2023.02.19

CARS

世界でたったひとつのガラスのガレージがある隠れ家別荘をマクラーレンGTで訪ねる まるでサンダーバードの秘密基地!【後篇】

マクラーレンGTと秘密の隠れ家別荘のガラスのガレージ

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スーパー・グランド・ツーリングカーのマクラーレンGTで旅をするなら、「美しい旅」がいい。閃いたのは、雑誌『エンジン』の人気連載「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の家を求めて」で、タッグを組んでいるデザイン・プロデューサーのジョー スズキさんを誘ってとびきり美しい建築を見にいく旅だ。今回はその後篇をお届けする。いよいよ旅は秘密の別荘へ!◆【前篇】から読む場合はコチラから!

ガラスと鉄の箱

時間をかけて箱根のワインディングを走ったこともあって、目的の別荘に着いたのは日差しが傾きかける頃だった。今回オーナーの立ち会いはない。管理の人に鍵を開けてもらって、なかにクルマを入れると、6ヘクタールの敷地の奥にガラスのガレージが見えた。



「いやあ、これは美しい!」

思わず最初に出た言葉がそれだった。圧倒的な美しさ。これが個人の別荘のガレージとはとても思えない。13.5m四方で高さは3.5mだが、数字以上に大きく感じる。なかにはケータハム・スーパーセブンやロータス・ヨーロッパ・スペシャルなどの英国車と、フェラーリ328GTS、ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリー、さらに最近加わったばかりだというランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ、そしてハーレーをはじめとした数々のバイクも並んでいる。しばらく黙って見つめていた私に、ジョーさんが建物のディテールを説明してくれた。

「屋根の先端の厚みは10cmなんですが、思った以上に薄く感じますね。造船業者が施工したという屋根は溶接だけで完全防水を実現してます。それにしてもやはり驚くのはその屋根を支えているV字型の柱の細さ。相当な重量があるはずですが、これで十分な強度があるとは驚きですね」

地下トンネルの先に現れる、まるでディーラーのショールームのようなクルマ寄せ。左側が主屋の玄関で、正面には海が見える。


四方を囲む透明なガラス。薄い鉄の屋根と細い柱。たったこれだけの要素なのに、全体としてとてつもなく美しい。不思議なのはガラスも屋根も、本当は重いはずなのにその重量を感じさせないことだ。ガラスに反射する揺れる木立の影を見ていると浮遊感さえ感じられた。素材と構造でこんな表現ができることに驚かずにはいられない。

設計者の岡田さんはこの「透明な箱」をつくるにあたって、できれば柱も屋根もなくしたかったという。詳しくはジョーさんが岡田さんを取材して「マイカー&マイハウス」で記事化したものがENGINEWEBに上がっているのでそちらをご覧いただきたいが、この透明な箱は、美しく、しかも居心地の良さもある。それはオーナーがガレージの右端に置いた白いソファーを見てもわかる。ソファーの向こう側には工具入れが置かれ、その手前にはヘッドカバーが緑色に塗られたロータスのエンジンもあった。クルマ好きのオーナーはミニマリスティックなこの空間を間違いなく楽しんでいる。

海と反対側には芝生の中庭がある。主屋とガレージの間は巨大な半円形のコンクリートウォールで仕切られており、完全なプライベートが保たれている。

それは、主屋でも同じだ。ガレージ横のトンネル(個人の別荘になんとクルマが通るトンネルがある!)から入った海が見渡せる地下のクルマ寄せ。地上階の広々としたリビング。建築家の岡田さんの空間デザインを背景に、オーナーが取り合わせた家具や調度類も美しく、ミニマルで居心地の良い空間となっていた。


別荘から帰る車中、ジョーさんとデザインの話になった。そのなかで印象に残っているのが、ジョーさんが言った、インテリア・デザイナーの倉俣史朗さんの言葉だ。

「美しさも機能のひとつである」

美しいものには実際の機能のほかに、心に何か働きかける機能もあると言うのだ。ガラスのガレージは、クルマをしまっておく機能のほかに、クルマと共に過ごす時間を喜びに変える機能もあった。不思議なことにマクラーレンGTにも同じことを感じた。ひとつは速さを追求したエアロダイナミクス的な実際の機能。そしてもうひとつはスピードに惹かれる僕達の心に働きかける機能だ。しかもそれは荒々しいスピード感ではなく、魅力的で優雅で洗練されている。マクラーレンGTにはそういう美しい速さがあることが、この建築旅で初めてわかった。

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文=塩澤則浩 写真=望月浩彦 コーディネート=ジョー スズキ 取材協力=岡田哲史建築設計事務所




■マクラーレンGT
駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4683×2045×1213mm
ホイールベース 2675mm
トレッド(前/後) 1671/1663mm
車両重量(前軸荷重:後軸荷重) 1530kg(640kg:890kg)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量 3994cc
最高出力 620ps/7500rpm
最大トルク 630Nm/5500-6500rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後) マクファーソンストラット/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式スチール・ディスク
タイヤ(前) 225/35ZR20
タイヤ(後) 295/30ZR21
車両本体価格 2695万円

■建築家:岡田哲史 1962年兵庫県生まれ。NYのコロンビア大学大学院で学び、早稲田大学で博士号を取得。建築史の研究活動をした後、本格的に設計活動を開始。住宅や別荘からギャラリー・音楽ホールまで幅広く手掛ける。建築史に造詣が深く、美しく細やかなディテールと豊かな空間性には定評が。2006年に権威ある国際建築賞を受賞したため、世界的に知名度が高く、海外でも設計・教育・講演活動をしている。写真の住宅は小誌の「スーパーカーのある家」特集(2019年3月号)で大きな話題に。

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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!


(ENGINE2022年5月号)

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