2024.08.31

LIFESTYLE

魂を揺さぶり深い黙想に誘い込む 伝説の写真家、横谷宣の作品集「黙想録」がスゴイ!

写真集『黙想録』より

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独特の美意識を持った作品で知られる写真家・横谷宣。その世界観を堪能できる写真集『黙想録』が完成した。

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レンズの組み合わせを変えてカメラを自製


もはや伝説の写真展と言っていいだろう。横谷宣が15年前の2009年1月~2月に東京・お茶の水のgallery bauhausで開催した、彼にとっての最初の個展「黙想録」である。横谷は当時まったく無名の写真家だった。彼は、1980年代から世界中を旅して、これしかないと目をつけた光景を撮影してきた。自分にとっての理想である朝か夕方の光の波長に合わせて、レンズの組み合わせを変えてカメラを自製し、印画紙を選び、プリントのトーン・コントロールにも徹底してこだわった。そうやって一点一点、丁寧に手作りされた写真群は、見る者の魂を揺さぶり、深い黙想(メディテーション)に誘い込むような力を発揮するようになった。

そんな横谷の写真の魅力は、ネットや口コミでじわじわと広がり、なんとこの時の展覧会では、展示されていたほとんどの写真、50点以上が売れるという異例の事態になった。横谷は、吟味して選んだ紙に感光乳剤を塗って、印画紙も自製し始める。それまで使っていた印画紙が、販売停止になってしまったからだ。それでも、作品を購入した人たち全員にプリントを手渡すまでには4年かかったのだという。

「最後のプリントの展覧会」


横谷はそれ以後も、自分の撮影・プリントのスタイルを貫き通してきた。ところが、印画紙を製作するための材料や薬品が高騰し、これ以上、今までと同じやり方でプリントを続けるのはむずかしくなっていった。今回、最初の展示と同じタイトルでgallery bauhausで開催されている写真展が、「最後のプリントの展覧会」と銘打たれているのはそのためである。現在、彼の手元に残っているプリントを、すべて出品したということだ。

同時に、本展は写真集『黙想録』(書肆みなもと)の刊行記念展でもある。あえて用紙に厚紙を用いて、写真図版の大きさやレイアウトにも神経を使い、現在の写真製版・印刷技術のすべてを駆使して製作された写真集にも、横谷のこだわりが隅々まで貫かれている。写真集の印刷にあたって、横谷はプリントをスキャンした画像データに合わせるのではなく、「自分の頭の中にある」色味や諧調を再現することを求めたのだという。ぜひ横谷の、どこか遠い場所へと連れていかれそうに感じてしまう、深みのある写真の世界を、オリジナル・プリントと写真集の両方で味わい尽くしていただきたい。

文=飯沢耕太郎(写真評論家)

※写真の一部は【全ての画像を見る】からご覧いただけます。

■写真集『黙想録』:撮影用の特殊なレンズのみならず、現像液や印画紙まですべて自身で製作しているという横谷宣氏。『黙想録』(書肆みなもと)と名付けられた今回の写真集は、約4年の歳月をかけて完成したもの。写真資材の入手が困難になったことから、新たなプリントができなくなったため、この写真集はほとんどが1枚しか残っていない現存のプリントから制作されたそうだ。なお『黙想録』は書肆みなもとのホームページから購入可能。

■『横谷宣写真展 黙想録』はgallery bauhausで9月14日まで開催中(東京都千代田区外神田2-19-14) ※8月1日~9月1日は夏季休廊


(ENGINE2024年9・10月号)

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