2024.07.22

LIFESTYLE

日本のベンチャー企業が仕掛ける「低コスト、低リスクの宇宙旅行」 週末は気球で成層圏遊覧が楽しめる

小さくなる地上の風景から4時間あまりの遊覧が始まる。到達する高度25,000mは宇宙空間とほぼ同じ環境だが、優れた骨格設計や機密構造で気圧変化は飛行機以下、振動は新幹線より小さい。

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星空は仰ぎ見る場所から旅の目的地になりつつある。日本のベンチャー企業が手がける最先端の気球飛行で、子どもの頃に憧れた宇宙に、また一歩近づいた。

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到達地点は高高度の2万5000m


20世紀が思い描いた未来には必ず宇宙があった。21世紀には宇宙ステーションが設置され、月への移住すら可能な未来が描かれていた。約半世紀前のアポロの月面着陸はその嚆矢となるはずだったが、誰もが掌の小さな電子機器で世界とつながるようになった今も、宇宙とわれわれの距離はさほど変わらない。

キャビンは直径約170cmのドーム型窓を備えており、360°の視野で成層圏の眺めを楽しめる。※掲載写真のキャビンは、実際のフライト時と異なる場合があります。


理由のひとつには、技術の発達では追いつけないほど宇宙が巨大で、また深遠であったからだろう。過酷な環境に飛び出すための技術的なハードルの高さは、そのまま膨大なコストへ跳ね返る。勢い、宇宙への旅は先進国の国家単位、あるいは一部のビリオネアの寡占となっていた。ジェフ・ベゾスの宇宙企業「ブルーオリジン」が手がけたロケットの座席がオークションにかけられ、2800万ドル(2021年当時のレートで約30億円)で落札されたことは記憶に新しい。

実験は会社のある北海道の原野などで行われる。こちらは2023年10月の実験で、有人で初の高度10,000m超えを達成した。


こうした状況に抗うように、日本のベンチャー企業である岩谷技研が、ユニークなプロジェクトを推進している。ヴィークルはヘリウムガスを使った気球。到達地点は高高度の2万5000mで、ニアスペースと呼ばれる成層圏を目指す。キャビンに乗船し、地上からゆっくりと浮上すると、やがて頭上には漆黒の宇宙、足下には青い地球が広がる。宇宙との境界とされるカーマンライン(高度10万m)までにはまだ距離があるものの、窓の向こうの世界は宇宙飛行士が見るものと変わらない。およそ4時間の滞空時間は、弾道飛行ロケットの20秒より遥かに長い。

気球にヘリウムガスを注入している。キャビン同様、この気球も岩谷技研で開発されたもの。


岩谷技研ではこのプロジェクトをOPEN UNIVERSE PROJECT「宇宙の民主化」と銘打つ。ロケットによる飛行は高額なことに加え、過酷な環境に適応する長時間の訓練が必須。だが、気球は時間をかけて浮上するため、急激な負荷がかからず、準備は最小限で済む。早々に締め切られた第一回のフライト料金(2024年夏以降実施予定)は約2400万円だったが、ゆくゆくは100万円台を目指すと言う。実現すればプライベートジェットよりもずっと安価になる。

先達が夢見てきた本当の宇宙はさらに先。それでも我々はその入り口までたどり着きつつある。成功を祈らずにいられない「週末の成層圏遊覧」が、われわれの子孫が見る絶景を先取りする疑似体験となりそうだ。

文=酒向充英(KATANA)

(ENGINE2024年7月号)

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