2022.10.21

LIFESTYLE

ポーラ美術館『ピカソ 青の時代を超えて』 最新の科学調査で巨匠の絵画を紐解く! 

別の人物像の絵の上に描かれていることが判明した《海辺の母子像》(中央)。(c)Ken KATO

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箱根のポーラ美術館で開催中の『ピカソ 青の時代を超えて』。最新の科学調査により、ピカソの革新的表現の原点に迫る。

巨匠のブルーピリオド

だれもがその名と作品を知っているピカソ。91年という長い生涯の間、絵画にとどまらず、彫刻や版画、陶芸など超人的に大活躍。常に画風を変化させつづけているにもかかわらず、作品をひと目見れば多くの人が「ピカソだ」とわかってしまう。人々の記憶にしっかりと刻まれる作品を描く20世紀最大の芸術家だ。

そんなピカソは20代前半、青色を多用した深い精神性を感じさせる作品を数多く描いていた。この時期を、研究者たちはピカソの「青の時代」と名付けた。ちなみに「青の時代」は英語では「ブルーピリオド」。現代では、不安を抱える青春時代を表す意味を持つ言葉としても使われるようになっている。この「青の時代」に、いま注目が集まっているのだ。



別の人物像の上に

従来、「青の時代」はピカソが若かりし頃の“さなぎ時代”として捉えられていた。彼が蝶のように世界へ羽ばたく前段階、試行錯誤していた頃という位置付けだ。しかし近年、「青の時代」とは、彼が生み出した「キュビスム」をはじめとする革新的な表現の原点なのではないか? と考えられるようになってきている。現在、ポーラ美術館で開催中の展覧会『ピカソ 青の時代を超えて』は、最新の研究に基づきピカソを紹介する意欲的な展覧会だ。

たとえば、《海辺の母子像》。ピカソが20歳のときの本作品はX線調査により、別の人物像の絵の上に描かれていることが判明、少なくとも4層構造になっていることがわかった。当時のピカソは、評価はされていたものの、ほとんど作品が売れず経済的に困窮しており、制作費用を抑えるためにカンヴァスの再利用や描き直しを行っていたようなのだ。《酒場の二人の女》も同様に、うずくまる母子像の絵の上に描かれたことが判明している。



描いた絵の上に全く異なる絵を塗り重ねる。この過程で、制作意欲に燃えるピカソは、同じ平面に異なる視点の絵を同時に描くおもしろさに気づいたのではないだろうか? キュビスムの技法で描かれた《裸婦》の山の風景と裸婦像の組み合わせは、山の絵の上に、裸婦像を重ねて描いたときに発見した表現だとしたら……と考えるとワクワクしてくる。

だれにもいわゆる「ブルーピリオド」がある。そのときに触れた文学、芸術、眠れなくなるほどの葛藤は、私達の「前段階」などではなく、確固とした「核」となっている。この展覧会を見ていると、そんなことを考えてしまうのだ。



『ピカソ 青の時代を超えて』は2023年1月15日までポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)で開催中 ※ひろしま美術館では2023年2月4日~5月28日に開催予定 (c)Ken KATO

文=浦島茂世(美術ライター)

(ENGINE2022年11月号)

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