2024.06.20

CARS

得意科目は超ハイスピードの高速コーナー! 2008年モデルの世界最速ワゴン、アウディRS6をロード・テスト! 

見た目は実用車、中身はスーパーカー! 矛盾だらけだからアウディRS6アバントはオモシロイ

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、世界最速ワゴンをうたうアウディの超高性能車、RS6の2008年11月号のリポートをお送りする。1993年のRS2以来のアウディのオハコは、超高性能のステーションワゴンである。実用車の極みのような車型であるにもかかわらず、スーパーカー顔負けの性能を持つRS6の新型が上陸したのを機にテストを試みたリポートだ。

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580馬力の「ハコ」

580馬力のステーションワゴンである。V10ツイン・ターボで直噴の、スーパーカーに載るような5リッターを、実用車中の実用車の車型であるワゴンのボンネット下に押し込んだのである。セダンよりもっと「ハコ」なボディ形状のもとは、気品ただよう中型アウディ、A6のワゴン版、アバント。20インチもの大径ホイールにぶっといタイヤ(275/35!)を履くから、世界ラリー選手権王者になったクワトロのもとだった1980年デビューの初代クワトロのようなブリスター・フェンダーを持つが、基本形じたいは、ディテールがこっていてもビジネス・スーツのように常識的だ。しかし、この中身とルックスの矛盾が、世界最速ステーションワゴンをうたうRS6の生きる世界である。そして、矛盾に満ちたものが、首尾一貫したものよりむしろおもしろいのは、この世の例外というよりも通例だ。じじつ、RS6はおもしろい。

水平方向に伸びやかなプロフィールはRS6のいちばんうつくしいところ。


RS2を追憶する

専用色とされる目も彩なブリリアント・ブルーにシルバーがかったナッパ・レザーのインテリアという組み合わせは、RS6の故郷である陽光まぶしいドイツ南部の風土のように、どこか楽観的な感じがして気分を浮き立たせる。新型は、2002年デビューの初代とちがって4ドア・セダン・モデルはなくアバントだけとなる。そもそもRS6コンセプトの嚆矢となった1993年発表のRS2、そしてその発展形として2000年に登場したRS4と、その点ではおなじだ。ポルシェとの共同開発・生産によって誕生したRS2は、315psという当時にしては並外れた強心臓の5気筒ターボを搭載した伝説の1台だけれど、ジュネーヴ・ショウ会場ではじめてみたそれも、おなじボディ・カラーだった。RS2のインパクトをこんにち再現するために、倍の数のシリンダーと高性能車1台ぶんに匹敵する265psもの追加パワーが必要だったとは、時代の変化のはげしいことよ。

整然としたインテリアの要所にブラックのリアル・カーボン・パネルが配される。



そんなモンスター・スペックの新型は、しかし、ふだんは穏やかな乗りやすいクルマだ。ひとつには650Nm(66.3kgm)もの最大トルクが、1500rpmの低回転からトップ・エンド領域の6250rpmまで超ワイドに発揮されるから、スロットル・ペダルを意識的にふかく踏み込むことなく、たいていの加速がこと足りてしまう、ということがある。結果、エンジン騒音も低くなって車内が静かだし、くわえて、非の打ちどころなくスムーズに、かつ素早く変速する新6段ATによるトルク伝達に、荒々しさがまったくないことも寄与している。さらに、2160kgと重い車重がきいているだろうことを別にしても、DRC(ダイナミック・ライド・コントロール)なる電子制御式の可変ダンパー・システムがうまく働いて、乗り心地が概して良好なので、ドライバーは大船に乗ったような平和なこころもちでいられる。交通規則の範囲内で走るかぎり、刺激が少なすぎるぐらいだ。

高速コーナーと低速コーナー

しかし真価は、やっぱり飛ばさなければわからない。いちばん得意なのは、高速道路のワインディング・セクションや、箱根ならターンパイクのようなスピードを乗せて曲がれる高速コーナーだ。通常はリアに60%のトルクが配分されるクワトロ4WDは、小さな舵角ですむ大きなRのコーナーで、後輪駆動車のようなスタンスをとりつつも、全輪にトルクのかかる4WDだからこそのスタビリティを有する。しかも直噴+ツイン・ターボのパワー・ユニットはレスポンスがきわめてよく、コーナー脱出時には、ハイブリッドのレクサスのように瞬間的に加速Gが立ち上がって痛快至極だ。反対にタイト・コーナーは苦手だが、重量の6割近くをフロントが受け持つ成り立ちからして、それもやむをえない。それでもアンダーステアが顔を出しそうになった瞬間、スロットルを戻して姿勢を整えたのち即座にパワー・オンに転じれば、わずかにテール・アウトさせながら豪快にコーナリングする。と、こんなふうにちょっと複雑なテクニックを要するところに、世界最速ワゴンという「矛盾」したこのクルマのおもしろさがある。

文=鈴木正文(本誌) 写真=望月浩彦

メーカーが「セパン・ブルー」というあざやかな青は、このクルマの祖先ともいえるRS2(1993年デビュー)のテーマ・カラーだった。エンジン・ルームにギチギチに押し込められたツイン・ターボのV10は、アウディの通則にしたがってオーバーハング・マウントされる。ゆえに、前後軸重配分はフロントが約6割、リアが4割となり、ノーズ・ヘヴィ感が強いことは否めない。


■アウディRS6アバント
駆動方式 クワトロ・フルタイム4WD
全長×全幅×全高 4928×1889×1460mm
ホイールベース 2846mm
車両重量 2160kg
エンジン形式 90度V型10気筒ツイン・ターボFSI直噴DOHC
排気量 4991cc
ボア×ストローク 84.5×89mm
最高出力 580ps(426kW)/6250―6700rpm
最大トルク 66.3kgm(650Nm)/1500―6250rpm
トランスミッション 電子制御式6段AT
サスペンション(前) 4リンク/コイル
サスペンション(後) 台形リンク/コイル
ブレーキ 前後通気式ディスク
タイヤ 275/35R20
車両本体価格 1660万円

(ENGINE2008年11月号)

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