお客様の心の品質レベルを高めることが必要になります。そして、これらを担保するためにはディテールまでこだわろうという話です。本社もそのあたりを汲み取ってくれていて、日本品質ができれば世界中に持っていけるということで、しっかりやっていくんだという気概をいま非常に感じているところですよ」

――中国、特に深センの企業というと、何事もとてもスピーディという印象があります。

「スピード感はすごいです。これまでの自動車業界の常識は通用しない。良いと思ったらすぐやります。マーケットの声をどんどんフィードバックして、メーカー側もどんどんそれに応えていくような仕組みが作れると、とっても面白いことになると思いますね」

――気になるのは価格です。この時代、中国ではいくら、オーストラリアではいくらというのがすぐに分かってしまうわけですが、その辺りの値付けを見ると、結構リーズナブルに入手できるのではないかと期待してしまうのですが。

「価格はまだ検討中なんです。11月までにはしっかりとした価格付けをしたいと思って見当を進めているところですが、基本的には手の届きやすい価格と思っていただけるようなところでと考えています。バリューフォーマネー。この価値でこの価格なら買いだなと思っていただけるようなレベル感は是非出したいと思っています」



インタビュアー・文=島下泰久 写真=郡 大二郎、BYDオート・ジャパン

(ENGINE WEBオリジナル)

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