2022.11.25

LIFESTYLE

箱根・ポーラ美術館で開催されている異色の展覧会「村上華子『du desir de voir写真の誕生』」が面白い! 200年前の写真はこんな感じだった?

注目のアーティスト、村上華子。

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我々が当たり前のように見ている写真。だがその技術が生まれる前に、どんな試行錯誤が繰り返されていたのか?写真のはじまりをテーマにした、異色の展覧会に足を運んだ。

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見たいという欲望

現存する世界最古の写真とされているのはフランスの発明家、ニセフォール・ニエプス(1765-1833)が1827年に撮影した『ル・グラの眺め』である。アスファルトを感光材に用いて、自宅の2階窓から見える風景を金属板に定着させたその写真は、太陽で描くことを意味する“ヘリオグラフィー” とも呼ばれている。

箱根のポーラ美術館、アトリウム ギャラリーで開催中の『du desir de voir写真の誕生』は、そんな世界最古の写真が完成するまでの、幾多の試みや“失敗”を作品として甦らせた異色の展覧会だ。手掛けたのはパリを拠点に活動する1984年生まれのアーティスト、村上華子である。

箱に小さな穴を開けて光を通すと、箱の内側に外の景色が映し出される。ニエプスが考えたのは、この“カメラ・オブスキュラ”と呼ばれる、カメラの原型となる装置から生まれる像を、何らかの支持体に定着させ、永続的に保存する方法だった。

本展では、ニエプスの実験よろしく、塩化銀を上塗りした紙や、煮詰めたラベンダーオイルや松ヤニを塗布したガラス板などに定着させた、風景や植物の作品を展示している。暗い会場にほのかに漂うのは、ニエプスが現像液として使っていたラベンダーオイルやテレピンオイルの香り。この不思議な空間で、まだ写真とは呼べない作品群を眺めていると、まるで当時のニエプスの実験室にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。



ちなみにニエプスは、1839年に史上初の実用的な写真技術、ダゲレオタイプ(銀板写真)を完成させたルイ・ジャック・マンデ・ダゲールと共同研究を行っている。本展では、ダゲールの実験にも焦点を当てるほか、彼がニエプスに書いた手紙の中にある「あなたの自然に基づいた習作を見たいという欲望に私は燃えている」という言葉の一部を、ネオン管を使った作品で用いている。

そもそも人がモノを見たいという欲望はどこから生まれるのか? なぜ人は目の前にあるモノの痕跡を留め、他者と共有したいと思うのか? 200年前の発明家たちの視点を借りながら、そんなことをつい考えてみたくなる作品展だ。



■HIRAKU Project Vol.13 村上華子『du desir de voir写真の誕生』は2023年1月15日までポーラ美術館1F アトリウム ギャラリーで開催中

■村上華子:ものを見ることや、それを残そうとする人類の営みを、哲学的に問いかける作品を手がける。国内外で個展を開催し、2019年にはアルル国際写真祭で新人賞にノミネートされた。

文=永野正雄(ENGINE編集部)

(ENGINE2022年12月号)

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