2023.12.31

CARS

1万まで刻まれたイエロウのレヴ・カウンターは、イタリアン・センス満開! 458イタリアは、どんなフェラーリだったのか? 【『エンジン』蔵出しシリーズ/フェラーリ篇】

絶好の中古車ガイド! 「エンジン蔵出しシリーズ」、フェラーリ458イタリア

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東名沼津へ

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けっこう込みあった東名の第3車線(追い越し車線)を7速、3000rpmちょうどで走ると、速度計は115km/hを指す。前にはトヨタ・ウィッシュがいる。第2車線には白のプリウス。さっきからこんな流れの、いつもの東名クルーズだ。こっちはフェラーリだ。道を開けてくれてもいいんじゃないか、とおもう気持ちはあるが、さほどイライラしていないのは、こんなフェラーリらしからぬ速度での巡航でも、ドライブが楽しいからだ。シフトやサスペンションの胸のすくようなスムーズぶりについてはもう述べたが、ここまでスムーズだと、速度が低いときには、「一糸まとわぬ女人の立像」のなめらかな肌をなでているような、隠微にエロティックな快感がある。

ウィッシュがどいて、前方に数百メートルの空隙が開いた。右足を踏み込む。吸排気可変バルブ・タイミング機構を持つ直噴エンジンがファンファンと叫んでショック・ゼロのままシフトが落ちる。トルクが食い付く。パワーが盛り上がる。ウワワワワーーンとサウンドが高まる。ア、×××km/hになってしまった。0-100km/h加速3.4秒、最高速325km/hをうたう458の、底知れない速さの一端を、ほんの10秒内外覗きみただけなのに。しかし、その10秒の、なんとエキサイティングであったことか。フェラーリの全身を隅々まで、血が急流となってかけめぐり、フェラーリはより生きた。僕の感情の毛細血管も蘇った。そして、僕の生きている時間がギュッと凝縮した。その10秒間は、平凡なクルマに乗っている何百時間ぶんよりもなお濃密な時間の充実をもたらした。ということは、10秒で何百時間を生きたということだ。458は人をより速く生きさせる。

リア・ミドにマウントされる直噴・自然吸気のV8は、ボア94×ストローク81mmの4499cc。570ps(425kW)/9000rpmの最高出力と55.1kgm(540Nm)/6000rpmの最大トルクを発生する。潤滑はドライザンプ。CO2排出量は307g/kmとフェラーリ・モデルの中では最小である。90度V8はレーシング・カーばりの180度クランクゆえ、回転マスが小さく高回転に向いている。9000rpmという驚きのレヴ・リミットは、この設計であるからこそ可能になった、といえよう


458の高速道路上のマナーで特筆すべき美点は2つある。

ひとつは、ボディの前後動、上下動をともなわずに、スロットルの踏み具合の微細な変化に瞬時に対応して荷重が前後に瞬時にクッキリと移動することで、アルミをふんだんに使ったソリッドきわまりないボディ&シャシーが、カミソリ的にシャープなV8の息づかいとぴったり一体化している。そして、もうひとつは、高速巡航時のステアリングの、どっしりと座った落ち着きのあるフィールだ。風洞実験を重ねて得た200km/h走行時に360kgにも達する強力なダウンフォースが寄与したはずだ。しかし、それでいてステアリングの応答性はスーパー・クイックだ。ドライバーに絶大な自信とどこまでも高揚していく快感の双方を与えながら、高速ワインディング区間を、この458より速く走ることのできるクルマがあるだろうか。

西伊豆の山で

スポーツカーを走らせるベストの舞台はワインディング・ロードが延々とつづく山岳路だ。そこではクルマの「走る、曲がる、止まる」の全性能を、全解放することができるからだ。ドライバーは、この舞台でこそ、スポーツカーともっとも濃密に対話することができる。458イタリアは、その場所で、僕がドライビングをもっとも堪能したクルマとなった。ロック・トゥ・ロックわずか2回転のスーパー・クイックなステアリングを切る腕と、どんな微妙な足の動きにも即応するエンジンを操る右足とが、ぴたりと息を合わせて、わずか1380kgしかない軽量ボディを自在に振り回すことの楽しさを、なににたとえればいいのか。

その快楽に隠微さは毛ほどもない。トップ・エンドで回るフェラーリV8の、高天に突きぬけていく歓喜の悲鳴は、458と一体になったドライバーの身をも貫く。このエロティシズムへの耽溺を、反時代的な放埓といい、奢侈といい、官能への没入というなら、その通りだろう。しかし、時代的であるとは、貧しく生きることなのか。速く生きることは、よく生きることではないのか。

■総括 SUMMARY
とてもいい。こと458イタリアに関しては、斜め後方視界に難があること以外は、これといった難点を指摘することができない。そこでここではいくつかの項目に分けて、筆者の率直な評価を箇条書きすることにしたい。

●エクステリアデザイン
エンツォ以来の奥山清行(ケン・オクヤマ。前ピニンファリーナ・クリエイティヴ・ディレクター)スタイルから完全に決別した。また、過去のフェラーリのデザイン・キューをアイコン的に採り入れる手法もとっていない。フェラーリデザインの新時代を作ろうとする意気込みやよし。

●インテリア・デザイン
ランボルギーニ、アストン・マティン、ポルシェ、アウディR8などのどれとも全く異なるフェラーリ流儀。直線性と平面性を徹底的に排除し、表情ゆたかに微妙な曲線を描くラインと立体的な量感を持つ造形は、カーボン・パネルやアルミなどの「冷たい」素材が「温かい」レザー素材に包まれて情感あふれるインテリア空間にモダンなエッジを付加している。100点

●ハンドリング
570psのマシンにして1380kgの車重は非常に軽い。じっさい、ロード・マナーは軽量車のそれのようにしなやかな軽快感に満ちている。その印象をロック・トゥ・ロックでジャスト2回転しかないスーパー・クイックなステアリングが、さらに強めている。不用意にステアリングを切ると、おどろくほど素早くノーズはインを向く。重量配分は前42%、後ろ58%であり、フロントの軽さは458のレーシング・スポーツばりのニュートラルなハンドリングに決定的な影響を与えている。また、緻密なサスペンション制御のおかげで、ハード・コーナリング時にもダンピング不足でピッチングを誘発したりしないし、ロールもごく軽微だ。賞賛の言葉あるのみ。

文=鈴木正文(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦

もっともドラマチック造形を見せるのが、緊張感みなぎる水平ラインと波打つフェンダー・ラインが合流するリア・エンドだ。


(ENGINE2010年10月号)

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