2024.06.26

CARS

ヤフオク7万円で買ったシトロエンのオーナー、エンジン編集部ウエダ、フランスの聖地で歴代シトロエンたちや希少なコンセプトカー群と出会う!【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#40】

シトロエンの博物館、コンセルヴァトワールの入口すぐ左手に並ぶコンセプトカーたち。観音開きのドアを持つ赤いクーペがお目当ての“アクティバ”だ。後方にはデザイン検討用のモックアップの並ぶ大きな棚が見える。

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とにもかくにも2023年3月の時点では、僕は幸運なことに、ほぼすべての展示車両を見ることができた。ミュージアム・ショップの右奥にある大きな鉄の扉をくぐると、そこは金属の梁がむき出しで、いくつかある天窓からの薄明りと、色気のない無数の蛍光灯で照らされた、だだっ広い倉庫だった。遮るものがなく、遠くまですべてが見渡せるので、並んでいるシトロエンの数に圧倒される。



車両はそれぞれテーマ毎にだいたいはまとめられているようだが、よくある自動車ミュージアムのように登場年順にきれいに並んでいる、というわけではなく、ある場所では年代別だったり、コンセプトカーや競技車両がまとまっているところもあったり、2019年から加わったDSブランドのスペースがあったりと、やや混沌とした順列のようだ。

基本は前後2列のクルマのブロックが1つの島になっているのだが、扉のすぐ右手と、建物西側を除き、壁の前も隙間なくぎっちりと車両が並んでいる。埃を被っているようなクルマは1台もないが、ピカピカに磨きあげられている、というわけでもない。ただし多くの車両は極力当時の佇まいを残すように維持されており、今にも動きそうな雰囲気も感じられる。

実際、ごく一部の特別な展示車を除き、タイヤの空気が減って、ヘタっているようなクルマはなかった。さらにデザインのためのモックアップのような自走不可能な置き物はなく、いずれもタイヤがいちおうは回る、移動できるものばかりだった。

ただし残念ながらすべての車両の周囲にはきっちりとチェーンが張られており、触れたりすることはもちろん、背後を見ることすら、なかなかできないようになっていた。

入口のそばにアクティバ・クラブの面々がいたので話しかけてみると、シトロエン・エグザンティア生誕当時の開発者たちが登壇するというトークショーの開幕までは、まだ時間があることが分かった。どうやら僕の聞き間違いだったようで、これから始まるのはミュージアム内の解説付きツアーだという。残念ながらフランス語のみのようだったので僕は参加せず、ときどき長い自撮り棒を使って気になるクルマを様々な角度から撮影しつつ、ひとりでじっくり回っていくことにした。

お目当ては2台。そのうち1台はあったが……

入口右手にはシトロエンの最初の車両、タイプAと、創始者アンドレ・シトロエンの執務室を再現した展示があり、そこから右回りに歩いて行くと、歴史をたどれるようになっていた。大きくカテゴリーを分けるとすれば、戦前の車両、2CVのプロトタイプであるTPV、ラリーなどのための競技車両、そしてヘリコプターや商用車、DSブランドの車両、コンセプトカー群、といった具合だ。いっぽう建物中央の島は基本的に市販車が並べられている。天井からはSMの50周年やBXの40周年を祝うのぼりなどが垂らされていたが、これは各イベント会場へ貸し出した時の展示物のようだ。



僕のやや偏った好みではあるが、ハイドローリック・シトロエンやコンセプトカー関連を中心に、当日撮影した膨大な写真の中から一部を抜粋してご紹介する。詳しくはギャラリー内のキャプションを参照して欲しい。

展示車両の中で僕がいちばん見たかったのは、エグザンティアの登場前、1980年代後半〜90年代前半に造られた“アクティバ”という2台のコンセプトカーである。手がけたのは、20年にわたってシトロエンのデザイナーであったダン・エイブラムソンさん。幻に終わったプジョー309のシトロエン・バージョンや、ザナエ、XM、ベルランゴ、C5、C6などに大きく関わったひとだ。在籍時期を考えるとエグザンティアとも深い繋がりがあるはずで、いつか直接話を聞いてみたいと願っているひとでもある。

2台のアクティバ・コンセプトはそんなダンさんが手がけた、それまでのウェッジシェイプを基調としたBXやXMなどのデザインから、エグザンティア以降の、Cシリーズの少し柔らかなデザインのターニング・ポイントとなった、4ドアないしは2ドアの流麗なクーペだ。



アクティバの第一世代、通称アクティバ1は観音開きの4枚のドアと4輪操舵を備え、後のエグザンティア・アクティバ同様のサスペンション・システムを採用している。今回のイベントを主催したアクティバ・クラブの面々からの要請もあったのだろうか。コンセプトカー群の中でもほぼ中央の、いちばん目立つところに鎮座していた。

サイドからの眺めは、XMにもエグザンティアにも共通する美しいものだ。上から見るとちょっと樽形なところもこの時代のシトロエンっぽい。インテリアもとても近代的だが、あまりよく見えない。少しだけでも把握できればと自撮り棒を伸ばす。特異なサスペンション・システムも覗けないかとしゃがんでみたが、こちらはまったく見えない。

そして、これに続く第二世代のコンセプトがアクティバ2なのだが、当日は館内にその姿は見当たらなかった。いかにも普段はここに置いてあるぞ、といわんばかりにアクティバ1の横に、何もない空間だけはあったのだが……。

ふたたび入口近くまで戻って来ると、アンドレの執務室の左手の、西側の壁面だけは棚が設けられ、車両以外の展示もされていることが分かった。一風変わった小さなコンセプトカーたちと、前半分だけの古いDSが、まるで壁面から飛び出ているようにディスプレイされている。



近づいてみると、棚にはデザイン検討用のモックアップがたくさん並んでいた。その中には、エグザンティアやXM、そしてアクティバ1やアクティバ2らしきものもちゃんと置いてある!



うーん、それでは実車のアクティバ2は、いったいどこに行ってしまったのだろう……。

壁面を辿っていくと、大小2つの扉が設けられていた。コンセルヴァトワールの北西の角にあたる部分だ。さっき前を通ったDSブランド車両たちと、DSやSMをベースとした歴代フランス大統領専用車の並ぶ列のすぐ隣である。



小さな扉は鍵もかかっておらず、人も出入りしていたので開けてみると、その先は車両整備用のファクトリー・スペースだった。雑然としているが、何基ものリフトがあり、シトロエン以外の車両もメンテナンスを受けているようだ。その奥、一番端のリフトの上に、僕の目は釘付けになった。アクティバ2がいる!

しかし写真を撮ろうと思って近づいて行くと、スタッフが追いかけてきて、出ていくように促されてしまった。残念ながらこのバックヤード、入っては駄目なようである。ここまで来てアクティバ2をしっかり見られないのは悔しいが、こればかりは致し方ない……。

小さな扉からふたたび展示スペースに戻ると、アクティバ・クラブの面々が参加者のために椅子を並べはじめていた。さっき挨拶をしたアクティバ・クラブの代表、Thomas Beligne(トマ・ベリニエ)さんも姿を現した。マイクを握っているから、彼が司会を担当するのだろう。どうやら、いよいよトークショーがはじまるようである。メインのゲストは3人のエグザンティアの開発関係者で、1人はリモートでの参加だが、2人は実際にこの日、登壇する。さらにコンセルヴァトワールの責任者も参加するという。



さて次回は、いよいよこのポーランドとフランスという2つの国を訪れた海外篇の最終回である。2時間近くに渡って行われたトークショーの概要に加え、先ほど追い出されてしまった、秘密のバックヤードへの再突撃の模様もお届けする。

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

■CITROEN XANTIA V-SX
シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は236万6996円)
導入時期 2021年6月
走行距離 17万4088km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)

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