2024.11.30

LIFESTYLE

リビングにはウェグナーやフィン・ユールの名作家具、ガレージには3台のポルシェが並ぶ家 建築家が目指したのは、どんな空間だったのか?

突然ポルシェ党に

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家を建てる際、ポリシーの明確なHさん達は、好きなものについて彦根さんに伝えている。打ち合わせのテーブルに並んだのは、お気に入りのサンダルや時計などで、クルマに関するものは何も無かった。それが、家ができて程なくしてポルシェに乗るようになったのだ。彦根さんは慌てて様子を見に行ったという。ライフスタイルを丁寧に設計に反映してきたはずなのに……。

シュトゥットガルトの博物館で見て感動し、日本で手に入れることにしたポルシェ356C。「C」はこのシリーズの最終モデル。奥さんのお爺様の乗っていたカブト虫と、エンジン音が一緒だとか。964のカブリオレは空冷モデル。この2台は夏に乗るのが大変だとか。実は博物館で見たメルセデス・ベンツ190SL(1959年製)もコレクションに。

実はHさんたちは、保有車数こそ少ないが、ボルボやBMWなど、拘ったクルマに乗ってきた。だが、今のように数台も所有するようになったのは、この家の完成後。それには奥様の実家が、豊かなカーライフを送ってきたこととも関係している。お爺様はメルセデスとフォルクスワーゲン・ビートルを持っており、お父様はポルシェ911に乗っていたことも。子供の頃に妹さんと、狭くてうるさい後席に乗せられた思い出もあるそうだ。こうした環境に育ったため、学生時代はファッション誌ではなく自動車雑誌を読んでいたのも納得である。

そんな夫婦が今まで所有したクルマは30台以上に。最初は、「60歳を過ぎたらポルシェに乗るのも悪くない」といった具合だった。それが変わったのは、メルセデス・ベンツ500E(1991年製)を所有してから。Eクラスのボディに、ポルシェがチューンしたエンジンとシャシーを持つこのクルマは、今まで知っていたメルセデスと違って、リアが硬い乗り味をしていた。それからポルシェに興味を持ち、家族全員で乗れるカイエン・ターボSに乗ることに。これがとても魅力的なクルマで、Hさん夫婦はポルシェにはまっていく。こうして10年足らずの間に乗ったポルシェは15台に。内訳は、356の他に、911系が5台。カイエンが5台。マカンが3台。パナメーラ1台。車庫に眠らせておくのは主義でなく、このページに写真のある3台はしっかりと整備され、しばしば週末のワインディングロードに連れ出している。

991型のGT3 RS。スーパースポーツと356との共存も、「製造された時代や車種が変わっても、乗り味に共通する部分があって魅力的」で、「新しいモデルが出ると、気になってつい……」となってしまうのだとか。古いメルセデスも所有しており、お爺様が手放した280CE(1975年製・縦目のコンパクト)を買い戻している。

口を揃えて、「今となっては、ポルシェ以外のクルマに乗ることは考えられない」と話すHさん夫妻。奥様は、「ポルシェの夢を見ることも」多々あるとか。二人にとってポルシェ最大の魅力は、「走りに関して手を抜いていない点」だ。直接目に見えない部分も、「しっかり作りこまれているので、座った瞬間、感覚的にその良さが分かる」そうだ。それは美しいだけでなく、直接目に触れない設備に拘り、快適であるように作られたH邸に通じるものでもある。Hさんたちの哲学は、家にもクルマにも、強く反映されているのだ。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

■彦根明:1962年埼玉県生まれ。東京芸術大学修了後、磯崎新の事務所を経て独立。数多くの住宅を手掛ける人気建築家。著作である『最高に美しい住宅をつくる方法』は、「1」「2」の他、「最新版」「完全版」などシリーズに。最近は旅館などの仕事も多い。愛車は、友人から譲り受け、1年かけてオーバーホールした1981年製の赤い930。ポルシェの中でも、この形がお気に入りなのだとか。写真の名手で、右の写真も同氏のもの。息子さんと共著の『LIFE and iPhone iPhoneでセンスがいいねといわれる写真を撮る方法』がある。奥様である彦根アンドレア氏も、著名な建築家。

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(ENGINE2021年1月号)

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