2024.05.05

LIFESTYLE

著名な陶芸家がかつて住んだ朽ちかけた古民家をリノベーション 古道具屋のオーナー夫妻が暮らす思わずため息がもれる素敵な空間とは?

森の小路の奥に突如現れる仁平邸の南側。柔らかな木漏れ日が静かに室内に流れ込む。

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夫婦で古いものが好き

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ネットで見つけたのは、A型フォードだけではない。この家もそうだ。6年ほど前のこと、当時は今とは別の、築50年の家を改装して住んでいた仁平夫妻。奥様も古いものが大好きで、住み替える気持ちは全く無かったが、興味本位で見にいったところ気に入ってしまったのだ。



もっとも売りに出ていたのは、住居の隣に建つ陶芸用の工房。濱田篤哉がかつて住んだ家は、東日本大震災の影響で瓦は崩れ落ちて植物に覆われ、廃墟寸前の状態だった。過去に見学した人たちもこの家には興味を示さず、買い手がつかなければ取壊しになる予定だったという。そんな家だが、基礎はしっかりしているうえ使われている木材も良い。大幅に手を入れることを前提に購入を決めた。


そんな仁平さんの改装プランを実現させたのは、地元の大工や左官たち。陶芸家だけでも400人が暮らす益子には、個性的なクリエイターが多く、施工業者も彼らの要望に応えてきた。仁平さんのセンスに加え、そうした職人の仕事の見事なこと。数年前の惨状が全く想像できない、美しい家が完成した。

まずは柱を立て直して補強を加え、瓦を葺き直して天井を抜いた。家の中心となるリビング・ダイニング・キッチンは、天井が高く床が板張りの大空間。家の周りの景色が楽しめるよう、ガラス戸は再作成し、キッチンのある東側には、大きなガラス窓を配している。外光がふんだんに入り明るく、暖炉のお陰で冬も温かい家だ。



家具や建具は、仁平さんの店舗で販売されているものがメイン。古い家だが、「懐かしい田舎の日本家屋」にはない美学が感じられる。キッチンとダイニングを隔てるキャビネットは目隠しになる高さで、上部に煮炊きができるよう火鉢が据え付けられている。システムキッチンのような吊戸棚は設けず、すぐ横の一室をパントリーとして使用。キッチンから外に出たテラスには、竈が設けてある。火鉢も竈もある家だが、食卓は日本古来の座卓ではなく、椅子を利用。ダイニング・テーブルは、地元の大谷石を利用した脚に、大きな天板を載せている。全て古いものにこだわるのではなく、必要であれば近代的なものも取り入れるスタンスである。

豊かな自然の中で、古いクルマに乗り、古い家に大幅に手を入れて暮らしている仁平さん夫妻。現代の日本でも、こういう暮らし方が可能なのだ。森の中の古いものに囲まれた家には、温かで幸せな空気が満ちていた。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章

■建築家 仁平透:1978年、益子の隣町にあたる茨城県に生まれる。東京で中古レコード販売などを経験した後、地元に戻り古道具をリペアし直して販売する「仁平古家具店」、続いて「pejite」をオープンさせ、全国的な人気店に育てる。東京には「pejite青山」と、新丸ビル内にオリジナルの食器を中心とした「汲古」の2店舗がある。


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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!

(ENGINE2024年5月号)

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