2023.11.09

LIFESTYLE

いま静かなブーム! 古くて新しいオールド・レンズの魅力とは? 写真愛好家から若者、はては来日外国人にも人気!!

現在も使用可能なのは主に冷戦期以降の製品

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進化を続けるスマホのカメラと逆行するように、フィルム・カメラ時代に愛用されていたオールド・レンズのアナログな味が脚光を浴びている。

醸し出す「エモさ」がSNSで注目


春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。―清少納言『枕草子』の有名な冒頭だが、この後も日常での美しい場面を切り取り、「をかし」という言葉で賛美している。古典の教科書では「趣がある」と訳されるが、より令和の言葉に近いニュアンスに直すなら「エモい」がふさわしいだろう。千年以上前に書かれた随筆で挙げられるものは極めて視覚的であり、移り行く一瞬を切り取るカメラアイを思わせる。今の私たちが日々見つけたものを撮影し、SNSにアップする感覚に近いだろうか。

写真のシェアに欠かせないスマホは新機種ごとに高性能化し、画素数は増加の一途。照明が暗い、天気が悪いといった悪条件も関係なし、撮った後は加工も指先で完了する。そうした風潮の一方で、アナログな撮影も静かなブームを呼んでいる。その立役者がオールド・レンズだ。



再ブームのきっかけはミラーレスカメラの普及

19世紀前半のカメラの誕生から、技術者は機器本体と同様にレンズの開発にしのぎを削ってきた。最初期はフランス、ドイツが競い合い、20世紀初頭からはドイツが隆盛となる。第二次世界大戦後は本場ドイツを研究し尽くした日本製が台頭。ソ連などの共産圏も含め、国を代表する光学メーカーが切磋琢磨を繰り返し、独自の表現を追求した。


銘玉と呼ばれる傑作は数々あるが、オールド・レンズとして現在も使用可能なのは主に冷戦期以降の製品。再ブームのきっかけはミラーレスカメラの普及だ。構造上、一眼レフではできなかった本体とのジョイントがマウント・アダプターでやりやすくなったことも後押し。実際にオールド・レンズを扱うオンアンドオンでは、ここ数年で店頭での売り上げが7倍に増えたという。

「ユーザーの方はオールド・レンズならではの味わいを楽しんでいるようです」と語るのは、同社バイヤーの佐野誠司さん。

「デジタルと違って写し過ぎないのが好まれるんでしょうね」

レンズは自分で絞りを調整し、最適な距離とタイミングを測る。メーカーや機種によって個性があり、ゴーストやフレアという光の悪戯や、収差の違いによる歪みやボケを生みやすい。こうした不確定さがエラーではなく、“エモい”表現ととらえられているようだ。アナログの再発見として、音楽でのレコードやカセットの復活と通じるところがあるだろう。

撮り直しや修正が手軽なデジタルとは異なり、オールド・レンズが捉える瞬間は一期一会。写るシーンが単なる風景の記録を超え、記憶の情景となる。オールド・レンズのリバイバルは、清少納言が愛した「をかし」の余韻が21世紀の人も魅了することの証といえそうだ。

文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫

(ENGINE2023年11月号)

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