2022.08.23

CARS

果たして、成功を勝ち取れるか 中国自動車メーカーBYDの乗用車進出を詳しく解説

2023年1月から中国の自動車メーカーとしては初めて日本で乗用車の販売を開始するBYD。電気自動車を軸に中国市場で販売台数を伸ばし、オーストラリアや東南アジアなど海外への進出も開始するなど、その成長は著しい。また、トヨタとEV関連で合弁会社を設立したほか、テスラへのバッテリー供給もほぼ確実視されるなど、世界が注目するに値する実力を有するのは周知の事実だ。しかし、日本の乗用車市場への参入となると、中国製品への不安や、そもそもEVの普及率が低いなど障壁も多い。果たして、BYDは日本市場で成功を収めることができるのか。BYDの日本上陸の意図や目的を含め、モータージャーナリストの島下泰久氏が解説する。

2022年は2倍以上の成長

BYDの日本の乗用車市場への進出を聞いて、正直なところ最初はその意図がつかめなかった。何しろ中国国内でのBYDの成長ぶりは凄まじいものがある。それがなぜわざわざ日本へ?

2021年、BYDは中国国内で約60万台の車両を販売した。ハイブリッド(HEV)と電気自動車(バッテリーEV=BEV)を合わせた、いわゆるNEV(ニュー・エナジー・ヴィークル)市場の規模は約350万台だったというから、つまりそこでのシェアは2割近くにもなったわけだ。そして驚くべきことに今年の販売台数は120万~150万台が狙えるペースで推移しているのだという。一気に2倍から2.5倍という驚異的な伸びを見せているのである。



輸出ビジネスの大きな武器になる

日本市場参入の意欲も相当なものであることは、2025年までにディーラー100店舗を目指すという数字から見ても明らかだ。しかし、何しろゼロスタートの事業である。当面の販売台数は、おそらく中国国内の数%かそれ以下といったところに留まると見るのが現実的だろう。果たしてそれだけの投資は何に繋がるのか。

おそらく一番大きいのは、クルマそれ自体、そして販売やマーケティング、さらには流通、整備などに至る自動車輸出ビジネス全体のノウハウを鍛えるということだ。日本のユーザーはあらゆる面で目が肥えているというのは、よく知られた話。ここでライバルと見据えたほかのブランドたちとの戦いのなか、こうした自動車ビジネスの根幹の部分を磨き上げていけば、それは中国国内ではもちろん、今後おそらく本格化していくつもりであろう世界各国に向けた輸出ビジネスでも、大きな武器になる。

たとえばの話、東南アジア、ヨーロッパなどの現在は日本車が強い市場へ、今は日本車が弱いBEVを主力として日本車に負けない販売やサービスの体制で食い込んでいくことができたなら、日本への投資は十分に回収できる。おそらくは、そんな風に踏んでいるに違いない。

ただし、それは日本市場はダシに使われているだけで、真剣じゃないという意味ではない。動機はどうであれ、ここでしっかり結果を出さないことには次につながらないということ、BYD本社は強く意識しているはずだ。そして実際にBYDのクルマは、まだ日本導入第1弾モデルとなるコンパクトSUVのATTO3(アットスリー)を試しただけではあるが、実力としてはどうやら十分に通用するものとなっていそうなのも、これまた事実である。



普段のアシとしてのニーズは高いかも

趣味性を求めてクルマ選びをする人には、おそらくほとんど響きはしないだろう。もちろん、その後に投入予定の4ドア・クーペ・モデルであるSEAL(シール)などは、そういうところにもアピールする可能性はあるし、とりあえずアットスリー、そしてよりコンパクトなDOLPHIN(ドルフィン)などは、それこそ地方都市などでの移動手段としては、受け入れられていく余地が無いと言えない。もちろん、まだ決定していないという価格によってはという条件こそ付くが……。

今、地方都市に暮らしていて、メインのクルマを1台持っているほかに、軽自動車を普段のアシとしている人が、その軽自動車の置き換えにといったカタチでアットスリーやドルフィンを選ぶのは十分にありえる。日本のBEVは今のところ選択肢が多くなく、たとえば日産リーフじゃなければ日産サクラになる。価格設定次第だが、もしもリーフより安く、あるいはサクラに少し足したくらいで、しっかりとしたクオリティを備えたコンパクトSUVが手に入れられるとなれば、ニーズはありそうだ。





じっくり取り組む覚悟がある

まさか中国車に?と、思う方も少なくはないだろう。しかしながら、ちょっと前までは、そうした用途であっても抵抗感が少なくなかった軽自動車に、今はほとんどの人がネガティブな感情は抱いていない。10年後、今はまだ抵抗のある中国車への気持ちが、どうなっているかなんて分からないと私は思っている。

実際、EVバスの日本でのシェア首位は今、まさにBYDなのだ。商用EVの分野にも中国勢が参入しつつある。商用車に求められる壊れず、安価で、機能的という条件を満たしているとなれば、そうなるのは必然である。乗用車にも趣味性などは求めず、まさに実用性が高く壊れず安くてサービスが良ければ必ずしも日本車じゃなくていいという人が今後、増えてきてもおかしくない。それを見据えて、じっくり取り組んでいく覚悟がどうやらBYDにはあるようだ。

もちろん、簡単ではないだろうが、気づけば自分の身の回りの電化製品や撮影機材等々に、以前よりもずっと中国製品があふれていることを鑑みても、そうならない理由は薄いとも思える。しかも、輸入車ディーラーとしての手厚いサービスがそれに付随してきたら……。

いずれにせよ、侮るのは間違いである。彼らには勢いも、どうやら実力もあり、何しろ本気なのだから。



文=島下泰久 写真=郡 大二郎、BYDオート・ジャパン、編集部

(ENGINE WEBオリジナル)

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