中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、2014年3月号に掲載されたポルシェ911ターボSのリポートを取り上げる。見違えるように性能が引き上げられた991型911。“ターボ”はその万能性がさらに引き上げられて、困ってしまうほどのクルマになっていた。
底なしのポテンシャル
「ああ、この国にもアウトバーンが欲しいなぁ」と、今回ほど強く思ったことはない。新しい911の、少なくとも公道における最速のモデル、ターボSに試乗して、「これはアウトバーンのある国でこそ真価を発揮するクルマなんだなぁ」と思った。
とにかく、加速力も安定性も天井知らず。その真価を見極めようと思ったら、それこそグランプリ・コースへでも行かないかぎり、無理だ。
走らせたのが大晦日の前日で、高速道路もどこもかしこも混雑がひどかったということはあったにせよ、これほど底なしのポテンシャルを感じさせられると、もうどうにもこうにもその潜在能力が過剰なものに思えてきて、その凄さに真正面に向き合うのが難しくなってくる。
なぜなら、それは911だからだ。これがもし、美声で謳いまくる12気筒フェラーリだったりすれば、その音を聞くだけでも心震わすことができるのだけれど、新しい911はこれまで以上に万能感の強い、言い方を変えるならば、バランスの取れすぎたスーパー・ファスト・カーに感じられるからである。欠点がない。標準ボディの後輪駆動カレラよりリア・フェンダー端部で72mmもワイドなボディは、それでもまだ1880mmにとどまる上に、ドライバーの視界に入るノーズの感覚的な幅は普通のカレラとなんら変わらないから、幅をもてあますということがない。幅が2mになんなんとするスーパーカーが珍しくなくなってきたなかにあって、新しい“ターボ”はこれまでの911ターボと変わることなく、「これなら毎日使える」と思わす強い力をもっている。それが仇になる。
こんなことを思うのは貧乏性の成せる業か、と思ってみたりもするけれど、そればかりではなさそうだ。
その速さが、現実に使えそうに思えて、使ってなんぼ、と思わすものが新型911ターボSにはある。
使えそうで使いたくなる
3.8リッターのツインターボ・エンジンはこのSだとじつに560psの最高出力を発揮することになっている。最大トルクは優に70kgmオーバー。しかも、オーバーブースト機構まで備わり、それが働くと76kgmを超える。いかな911といえども、このとてつもないパンチ力を後輪だけで吸収するのはたやすいことではない。でも、新型ターボは、これまで以上に前輪へのトルク伝達能力が上がった上に、その介入のさせかたもより巧妙になった4WDシステムを備えているから、やすやすと受け止めてみせる。しかも、リアに電子制御のステア機構まで加わり、ものの見事に黒子に徹して働いて、中高速域でのスタビリティはそれこそ磐石。さらにさらに、ターボSにはスタビライザーの効きぐあいを電子制御する機構が標準で備わって、ロール方向の姿勢変化がほとんど出ない。とてつもない力をとてつもない器で受け止めてとてつもない速さに平然と転化する、とんでもない能力を備える。
これで、演出が過剰なものだったら、その演出に満足して満ち足りるのかもしれないけれど、ポルシェに演出過剰はない。むしろその逆だ。
乗り心地はよすぎるぐらいにいい。音もうるさくない。運転のしやすさも最上級。びしっと安定しているけれど、角が立たない走りの質感は、911ターボにしかないものだ。
もし、なにか気になることがあるとすれば、例えば東京のようにことあるごとに高架構造道路を走らなければいけない環境では、アスファルトが減ってむき出しになった金属ジョイントの作る段差で、ビンッ、ビンッと硬いショックが抑えきれずに伝わってくることぐらいだろう。車重は1.6tしかなくても、リアに大きな荷重がかかり、しかも300km/h以上での巡航を十全に支える能力を備えるタイヤはタガが締まっている上にトレッド幅は30cmを超えるのだから、致し方ないだろう。
そこまで要求するんだったらパナメーラに乗れ、とポルシェも思っていることだろう。
前日に降った雪のせいで、お山は走れずじまいだったけれど、これほど能力が高いと、楽しむという域を軽く超えてしまうだろう。
ああ、アウトバーンが欲しい!
文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小野一秋
■ポルシェ911ターボS
駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4506×1880×1296mm
ホイールベース 2450mm
トレッド(前/後) 1491/1547mm
車両重量 1610kg
エンジン 水平対向6気筒DOHC24V直噴ターボ過給
総排気量 3800cc
最高出力 560ps/6500-6750rpm
最大トルク 71.4kgm/2100-4250rpm
変速機 ツインクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(セラミック)
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/305/30ZR20
車両本体価格(税込み) 2446万円
(ENGINE2014年3月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「キュビタス」を徹底解説…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.25
アウディRS3、VWゴルフRと頂点を争うホットハッチ、メルセデスAMG A45が終焉を迎える
2024.11.20
抽選販売の日時でネットがざわつく 独学で時計づくりを学んだ片山次朗氏の大塚ローテック「7.5号」 世界が注目する日本時計の傑作!
2024.11.23
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わった築74年の祖父母の日本家屋 建築家と文筆家の夫妻が目指した心地いい暮らしとは?
2024.11.21
いま流行りは小径時計! キングセイコーの最新作は36.1mmで腕もとも軽やかだ!!