2024.02.22

CARS

「ウチの役員はちゃんと乗れるひとばかり」 アウディのスペシャル部門、クワトロ社の凄さがわかった! R8&RS6アバントでニュルを走る!【『エンジン』蔵出しシリーズ/アウディ篇】

名にし負うニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ(北コース)、日本での通称「ニュル」をアウディが誇るミドシップ・スーパー・スポーツカーのR8と、史上最強のステーションワゴンのRS6で走った!

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紙一重の快楽

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じつのところ心がなえそうだった。ここまで来てアクセルを弱めてどうする。私は自分に活を入れた。助手席のカメラマンを降ろしてひとりになった私は、R8をドライブしながら精一杯の大声で叫んだ。ヘルメットを被っているせいで自分の声が遠かった。絶叫しながらコーナーに突っ込むと気がまぎれた。おかあちゃああああんっ! 汲めどもつきぬ泉のように湧き出るニュルのコーナー。

R8で名所カルーセルを行く筆者。ロッキーのRS6ははるか先の1台前。


ロッケンフェラー選手、愛称ロッキーは心憎いことに、私の実力以上のスピードでRS6を走らせる。といって、私が視界から消えてしまうようなマネはしない。おかげで私は実力以上のスピードで「ニュル」を堪能することができたのだった。ありがとう、ロッキー! それは恐怖と快楽が紙一重であることを実感させた。恐怖と快楽は渾然一体のトルネード。恐怖を征服してこそ、男は男になるのだ。

かくして私、不肖・今尾直樹は、あのニュルブルクリンク・オールド・コースを思う存分、走らせていただいた。それもアウディR8で3周、RS6で2周。1周2kmの筑波サーキットだったら50周分。ヘルメットにレーシング・スーツを着込んだ私は汗ビッショリで、それはとってもさわやかな汗なのだった。ロッケンフェラー選手は汗ひとつかいてなかったけど。


社内にいる人間がエキスパート

こんな素晴らしい体験ができたのは、R8やRSモデルの開発・生産を担当するクワトロ社のマーケティングのトップが来日したおり、アウディ・ジャパンのドミニク・ペッシュ社長と意気投合、「なにかスペシャルなことをやろう。日本の媒体をニュルに招待しよう」ということになった結果だ。

75%がハンド・メイドのR8。ネッカーズルム工場でフレームから手づくり。


かくして私は急遽フランクフルトに飛び、まずはネッカーズルム工場のR8生産現場を訪問した。2シフトで1日27台が生産されているR8は75%が手づくりだという。アウディのような大手メーカーで、イギリスのバックヤード・ビルダーみたいな手作業が見られるとは! なんとR8のアルミ・スペース・フレームは熟練工がアルミの角材を溶接して組んでいるのだ。アルミは鉄よりも早く溶ける上に熱膨張率が大きい。R8導入時に日本のディーラーの溶接名人5人がこの工場に研修に来て1週間訓練を受けたけれど、テストに受からなかったそうだ。

ネッカーズルムで1泊した翌朝、同地のアウディ・フォーラムでR8とRS6の開発責任者にインタビューした。R8のヨッヘン・ワグナーさんはかつてA2を担当していた。A2! 日本には正規輸入されることのなかったアルミ・スペース・フレームの小型車である。

「A2であれだけやっていたから、いまのR8があるのです」

2台の開発責任者を取材したネッカーズルムのアウディ・フォーラム。


一方、RS6のプロジェクト・マネージャー、イエンス・コッホさんはこう証言する。

「ヒューマン・リソースという面でいえば、クワトロ社の外部からひとを呼んでくる可能性はまったくない。社内にいる人間がエキスパート」

コッホさん自身、01年にイギリスに渡り、アウディの子会社、コスワース・テクノロジーで当時のRS6の4.2リッターV8ツイン・ターボを開発していたことがある。

「基本的にはアウディのなかで長く開発していると、アウディらしさがわかってくる。乗り心地とかボディ剛性とか。でも、最終的に決定するのはウチの役員。僕たちがつくったクルマを持って行っても、こんなんじゃダメだと言われることもあるし、褒められることもある。役員にはちゃんと運転できないとなれない。それが彼らの仕事の重要なところなので、訓練もやっている。個人的な意見ですが、ウチの役員はちゃんと乗れるひとばかりです」


ニュル、恐るに足らず

ノルドシュライフェにクワトロ社が通い始めたのは独自開発第1号である99年発表の初代RS4からである。前出のクワトロ社の契約開発ドライバー、スティッピーは年間15週間、R8やRS6、TTの開発のためにニュルで走っている。

「耐久テストではクルマがギリギリ壊れない程度の全開で8000~1万km走り続け、そのクルマのライフ分に値する負荷をシミュレーションで与える。タイムは問題ではないが、壊さない範囲で限りなく速く走るわけだから、おのずとタイムは出てくる。24時間レースの場合は、レースに勝つという目的があるからクルマをいたわって走るけれど、耐久テストでは高負荷をかけ続けるのが目的だから、ジャンプするところではジャンプする」

スティッピーによるR8でのドリフト演技。場所はアデナウアー・フォルストの左コーナー。ル・マンで5勝をあげたレーシング・カー、R8と同名のスーパーカーは、日本には昨年夏上陸。価格は1670万円。現在日産27台。今年の生産計画は5800台。


スティッピーが開発にかかわったR8はニュルでこそ素晴らしいスポーツカーだった。ものすごく乗りやすい。軽快で、アクセルを踏めばリニアに加速し、ブレーキを踏めば減速する。ステアリングを切れば、自分の脊柱が回転軸になってノーズをインに向ける。R8があれば、ニュル、恐るに足らず。3周もできたのは、ひとえにR8のおかげだ。

RS6は車重が2トンを超えているからブレーキングがむずかしい。でも、立ち上がりは気持ちイイ。580psの圧倒的大パワーはその重量をまったく感じさせず、離陸するように驀進する。その快楽に身をゆだねていると、次のコーナーへの進入が速くなりすぎてますます減速がむずかしくなる。自らを省みながら、お伝えしたいのは、コーナーに入って踏むべきはアクセルだということ。ビビッてブレーキを踏み続けるようなマネが一番いけない。アクセルを踏み続けるべし! さすればクルマは安定する。前進、加速こそが人間を成長させ、成長こそがファンをもたらす。それが教訓でした。

文=今尾直樹(ENGINE編集部) 写真=矢嶋修



■アウディR8(日本仕様)
駆動方式 フルタイム4WD
全長×全幅×全高 4435×1905×1250mm
ホイールベース 2650mm
車両重量 1630kg
エンジン形式 V8DOHC直噴
排気量 4163cc
ボア×ストローク 84.5×92.8mm
最高出力 420ps/7800rpm
最大トルク 43.8kgm/4500-6000rpm
トランスミッション 6段Rトロニック(ロボタイズドMT)
サスペンション前後 ダブル・ウィッシュボーン/コイル
ブレーキ前後 通気式ディスク
タイヤ 前235/35R19 後395/30R19
0-100km/h 4.6秒
最高速 301km/h


R8の開発責任者、ヨッヘン・ワグナーさん。「プロジェクト・チームは最初8人でした。小さな組織でやったから実質2年でできてしまった。アウディのデザインを維持して、同時にスポーツカーで、300km/h出せるにもかかわらず、日常にも使える、バランスのいいスポーツ選手で、プラス会社に利益をもたらさないといけない。すべてをバランスさせること。そこに一番エネルギーを費やしたかと思います。V12TDIのスタディはその後何も決まっていない。個人的にはディーゼルとR8をつなげたい。潜在能力はいろいろあるから、いろんなことにトライしたい。アイデアはいろいろあります。


■アウディRS6アバント(日本仕様)
駆動方式 フルタイム4WD
全長×全幅×全高 4930×1890×1475mm
ホイールベース 2845mm
車両重量 2160kg
エンジン形式 V10DOHC直噴+ツイン・ターボ
排気量 4991cc
ボア×ストローク 84.5×89.0mm
最高出力 580ps/6250-6700rpm
最大トルク 66.3kgm/1500-6250rpm
トランスミッション 6段ティプトロニック
サスペンション前 4リンク/コイル
サスペンション後 トラペゾイダル/コイル
ブレーキ前後 通気式ディスク
タイヤ前後 前275/35R20
0-100km/h 4.6秒
最高速 280km/h(リミッター作動)


RS6の開発責任者、イエンス・コッホスさん。「580psのV10ターボを積むアイデアを役員会にプレゼンしたら、誰ひとり疑問視するひとも、クレイジーだというひともいなかった。いいね、とすぐに決まった。ニュルは全部合わせて10万走ってます。この時代になぜこんな高性能のクルマを売らなければならないのか。これにはモータースポーツも含めたトップ・レベルのノウハウが反映されている。580psでこんなに低燃費のクルマをつくってみてください。つくれるコンペティターはいないのではないか。こういうクルマのノウハウが量産車に生かされていく。環境に貢献するためにつくっているのです」



クワトロ社の契約開発ドライバー、フランク・スティップラーさん。現役のレーシング・ドライバーでもある。「僕が決定したわけではないけれど、R8のブレーキ、サスペンション、ハンドリングには僕の意見が反映されていることは間違いない。いや、僕の好みではないですよ。僕の好みはもっとガンガン攻めるクルマ。でも、アウディには当然アウディのセッティングがある。ベンチマークは911だけれど、R8は911よりも乗りやすい、毎日使えるスポーツカー、というコンセプト。そこからバージョンを広げていこうという話なんで、その最初のクルマとしてはいい仕上がりになっていると思う」


アウディのワークス・ドライバー、マイク・ロッケンフェラーさん。左端は彼のDTMカー。「RS6アバントはクラス・ベストだよ、間違いなく。毎回ニュルを走るたびに勉強させてもらっている。クワトロ社が評価のために走ってくれ、というのはラッキー。頼むから仕事ちょうだい、という感じ。ドライバーとしての目標はル・マンに勝つこと。来年新しいクルマが出るらしいから、それに安全に乗れば大丈夫でしょう。あとは誰よりもベターになることが大切。DTMみたいな短距離は自己主張が強くないとダメ。ル・マンみたいな長距離はチーム・ワークで、タイプがまったく異なる。ふたつを使い分けないと勝てない。

(ENGINE2008年10月号)

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