2023.11.05

CARS

【試乗記】「一心不乱どころか半狂乱でドライブした!」 世界でたった1963台だけのポルシェ911、S/Tに試乗! GT3RSのスペックを持つ驚異的ロードカーとは?

世界限定1963台 ポルシェ911 S/Tに試乗!

ポルシェ911に加わった新たなグレード、S/T。GT3RSと同じ心臓を持ち、3ペダルのみで、巨大なリア・ウイングのないこのクルマはいかなるものなのか。イタリア・カラブリアで行われた国際試乗会から、モータージャーナリストの西川淳が報告する。

買えるなら絶対買った方がいい

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どうやら来春には992型911の後期モデルが登場するらしい。だからだろうか、このところユーザーやファンを“悩ませる”蠱惑的な911の限定モデルが相次いで登場した。

オプションのヘリテージ・デザイン・パッケージ(262万2000円)には、ドアのゼッケン・ナンバー(0~99までを選択可能)や、車体後方の“PORSCHE”と“911S/T”のゴールドのロゴなども含まれている。

なかでもS/Tという幻のネーミングを伴って現れた“911の60周年”記念モデルは、クルマ運転好きにとって読むだけで垂涎となるスペックと仕様を引っ提げていた。もっとも世界限定1963台で日本への割り当て台数はかなり少なくなりそうだから、買うかどうかで悩む必要はまるでなかったりするのだけれど……。結論から言っておくと、買えるなら買った方が絶対いい。資産的な将来性というよりもファン・トゥ・ドライブ体験的に!

カラブリアで国際試乗会が開催されると聞いて、また珍しいところでやるもんだと思った。イタリア経験が多いはずの筆者でも、仕事はもちろんプライベートでさえ行ったことがない。試乗会に帯同した開発チームに、なぜこのイタリア半島のつま先を選んだかを聞いてみれば、ドイツ周辺で公道テストのできない冬場などによく使うルートがあるらしい。今回はその一部を走らせるという趣向だった。ちなみに近くにはポルシェ所有の有名なテスト・コース、ナルドもある。

走り出しはナーバス

2名の日本チームに貸与された個体は、ヨッティング・ブルー・メタリックという濃紺の外装色にブラウンのインテリアを組み合わせたシックな一台だった。イタリア流にいえば「アズーロ・エ・マローネ」。クロームの窓枠が効いている。リアバッジ類はゴールドで、ホイール・センターにはクレスト。そう、ゼッケンサークルこそ付いていないが、この仕様もまたへリテージ・パッケージだ。

ショア・ブルー・メタリックという写真の個体の外装色は911S/T専用。クラシック・コニャックというブラウンと黒のデュオ・トーンとなるインテリア、特にシートは座面と背面の一部に縦方向のストライプが入るなど、クラシカルな911のイメージを踏襲している。

重めのクラッチを踏んで何気にアイドリング・スタートを試みるもあっけなくエンストする。GT3RSと同スペックの自然吸気エンジンと軽量クラッチ・システムやフライホイールを組み合わせた6段マニュアル・ギアボックスという硬派なパワートレーンであることを意識していて尚この様だ。フライホイールが軽く鋭く回転落ちするため、大排気量エンジンとは思えないほど、そして最新モデルとしては珍しくナーバスだ。軽い上り坂をバックで進むような場合も難しい。都合2回もエンストしてしまった。

海沿いのビーチハウスで車両を受けとり、すぐさま山岳都市を抜けてワインディングロードへと向かう。ドライブモードをノーマルにして走れば覚悟していたよりも一般道での乗り心地は悪くなかった。もちろんハードな部類には入るのだけれど、内臓を揺さぶるほどのショックは皆無。ダンパーやスプリングといったハードはGT3と変わらないというのに、硬い板の上に載せられて移動するような感覚がない。アシのしっかり動く感じがよく伝わってくる。

ハンドル位置は左右を選択できるが、トランスミッションは6段MTのみ。ステアリングはシンプルな3スポークで、走行モードのセレクタはない。

ステアリング・ホイールのスポークにモード選択のダイヤルが付かない。そのシンプルさが嬉しい。試しにダッシュ中央のスイッチでサスペンションをスポーツに。今度こそきっとフラットかつハードな乗り心地になると予想していたら、ほとんど変わらないことに驚いた。少しはハードになる、とはいえ、劇的というほどではない。これならスポーツモードでも隣に人を乗せてドライブできそう。

出だしの苦労は走り出したあとの快楽だ。重いクラッチペダルも軽いフライホイールも走行中のシフト操作を楽しむためのもの。さらにシフトストロークはGT3用に比べて10mmも短いからクイックに作業できる。それゆえ、これまたGT3用に比べて8%ほど接近したギア比も存分に使いこなすことができた。



オート・ブリッピングの上手さにも感動した。両手両足を駆使して操作を楽しむマニュアル派には余計なお世話でしかない装備だというのに、あまりに的確な回転数制御とスムーズで速やかなダウンシフトを経験してしまうと、そんなことを自分でやってやろうとは思わなくなる。クラッチ・ペダルとシフト・レバーを操作する基本の動作はまるで変わらず、それでいて2ペダル級の早さでダウンシフトがキマるのだから、楽しくないはずがない。

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