2023.12.31

CARS

1万まで刻まれたイエロウのレヴ・カウンターは、イタリアン・センス満開! 458イタリアは、どんなフェラーリだったのか? 【『エンジン』蔵出しシリーズ/フェラーリ篇】

絶好の中古車ガイド! 「エンジン蔵出しシリーズ」、フェラーリ458イタリア

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回取り上げるのは、2009年のパリ・サロンに登場した全くの新しいV8フェラーリ、458イタリアがようやく日本に上陸したときの、2010年10月号のリポートだ。あざやかなイエロウの1台を、エンジン元編集長の鈴木正文氏はどう見たか?

「『より速く生きる』ことができる それは、余りに反時代的な、そして、超先進的な純スポーツカーだった!」ENGINE 2010年10月号

試乗の出発点は、メガロポリス東京の、ITバブル華やかなりしころの虚栄の中心、東京・六本木ヒルズの名高いブランド・ストリート、けやき坂だった。マラネロの日本支社は六本木ヒルズにあるのだ。



ここでかつて、フェラーリと名のつくクルマとそれに乗る者は、嫉妬と羨望、憎悪と軽蔑、そしてときに畏怖と賞賛に曇ったまなざしを向けられた。虚栄のためでなく情熱のためにそれに乗る者も、また。

バブルがはじけ飛んだいまも、「まなざし」の事情は、さして変わっていない。ただ、それを平然と受け止める「虚栄」と「情熱」の側の覇気が低下しただけだ。時代の空気は、放埓ではなく謹厳を、奢侈ではなく清貧を、官能への憧憬ではなくそれへの怖れを呼吸している。

そしてここに、放埓と奢侈と官能の権化として、あるいは形をとったイエロウの波打つ感情として、1台のフェラーリがあった。

7月中旬の早朝、燃えさかる夏の太陽の過剰なエネルギーは、温度計の針を摂氏30度に急速に押し上げたが、この通りを行き交う人々の生への欲望は、むしろ萎えていた。すべてがうなだれている。



それでも、フェラーリ・ジャパン所有の458イタリアのテスト・カーに乗り込むとき、あの「まなざし」をあたりに探したのは、この美しいフェラーリを前にした幸福な僕の興奮のせいだ。しかし、好奇の目には出合わなかった。

カントによれば、美とは「関心なしに快いもの」だそうだ。しかし、スタンダールによれば、美は「幸福の約束」である。ニーチェは美についてのこの2つの観点を並べたうえでいう。「もしわが美学者たちがカントに味方して、美の魔力の下でなら一糸まとわぬ女人の立像すら“関心なし”に眺められうると、どこどこまでも主張してやまないとならば、彼らの無駄骨のほどをちょっぴり憫笑してやるがよいであろう」(『道徳の系譜』)と。

しかし、けやき坂はカント主義者に明け渡されていた。

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