2024.07.06

CARS

F1王者が製作を依頼した、たった38台の特別なアストン・マーティン、ヴァリアント登場

このほど、アストン・マーティンは、Valiant(ヴァリアント)をイギリス本国で発表した。公道仕様でありながらサーキット走行を強く意識したスペシャル・エディションで、アストン・マーティンのビスポーク・サービスである「Q byアストン・マーティン」が手掛けている。

110周年記念車がベース

ヴァリアントは、F1世界チャンピオンに2度輝き、現在はアストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム」で参戦しているフェルナンド・アロンソ選手が、軽量で過激さを増した、レーシングカーの要素を取り入れた「Valour」(ヴァラー)が欲しいという個人的な依頼をきっかけに開発されたそうだ。ヴァラーは2023年7月にアストン・マーティンの110周年を記念して110台が製作されたFR(フロント・エンジン後輪駆動)のスポーツ・モデルである。



ワイドで筋肉質なフォルム

ボディ全体に軽量カーボンファイバーを用いたエクステリアは、ワイドで筋肉質なフォルムにシャープなラインが刻まれている。そのデザインは、ダウンフォースを発生させて安定性を確保しつつ、速度を低下させる空気抵抗を最小限に抑制する。深いフロント・スプリッターは、最大限の効率で風を裂きながらノーズを路面に低く張り付かせるのに寄与する。

一方で、特徴的な多層構造のエンドプレーンは、前輪まわりの空気の流れを導いて整える。車幅全体に広がるカーボン製グリルがエンジン冷却空気の流れを増やすと同時に、フロントアクスル前方の重量を削減。重量を中心部に集中させることで、ハンドリングを向上させるとしている。



各所に空力を意識した処理が施される

ワイドなサイドシルとリア・ホイール前の上向きに反ったボーテックス・ジェネレーターは、フロント・スプリッターのエンドプレーンと連携し、サイドの空気の流れを整えて、乱気流、空気抵抗、浮き上がりを低減させる。また、大きく丸みを帯びたサイド・フェンダーと21インチのマグネシウム製のホイールに装着されたカーボンファイバーのエアロディスクも見どころのひとつだ。

軽量鍛造マグネシウムホイールに直接装着されるエアロディスクは、ホイールの回転から生じる乱気流と空気抵抗を抑制。加えて、戦略的に配置された6つの吸気口が冷却用の空気をカーボンセラミック・ブレーキに送り込み、カーボンセラミック・ディスクによって生じる高温の空気を排出するホイール外周開口部とともに、サーキット走行時に最適なブレーキ性能を維持する。



機能的かつ迫力のある造形

リア・ビューは、シャープなヴァリアント・カムテールと大胆に上向きに反ったトランク・リッド、その上に大きな固定ウイングを配置することで、機能的かつ迫力のある造形になっている。リア・ウインドウに代わって備わるヒンジ開閉のスクリーン・パネルを開けば、ヘルメットやレースウェアなどの収納が可能だ。

リア・ディフューザーは空力の面で大きな役割を果たしている。空気抵抗と浮き上がりを効果的に削減するために数値流体力学(CFD)を用いて設計され、カーボンファイバー製にすることでリア部分の重量削減も図っている。また、最大の視覚効果を狙うと同時に、チタン製エグゾースト・システムを美しく囲む役割も果たしている。



レースで培われた機能性と完璧な装飾

インテリアは、厳選された素材が組み合わせた、レースで培われた機能性と定評ある完璧な装飾デザインを採用、2座のコクピットには、剥き出しのサテン仕上げのカーボンファイバーが使われていて、軽量素材を重用する証となっている。シートはパッドの配置と精巧に仕立てられた軽量素材が高い快適性、ラグジュアリー、心地良い手触りを生み出している。また、ヴァリアント独自のステアリング・ホイールは完璧な円形で、直感的な操作と集中力を維持させるため、細めのリムとスポークにはスイッチ類が配されていない。

6段MTはトランスミッション・トンネルの内部が一部見える構造になっていて、トランスアクスルに後方に向かうギア連結を見ることができる。変速操作の重みと感触を完璧にすることに重点を置いて開発された、新しいビスポークの球形シフト・ノブとHパターンのシフト・ゲートが、シフト動作の効率と正確性を最大限に引き上げる。



シートの背後にハーフケージを採用

インテリアには安全性と快適性を両立するため、シートの背後にハーフケージを採用。素材はスチールで4点レースハーネス装着時のアンカーポイントとしても使用できる。シートはビスポークのトリムを持つレカロ社製Podium(ポディウム)を標準装備。このシートは、横方向とショルダー部のサポート力に優れているほか、胴部分のパッシブベンチレーションを装備した革新的なパッドは、過酷なドライビングでも快適さがアップする。

キャビンのトリムは、アルカンターラまたはセミアニリンレザーから選択可能。アルカンターラ・シートに施されたキルティングの「デボス」加工と、最手触りの良いアルカンターラのステアリング・ホイールからも軽量素材重視の姿勢を見ることができる。ビスポークのドア・パネルは、彫像のようなデザインで、メッシュのパネルと軽量の布製ドア・ハンドルも軽量化が図られている。



徹底した軽量化

エンジンは、ヴァラーと同形式の5.2リッターV12ツインターボを搭載するが、最高出力は745㎰(548kW)へと30ps高められている。変速機は6段MTのみの設定だ。

ヴァリアントは、徹底した軽量化をはじめ、シャシーなどにユニークな技術も盛り込まれている。軽量化では、3Dプリンター製作のリア・サブフレームは剛性を下げることなく3kgの重量削減を実現。また、マグネシウム製のトルクチューブによって車両中央部の質量を8.6kg削減している。

フロント275/35、リア325/30のタイヤを装着する21インチの軽量マグネシウムホイールは、ステアリング・レスポンスとホイール・コントロールが向上し、バネ下重量も14kg削減。さらに、モータースポーツ仕様のリチウムイオン・バッテリーによって11.5kgも軽くなっている。



最新のサスペンション技術を搭載

サスペンションで注目なのは、マルチマティック社製のアダプティブ・スプール・バルブ(ASV)ダンパーだ。ASVシステムは、乗り心地とハンドリング特性をほぼ無限に調整できる最新のサスペンション技術で、ごく限られたモデルでの装備例しかなく、アフターマーケットでは入手できない。ASVにより、モータースポーツ用のダンピング制御やオペレーション制御の幅が可能になる。ブレーキは、フロントが直径410mm、厚さ38mm、リアが直径360mm、厚さ32mmのカーボンセラミック・ブレーキも標準装備する。

生産台数はわずか38台で、グローバルの販売割り当てはすでに決定している。デリバリーは、2024年第4半期からスタート。

7月11日~14日に開催される「2024年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で一般公開され、名高いヒルクライム・コースのダイナミックなデモとともに行われる予定だ。デモ走行のひとつは、ヴァリアントの最初のオーナーとなるフェルナンド・アロンソが行う。



文=塚田勝弘

(ENGINE WEBオリジナル)

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