『ENGINE』8月号では「2023年、推しの1本はこれだ!」をテーマに時計を大特集(前篇)。編集部が信頼する時計ジャーナリストと目利きたちでエンジン時計委員会を結成し、時計好きとしての原点に立ち戻り、2023年のイチオシの時計について、その熱い想いを打ち明けてもらった。
今回はIWCから、1976年のジェラルド・ジェエンタデザインを現代的にアレンジした「インヂュニア・オートマティック 40」を紹介する。
ガンガン使おう
菅原 茂(時計ジャーナリスト)
もう懐かしさ最高潮。30年以上も前のこと、仕事仲間が着けていたのがジェンタ・デザインの「インヂュニアSL」だった。最新作を見たときは、旧友に再会したような気分になった。年を重ねても表情に若々しさを宿し、スポーティな装いに身を包んで相変わらず元気。変化といえば、少々恰幅が良くなったことぐらい。そんなイメージの「インヂュニア」は、昨今注目を浴びるスポーティなブレスレットウォッチでも、エンジニアという名のようにもとより理科系で質実剛健、お洒落なラグジュアリー系のそれとは一線を画す存在である、とまあ勝手に決めつけている。なので、働く男たちのためのタフで頼れる時計として使い倒したいと思わせるのだ。
おかえり、ジェンタ
高木教雄(時計ジャーナリスト)
ジェラルド・ジェンタのデザインが再来──そう聞いただけで、もうワクワク感が止まらない。天才時計デザイナーが1970年代に生み出した“ジャンボ”三兄弟の1つ、「インヂュニア SL」の姿が、現代に蘇った。ジウジアーロやガンディーニがデザインした名車の復刻を、いくら旧車ファンが望んでも、安全性能・空力性能などを鑑みると、おそらくは無理。あぁ、時計好きでよかった。ベゼルをビス留めに変更し、リューズガードを追加して、より力強くかつ洗練された印象に生まれ変わらせているのが、好印象。ダイアルの凹凸装飾を好んだジェンタがIWCのために考案したグリッド模様は、研磨仕上げを追加することで艶感が与えられ、ちょっとセクシーになってるのも好みだ。
物事の本質にたどり着く
野上亜紀(時計&宝飾ジャーナリスト)
大学院でフランス文学を学んでいた頃、研究に迷ったら“基本に戻れ”ということをしばしば教官から教えられた記憶がある。例えば研究ひとつとっても時代ごとに流行は存在し、新たな手法と情報が増えるほど、作品の本質は見落とされがちになるからだ。この新しい「インヂュニア」はふと、そんなことを思い出させてくれる。ベースとなったのは、1976年にジェラルド・ジェンタがデザインを手がけた初代モデル。文字盤のグリッド模様をはじめ当時のデザインを受け継ぎながら、21世紀の技術を駆使した高級感ある仕上げや快適な装着感を叶えた点が素晴らしい。過去と現在が調和し、進化する。ジャンルを超えた“物事の本質”にたどり着かせてくれる時計です。
ツールウォッチからの脱皮
細田雄人(「クロノス日本版」編集部員)
元々、ガチガチのツールウォッチで、ラグジュアリーなイメージはない「インヂュニア」。そのため忠実な復刻ではなく、現代的な“ラグスポ”に再構成したのは、市場的にも正解だ。日本では昔から圧倒的な人気を誇るジェラルド・ジェンタだけど、彼のデザインはどこか癖があって、正直、好みが分かれやすい。万人に受け入れられるデザインに上手くまとめたなぁ、と感心した。時計自体のディテールも詰められていて、特にケースの磨きに進化が感じられる。約4万A/mの耐磁性能は現代的には決して高いとは言えないけれども、ケース厚を考えれば優秀。安易に復活させず、ちゃんと時計のキャラクターと、登場後の立ち位置を意識して企画されたのが伝わってくる。
IWC/
インヂュニア・オートマティック 40
1976年の「インヂュニア SL “ジャンボ”」から着想して現代的にアレンジ。構築的なケースとH型リンクの一体型ブレスレットをはじめ、5本のビスを配したベゼル、グリッド模様を施したダイアル、耐磁性、約120時間のパワーリザーブが備わる最新自動巻きムーブメントが特徴。ケース直径40mm、100m防水。ステンレススティール(156万7500円)。チタンモデル(195万8000円)に関する予約・詳細は最寄りのブティックまで。
(ENGINE2023年8月号)
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