2024.01.12

CARS

997後期型の911ターボは、どんなポルシェだったのか? ティプトロニックからツイン・クラッチのPDKになって変わったことは【『エンジン』蔵出しシリーズ/911誕生60周年記念篇#12】

ポルシェ911ターボ・クーペ(997後期型)

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格段に洗練された乗り味

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最初に乗ったのは、7段PDK仕様のカブリオレ・モデルだった。左手でキイを捻ると、短いクランキングで新フラット6はすぐに目を覚ました。アイドリング音がこれまでより静かになっている。

クーペと同時にカブリオレもデビューした。この個体が履いているのが、標準仕様の新デザインとなるツートン・カラーの鍛造19インチ・ターボホイール。

走り出すとすぐに、ステアリング・フィールもエンジンの回転フィールも、すべてが緩みないポルシェ独特のミーティな(肉がぎゅっと詰まった)感じが伝わってきた。しかしその一方で、新エンジンが旧型とは比べ物にならないほどスムーズで、回り方が穏やかになっているのは一目瞭然だった。3000回転まではまるで乗用車のように静かだ。そこからさらに踏んでいくとターボ独特の風が吹きつけるような快音を立てて恐ろしい勢いで加速するのは変わらないのだが、旧型に見られた粒が弾けるような荒々しさや、背後から猛獣が襲いかかってくるような激しさはない。

良く言えば格段に洗練されている。けれどもなにか物足りない感じもあって、997前期型に初めて乗った時に感じた、あまりの男っぽさに対する驚きが懐かしく思い出されたりもした。


乗り心地も明らかに良くなっている。出力の増大に合わせて足回りは間違いなく締め上げられているはずなのに、可変ダンパーのPASMの制御が進化して柔軟さを増したおかげか、急な入力に対してビシッ、バシッとくるようなハードさは完全になくなっている。この乗り心地の進化には、新たにオプション設定されたダイナミック・エンジン・マウント(エンジン・マウントの硬さをアクティブに変化させることでスポーツ性と快適性を向上させる)も効いているに違いない。

青い空の下、オープンにしてクルージングしている時の気持ちよさは、旧型以上だ。


曲がる4WD

にもかかわらず、高速道路や一般道を走りながらストレスがたまってくるのを、私は感じていた。このクルマが持っている底知れぬパフォーマンスを、十分に味わい尽くしている気がしないのだ。今回、試乗コースにエストリル・サーキットが加えられていたのは、その意味では当然の計らいだったと思う。これほどのポテンシャルを秘めたクルマを公道でテストするのは、もはや不可能だ。



サーキットでは先導車がついての隊列走行による試乗ながら、ほとんどレーシング・スピードといっていいほど速度を上げてくれるおかげで、新型ターボの実力を隅々まで堪能することができた。速さだけだったら驚きはしない。この新型の凄いところは、驚異的な扱い易さを兼ね備えているところだ。パドル・シフトのPDKはもちろん、アクティブに前後のトルク配分を制御する4WDシステムに加えて、リアの機械式ディファレンシャル・ギアにリア内輪の自動ブレーキを組み合わせてアンダーステアを抑制するポルシェ・トルク・ベクタリング(PTV)がオプション装着されたことで、コーナリング性能が一段と高まった。

ポイントはターン・インにある。いかにスムーズにノーズをインに向けるか。いくら後輪駆動よりとはいえ4WDのターボはどうしてもアンダーステア傾向にある。それをリア内輪にブレーキをかけることで積極的に曲げてくれるのがPTVだ。向きさえ変われば、あとはターボの怒濤の加速でコーナーを立ち上がればいい。とりわけセラミック・ブレーキ装着のクーペがサーキットでは圧倒的なパフォーマンスを見せた。


それにしても、ポルシェはどこまで進化するのだろう。一般道ではより快適に、サーキットではより扱い易さを増した新型911ターボは、さらに間口を広げて、世界中のスポーツカー好きの成功者たちを取り込もうとしているかのようだ。

文=村上 政(ENGINE編集長)

■ポルシェ911ターボ・クーペ(997後期型)
駆動方式 エンジン・リア縦置きフルタイム4WD
全長×全幅×全高 4450×1852×1300mm
ホイールベース 2350mm
車両重量 1570kg(MT)/1595kg(PDK)
エンジン形式 直噴水冷水平対向6気筒ツインターボ
排気量 3800cc
ボア×ストローク 102×77.5
最高出力 500ps/6000rpm
最大トルク 66.3kg/1950-5000rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 通気冷却式ディスク/アルミ・モノブロック・キャリパー
タイヤ(前)235/35ZR19
タイヤ(後)305/30ZR19

車両本体価格 1976万円(MT)/2051万円(PDK)

(ENGINE2010年1月号)

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