2024.06.27

CARS

これは至高の存在のドライバーズ・サルーンだ! クワトロポルテの最スポーティ・モデル、GT Sは、どんなマセラティだったのか?

クアトロポルテGT Sは、どんなマセラティだったのか?

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年11月号に掲載したマセラティのクアトロポルテGT Sのリポートを取り上げる。クワトロポルテSをさらにスポーティに仕立て上げたGT S。それは見た目も音も走りも、すべてが過剰なまでに演出された1台だった。

グラントゥリズモを思わせるグリル

ボディも内装もネロ(黒)のクワトロポルテ・スポーツGT Sは、見るからにワルそうな、ピリピリとした緊張感あふれるオーラをあたり一面に発していた。そもそも低いクワトロポルテの車高を、さらにフロント10mm、リア25mm下げているため、静止した状態でも道に張りつき、身構えるようなポーズをとっているかに見える。

サイド・ウインドウまわりのモールはシルバーからブラックに変更され、ドア・ハンドルはボディ同色となる。ホイールは専用デザインの20インチ。タイヤ・サイズは前245/35ZR20、後295/30ZR20。シートはレザーとアルカンタラのコンビ。


ノーマルやSとの見かけ上の大きな違いはフロント・グリルのデザインだ。ほかのモデルがシルバーのメッキを施された膨らんだ形状の垂直フィンを持つのに対し、これはグラントゥリズモを思わせるえぐり取られたような形状の黒い垂直フィンを持つ。その中央に据えられたトライデント(三叉の矛)には、赤い2本の横線。特別なスポーツ・モデルの証で、現行モデルでこれが与えられているのは、グラントゥリズモSとこれだけだ。

フロント・ミドに搭載される赤いヘッド・カバーを持つフェラーリ製のウェット・サンプ4.7リッターV8ユニットは、専用チューニングにより6000回転以上のトップ・エンドでのパワーを押し上げ、Sに比してプラス10psの最高出力440psを得ている。これもグラントゥリズモSと同じものだ。組み合わされるトランスミッションはリア・アクスル上ではなく、エンジンのすぐ後方に置かれた6速オートマティック。それでも車検証上の重量配分は前990kg、後1090kgとなっているから、いかにエンジンが低く深く押し込まれているかがわかろうというものだ。

新型クワトロポルテ・シリーズには4.2リッターのクワトロポルテと4.7リッターのクワトロポルテSがラインアップされていたが、そこに追加されたのが、Sをさらにスポーティに仕立て上げたGT Sだ。Sのそれをさらにチューンした4.7リッターV8は、最高出力=400ps/7000rpm、最大トルク=50.0kgm/4750rpmを発生。6段ATを介して後輪を駆動する。


ドアを開けると、周囲がレザーで中央部がアルカンタラになったシートや、同じくアルカンタラとレザーのコンビネーションのステアリング・ホイール、その根本から突き出た巨大なパドル、カーボン調のパネルなど、やはりグラントゥリズモSと共通するデザインになっていることがわかる。ただし、グラントゥリズモSでもオートマティックの方ではなく6速シーケンシャル版の方だ。すなわち、6速シーケンシャルを持たないクワトロポルテでは、これがグラントゥリズモSの6速シーケンシャル版に相当する最もスポーティなモデルとなるわけだ。

火を入れた瞬間から響きわたる野太い音

キイを捻り、ブッファーンという雄叫びとともに4.7リッターV8ユニットに火を入れた瞬間から、室内には野太いエグゾースト・ノートが響きわたった。このGT Sで一番特徴的なのは音だ。ダッシュボードにあるスポーツ・ボタンを押すと、マフラーのなかのバルブが開いてより直管に近くなり、アイドリング状態から一段と激しい音を立てる。そして走り出せば、アクセレレーターを踏み込むたびに、ファオォンという爆音をあたり一面に撒き散らすことになる。フェラーリほど甲高くはないけれど、野獣が吠えるような独特のサウンド。都会を走っていると、通行人がみな振り返る。が、その姿を見つけるや、あわてて視線を逸らすのを感じて、いかにこのクルマがワルそうに映っているかがわかる。

 エグゾースト・パイプはオーバルの左右2本出し。


とはいえ、いかにワルそうに見えても、これは間違いなく超高級サルーンなのだ。ローダウンされると同時にフロントが30%、リアが10%硬められた固定レートの足回りは、決して乗り心地を損なうことはないどころか、むしろ適度に引き締まった感触がスカイフックのついたノーマルやSの足より気持ちいいくらいだ。都会を流して良し、高速道路を飛ばせば、速度を上げれば上げるほど路面に吸いつく感覚が、なお良し。ワインディング・ロードでは、さすがに全長5メートルを超えるボディと3メートルを超えるホイールベースが災いして、スポーツカーのようにとはいかないが、2tを越す大型サルーンとしては異例の軽快感に満ち満ちている。アクセレレーターの微妙な操作に間髪入れず反応する鋭い吹け上がり感をもったエンジン。切り始めからシャープに反応するステアリング。パドルを使ってマニュアル操作すれば、ブリッピングも入れたダイレクトなシフトを見せる6速AT。すべてがこの上なくスポーティだけれど、無粋な荒々しさとは無縁だ。ドライバーズ・サルーンとして至高の存在であることは、疑いの余地がないと思った。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=望月浩彦

(ENGINE2009年11月号)

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