2024.01.14

CARS

小さな巨人、レクサスLBXはどこが凄いのか?「世にある3気筒の中で最も品があるエンジン」【その3 変わるレクサス:LBX篇】

小さな高級車、レクサスLBX

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レクサスから、これまでの高級車とは違う新しいコンセプトでつくられた2台の注目の新型車が登場した。それが、大きな「LM」と小さな「LBX」だ。ジャーナリストの山本シンヤ氏が、このレクサスの新たな挑戦を解読するシリーズ。1回目のプロローグ、2回目のMLに続く3回目の今回は、新たにレクサスが挑む「小さな高級車」LBXをモータージャーナリストの山本シンヤ氏が解き明かす。


始まりは高級スニーカーから

これまで世界の自動車メーカーが挑戦するも成功に至らなかったジャンルが「小さな高級車」である。レクサスがそこに挑戦したモデルがLBXだ。そのキッカケはレクサスのブランドホルダー、豊田章男氏のこのような想いだった。

「本物を知る人が素の自分に戻れ、気負いなく乗れる一台。つまり、週末にTシャツとスニーカーで乗れる高級車がつくりたい」

多くの人は「高級車=権威の象徴」という期待値が高く、そのニーズをコンパクトサイズで実現させるには“壁”があったのも事実だ。開発責任者の遠藤邦彦氏は、この難題にどう立ち向かったのだろうか?



「会長から、自分が愛用しているブランドのスニーカーのようなクルマを作れないかと言われて、とにかくそれを履いてみることから始めました。そこで解ったのは、スタイリッシュ/フィット感/疲れない/華美ではない上質さ/劣化しにくいなど、革靴にはない“いつまでも履いていたくなる”ような魅力。これこそが新しいラグジュアリーなんだろうなというところから出発しました」

方向性は固まったが、開発は一筋縄ではいかなかったという。

「我々の悪い癖で、既存のコンポーネント(=ヤリスクロス)の中でやり切ろうとしました。試作車を見せると会長に一瞬で見破られ、“これしかできないなら、いらない”と」

恐らく、開発メンバーの多くには「与えられた素材で全力を尽くす」やり方は染みついているが、それではブレイクスルーはできない。会長はそこを抜け出して欲しかったが故に、そんな言葉を発したのだろう。「その後、佐藤プレジデントに相談に行くと、“茨の道かもしれないけど、行こう”と背中を押してくれましたので、“思い切ってやりたいことをやろう”と決心しました」。

「本物を知る人が素の自分に戻れるクラスレス・コンパクトで新しいラグジュアリーの価値を提供する」と謳うLBXにとって、インテリアのデザインが重要な要素であったことは言うまでもない。水平基調でシンプルなインパネの造形やサイズや形、配置にもこだわったスイッチ類、フィット感に優れるシートなど、履き心地のいい高級スニーカーにも通じる要素がちりばめられている。

エクステリアは全長×全幅×全高=4190×1825×1545mmというコンパクトなサイズながら、堂々としたスタイルを実現。オーバーハングが短くタイヤを四隅に配置したプロポーションとドシッと踏ん張りのあるスタンスの良さは、日本の「鏡餅」がモチーフとなっている。

インテリアはステアリングからメーター、HUDへと繋がる「TAZUNAコクピット」の概念は踏襲するが、LBX専用の水平基調のスッキリとしたインパネ上面にモニターがコンソールに溶け込むようなデザインを採用。見晴らしが良く、自然で整ったレイアウトに仕上がっている。質感の高さも魅力の一つで、ステッチや素材の使い方は、より大きなモデル以上のこだわりだ。ちなみに100台の抽選販売だが、内装色/シート素材/刺繍パターンを33万通りの組み合わせから唯一無二の1台を作り上げることが可能な「ビスポーク・ビルド」も設定。

LBXのモデル構成は“Cool”、“Relax”、“Bespoke Build”の3種類。それぞれにFFと4WDがあり、車両本体価格は460 万円から576万円となっている。

「これは章男会長からのアドバイス“最後の最後にLBXを仕上げるのは、お客様”を具体化した物です。従来であればブランドの中でもハイエンドモデルに設定するのは常ですが、これもLBXの挑戦の一つです」

装備関係はフル液晶メーターやイルミネーション、マークレビンソンプレミアムサウンドシステムやeラッチなど他のレクサスと変わらないアイテムが用意されるが、電動シートが運転席のみ(助手席は手動)、シート空調はヒーターのみでベンチレーター未採用はちょっと残念……。

また、ドライビング・ポジションもLBXのこだわりの一つで、シート/ステアリング/ペダルの位置関係は実際に座ってみるとクロスオーバーというより目線が高いハッチバックと言っていい着座感である。リアシート/ラゲッジは同クラスのモデルと比べて格段に広いというわけではないが、前席優先のLBXのキャラクターを考えれば必要十分なスペースだろう。ゴルフバッグも長尺ドライバーでなければ積載可能だ。

パワートレインは直3の1.5リッター+ハイブリッドのTHSIIと、トヨタのコンパクトモデル(=ヤリス系)と同じと思いきや、エンジンは音・振動を抑えるためにバランスシャフト付、ハイブリッドシステムを含むトランスアクスルは高出力なノア/ヴォクシー用の第5世代、バッテリーは大電流を流せるバイポーラ型ニッケル水素を採用とLBX専用である。駆動方式はFFに加えてE-FOURを設定する。

更に骨格の接合は短ピッチ打点技術や構造用接着剤の採用部位を拡大、局部剛性アップも積極的に行なっている、遠藤氏の言葉を借りると、「GA-Bの欠片もないくらい変更している」そうだ。


パワートレインの印象はトヨタ/レクサス全てのハイリッドの中で最も「電動車」感が強めだ。発進時はモーター走行だが、アクセルをかなり踏み込んでもエンジンは始動しにくく、エンジンが始動してもそれが気づきにくい。そのため実用域ではエンジンの存在感はかなり薄めだ。回すと3気筒特有のビートは聞こえるものの、軽やかなサウンドのみで振動やザラッとした感触は抑えめ。欲を言えばもう少しパンチが欲しいが、個人的には世にある3気筒の中で最も品があるエンジンだと感じた。

プラットフォームはGA-Bだが、ボディ骨格はフードのアルミ化、ホットスタンプ材の積極的な採用、短ピッチ打点技術や構造用接着剤の採用部位拡大、局部剛性アップを行なったLBX専用品。シャシー系はジオメトリーを刷新したフロントサスペンション、3点締結の入力分離型アッパーサポート、アルミ鍛造ナックル、新開発のショックアブソーバーなどを採用する。リアサスはFFがトーションビーム、4WDがトレーリングアーム式2リンク・ダブルウィッシュボーンだ。

フットワークの印象は「軽快な動きなのに重厚なフィーリング」だ。タイヤの四隅配置&ワイドトレッドによる踏ん張りの高さから直進時はコンパクトサイズらしからぬドッシリ感で絶大な安心感。コーナーでは横置きFFレイアウトらしからぬ前後バランスの良さが印象的だった。その結果、Rのきついコーナーでも前輪依存度が少なくサーキットのような高G領域でもアンダーステアはほぼ顔を出さず、操作に対してオンザレールで旋回してくれる。そう、実は高級車でありながらも、かなりのハンドリングマシンなのだ。



このようにLBXは「高級車=大きなモデル」という固定観念から脱却した「小さな巨人」であり、こちらもゲームチェンジャーと言える存在だろう。

LMもLBXも魅力あるモデルに仕上がっているが、筆者がそれ以上に実感したのが「走りの統一感」だ。この2台はボディサイズやパッケージはもちろんパワートレインもレイアウトもサスペンション形式も異なるが、走らせるとどこか同じ感覚があるのだ。もう少し具体的に言うと、コーナリング時の一連のクルマの動きが同じ「波長」で行なわれている。

レクサスでは近年チーフエンジニアや各領域の長が一堂に会して「味磨き」という活動を行なっている。この活動を通じてブランドに横串を刺し、目指す道を明確にしているのだ。その結果、レクサスとして目指すべき「理想のクルマの動き」が生まれ、それを個々のモデルに落とし込む味付けが行なわれているようだ。

その点についてLEXUS TAKUMIの尾崎修一氏に聞くと。

「やはり『スッキリ(雑味を取り除き本質を追求する)と奥深い(人に依らず、路面を選ばず、環境を問わない懐の深い)走り』を突き詰めた結果だと思います。今は感覚的に“これがレクサスだよね”と共有できていますが、将来的には誰でもそれが解るようにシッカリと数値化させる必要があると考えています」

2023年4月の新体制発表会で佐藤社長は「26年に次世代電気自動車をレクサス・ブランドで投入する」と公言。そのコンセプト・モデルがジャパンモビリティショーで公開された「LF-ZC」だ。レクサスの3つの柱の2つ、「電動化」と「知能化」を表現したモデルで、「電気自動車のゲームチェンジャー」となり得る存在だ。レクサスは3つの柱を元に未来に向けて確実に変わり始めている。挑戦はこれからも続く。

文=山本シンヤ 写真=レクサス・インターナショナル

(ENGINE2024年2・3月号)

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