2023.02.20

CARS

ラグジュアリー・ブランドに期待されるものとは何か? メルセデスEQシリーズの未来を描く、エクステリア・デザイナー、ロバート・レズニックさんにインタビュー!

メルセデス・ベンツのエクステリア・デザイナー、ロバート・レズニックさん。

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メルセデス・ベンツのデザインは何処へ向かうのか。フランスのロダン美術館で催された“マジカル・ガレージ・イン・パリ”という催しに参加した、自動車ジャーナリストの島下泰久が、同ブランドのエクステリア・デザイナー、ロバート・レズニックさんにインタビューした。

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あと10年もすれば内燃エンジン車とBEVはまた同じ車体を共有するようになる

会場はフランス・パリ7区にあるロダン美術館。ここで開催されたメルセデス・ベンツのイベント「Magical Garage in Paris 2022」で、同ブランドのエクステリア・デザイナー、ロバート・レズニック氏にまず訊いたのは、まさに発表されたばかりの新型車、EQE SUVのことだ。

とても躍動感があり、車体の大きさを感じさせないEQE SUVのスケッチ。

「EQE SUVは丸みを帯びたデザインでコンパクトに見えますが、実は大きく重いクルマです。重いクルマを重そうに見えるデザインにするのは簡単ですが、今それをやると、とても非効率、反社会的な存在に見えるでしょう。ですから少し控えめでさりげないデザインとしたつもりです。実際、Cd値0.25と非常に優れた空力特性も実現しています」

メルセデスはBEVをEQというサブブランドで展開しているが、BMWなどは同じ車体で内燃エンジン車とBEVを両方揃えている。将来は一体どの方向に進むのか。そのビジョンは興味深いものだった。

「私はあと10年もすればすべてが再び1つになると考えています。私たちが今、敢えて内燃エンジン車とBEVの違いを最大化しているのは、そういう時期と考えているから。ですが顧客の志向が定まってくれば、まるでジッパーのように最後はひとつにまとまると思うんです」

続いて訊いたのは、最近のメルセデスでよくいわれる、各車が似過ぎているのではという話。それについての答えも、やはり意表を突いていて、思わず身を乗り出してしまった。

「EQシリーズは各モデルにブラックのグリルや横一線に繋げられたテール・ランプなど、ほぼ同じグラフィックを使っています。内燃エンジンのモデルと区別するため意図的にです。内装もまったく一緒です。私たちにできる最善のことは、どのセグメントでも最高のメルセデスを提供すること。それを突き詰めるとクラス間の差別化は不要になるんです」

つまり意図的だったというわけである。ではパッケージングについてはどうだろう。BEVはレイアウトの自由度が高い。もっと斬新な提案もあり得るのではないか?

「ドイツでは点を繋ぐという風にいうのですが、何事も一足飛びではなく点を繋ぐように進めていく。たとえばCクラスのようなクルマが新しくなる時、サイズは少し大きくなりますが、せいぜい10cm程度。オペレーティング・システムなども進化しているでしょうが、結果それでもCクラスになるんです。なので将来、内燃エンジンがなくなっても、結局は皆が求めるようなクルマが登場しますから、ご安心を」

EQシリーズの統一されたフロント・マスクを示したもので、本文中でレズニック氏が触れている部分だ。こうして6つのモデルを見比べると、確かに電気自動車のEQシリーズは車体サイズの大小はあれど、フロント・マスクの印象はどのモデルも共通だ。ヘッドライトの造形や黒いグリルなどで、明確に従来の内燃エンジン車とは異なるもの、という表現がされている。ただし、彼自身は今こうして2つに分かれているデザインが、今後はまた1つのものになると考えているという。

感情を刺激する

先日、メルセデス・ベンツはエントリー・セグメントを縮小し、ハイエンドをより強化していくという方針を明らかにしたばかりだ。では、そのデザインを他と隔てるのは一体どんな要素なのだろうか。

「SLに象徴されるように、メルセデス・ベンツは常にラグジュアリーを志向してきました。それを今後はさらに強めていきます。その時に求められるのはデザインであり美であると思います。このロダン美術館には沢山の彫刻がありますが、そのうちのいくつかには誰もがそこに触れた痕跡が残っていますよね。思わず手を触れたくなる官能的な形。それこそが美しさでしょう。美しさがあれば退屈なんて無縁ですよ」

実際、庭や建物の中にある彫刻の中には、多くの人が手を触れ、磨かれたものがある。それを見て、人はまた感情を刺激されるわけだ。

「メルセデス・ベンツは単なる実用品としてのクルマではなく、まさにこのような、常に人々の感情に訴えかける存在だと思っています。これこそがラグジュアリー・ブランドに期待されるものだと信じているんです」

思わず触れたくなるようなクルマの登場。これからのメルセデス・ベンツには期待して良さそうだ。


ロバート・レズニックさんがデザイン優先で選んだ1台/Mercedes-Benz CLS (2004)
セダンのまったく新しい解釈だったCLS
「メルセデス・ベンツ初の4ドア・クーペ、CLS(C219)です。当時、私は別の自動車メーカーのデザイナーでしたが、路上でこのクルマを見たとき、その外観と「メルセデス・ベンツがここまで先進的なクルマをデザインし、造っているのか」ということに、本当に感心しました。非常に低く、ラウンドしていて滑らかに見えます。異様に低いリア・エンド、高いベルトライン、小さなサイド・ガラス。セダンのまったく新しい解釈。その型破りなアプローチで、世界中の多くのカー・デザイナーに影響を与えたのです。私も含めて」

文=島下泰久 協力=メルセデス・ベンツ日本

(ENGINE2023年1月号)

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