2024.05.04

CARS

12気筒エンジンのサルーンを振り返る! W12ツイン・ターボのコンチネンタル・フライング・スパーは、どんなベントレーだったのか? しっとりと控えめなところがステキ!

W12気筒を搭載するベントレー・コンチネンタル・フライング・スパー・スピード

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中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出し記事シリーズ。今回取り上げるのは2008年9月号に掲載されたベントレー・コンチネンタル・フライング・スパーだ。6リッターW12ツイン・ターボの最高出力560ps、最高速度312km/hをうたうウルトラ4ドア・サルーン、コンチネンタル・フライング・スパーが05年の発表以来初のフェイスリフトを受けたのを機に行われた国際試乗会のリポートだが、610psのさらなる高性能版「スピード」も追加された。


実はライバルがたくさんの激戦区

いわゆる2000万円市場の主役、ベントレー・コンチネンタル・フライング・スパーが05年の発表以来初の小改良を受け、日本では今秋に上陸する09年型モデルとして発表された。その内容は、昨年敢行されたコンチネンタルGTのフェイスリフトに準じ、驚くようなものはなにもない。4ドアのフライング・スパーにも610psの「スピード」が登場したのは、やるなぁ、と思わせるけれど、それ以外は地道に小さな改良を積み重ねた、という印象だ。その一方、オプションの幅を広げてクルマの個性化を図ったり、イギリスの高級オーディオ・メーカー、ネイム初のカー・オーディオを用意したり、と移り気なマーケットの関心を引きつけてやろう、というつくり手側の意欲が伝わってくる。

デュオ・トーンの一例。4種類ある標準パターンはすべてシブい塗り分けで、光の加減で同色に見えたりもする


それというのも、2010年までにポルシェ・パナメーラ、アストン・マーティン・ラピード、ミド・サイズ・ロールズ、やや格下ながらアウディA7、BMW新8シリーズといった新しいライバルたちが登場しそうだからだ。果たして09年型コンチネンタル・フライング・スパーはこれらライバルに勝てるのか。

未来は誰にもわからない。まずはアメリカの古都、ボストンで開かれたコンチネンタル・フライング・スパーの国際試乗会から報告。


パーソナライゼーション

09年型からフライング・スパーにも、これまでの560psに加えて、610psの高性能版「スピード」が加わる。価格は未定ながら、GTの2270万円、GTスピードの2570万円とさほど変わらないと思われる。最初に乗ったのはノーマル版で、ベントレー関係者はその最高出力から「ファイブ・シクスティ」と仮称する。610ps版は「シックス・テン」ではなくて、「スピード」と呼ぶ。そのための名前である。

私の560、ボディ色は明るめのシルバーだが、内装は「リネン」と称する贅沢なオフホワイトのレザー(p112の内装写真参照)で、ドアを開けた途端、あたりがパッと華やかになる。シートにはパイピング!グローブ・トロッターのサファリだったか、白いヤツを思わせ、浮世離れした雰囲気がステキだ。

ステアリングは4本スポークが560ps


アメリカっぽい華やかな組み合わせの内装をご覧あれ。

パーソナライゼーションの機会を増やす、というのが今回のフェイスリフトの眼目のひとつで、ボディ色16色、内装のレザー・ハイド17色は従来と同じながら、シートのパイピングがコンチネンタル系では初めて可能になり、外装色では「デュオトーン」、つまり2トーンカラーを4パターン標準設定し、内装はウッドに象嵌細工が選べるようになった。オプション選択の幅が広がったのである。もちろん、従来通り、ビスポークでリストにはない色、素材の組み合わせを楽しむこともできる。

イギリスの高級オーディオ、「ネイム」を採用したこともニュースのひとつ。ネイム初のカー・オーディオ、「ネイム・フォー・ベントレー」と名づけられたこれは、自動車搭載用としては最強の1100ワットのアンプと15個のスピーカーからなる。同乗した渡辺敏史さんのiPodを音源とするボブ・マーリーがボブ・ディランかと思えるくらい、まろやかなサウンドで、ちょっとビックリ。ベントレー的にはハイエンド・オーディオの世界とのコラボレーションにより、時計の「ブライトリング・フォー・ベントレー」みたいな相乗効果を期待している。ネイムの顧客にもクルマ好きは多いのだそうだ。

「ネイム・フォー・ベントレー」は日本では97万3000円のオプション。ベントレーのドライブ体験みたいにピュアな、ライブなサウンドを目指して開発されたという。ネイムは1973年創業の英国の高級オーディオ・メーカー。その製品は6000ドルから25万ドルの価格帯にあるというから、たしかに高級。世界45カ国に輸出されている。日本の代理店も最近決まったという。


外観の変更点は軽微で、主に前後バンパーとライトまわりのベゼルに絞られる。特にフロント・バンパーは造形がより立体的になり、シャープさを微妙に増した。面積が増えた下部グリルのデザインはコンチGTと共通する。

静かな560、豪快なスピード

フライング・スパーのオーナーは、80%が自分でドライブするけれど、20%がショーファーも使っているという。ということもあって、今回の改良ではまずもって静粛性の向上が図られている。街中走行時のフライング・スパーのキャビン騒音はロード・ノイズが60%、排気音が30%を占めていた。そこで3層構造の遮音材を用いるなどでロード・ノイズをカットし、排気音もキャラクターを失うことなく低めた。高速走行時の騒音の40%を占める風切り音を下げるため、「アコースティック・グラス」と呼ばれる防音ガラスをサイドとリアに採用。ピレリ謹製19インチ・タイヤも低騒音に貢献しているという。実際、室内はたいそう静かで、アクセル・ペダルを踏み込んでもW12は厳かに遠くで唸るのみ。

「スピード」はフロント・グリルがダークになる。


スポーティな3本スポークが「スピード」。

ブッシュやアンチ・ロール・バー、スプリング、ダンパー・レート等の見直しによる細かな足回りの改良についても印象的で、もともとフライング・スパーはGTよりホイールベースが320mmも長いこともあって姿勢変化が穏やかだったけれど、それがいっそう落ち着いたものになった。スタートした途端、オッと思うほどステアリング、アクセル等、ドライバーの入力に対するクルマ全体の反応がタイトでスムーズになっている。

目玉のフライング・スパー・スピード。560との外観上の識別点は、ダーク・クロームのグリルと20インチのマルチ・スポーク・ホイール。それに10mm低められた車高がフィルム・ノワールっぽい。内装がいっそう豪華な仕立てになるのはコンチネンタルGTとも共通する。

バンパーが上下に薄くなったのが新型のリアの特徴。フライング・スパーはUSA、UK、ドイツ、日本などの成熟市場で12気筒4ドア分野の39%を占める。最大のライバルはメルセデスのS600&S65AMG。レーダーによって先行車との車間距離を測定するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を今回初搭載したのもメルセデスへの対抗心からか。

最高出力610ps/6000rpm、最大トルク76.5kgm/1700~5600rpmを発生するスピード用の6リッターW12ツイン・ターボ改は、車重2440kgのフライング・スパー・ボディを322km/hまで加速させる。0‐100km/hは4.8秒とポルシェ911並み。560より最高速で10km/h、0‐100km/hで0.4秒も速い。コンチネンタル系はトルセン・デフによる前後トルク配分50対50が基本のフルタイム4WDゆえ、大トルクもなんのその。一旦停止したときにステアリングを切ってアクセルを多めに踏み込んでもスッと出るだけ。ボワワワッとW12が吼え、怒涛の加速をアメリカ合衆国の一般道の制限速度である時速45マイルまで味わうと、日常に戻って粛々と走る。排気音は560より大きく、野性的に回る。乗り心地も若干硬めで、ステアリングも重い。

サルーン・カーなのにGTみたいに豪快なスピードも魅力的だが、今回私はそれより、最高速で10km/h遅いだけでしっとり控えめな560により惹かれた。じつはすごいんです、というのが隠微でステキだ。

文=今尾直樹(ENGINE編集部) 写真=ベントレー・モーターズ

■ベントレー・コンチネンタル・フライング・スパー・スピード
駆動方式 フルタイム4WD
全長×全幅×全高 5290×1916×1465mm
ホイールベース 3065mm
車両重量 2440kg
エンジン形式 水冷W12気筒DOHC+ツイン・ターボ
排気量(ボア×ストローク) 5998cc(84×90.2mm)
最高出力 610ps/6000rpm
最大トルク 76.5kgm/1700~5600rpm
トランスミッション ZF6段オートマチック
サスペンション前 マルチ・リンク/電子制御エア・サス
サスペンション後 トラペゾイダル・マルチ・リンク/電子制御エア・サス
ブレーキ前後 通気式ディスク
タイヤ前後 275/35ZR20(ピレリP-ゼロ)
性能 最高速322km/h 0-100km/h4.8秒
車両本体価格 未発表

(ENGINE2008年9月号)

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