2024.08.19

CARS

過去には断続200km以上も!? 夏のアウトバーン・バカンス渋滞の現状と理由 新連載「ドイツのナマ情報をお届け!」その1

ドイツ在住経験のあるモータージャーナリスト、竹花寿実氏がドイツでの自動車にまつわる情報を伝える新連載「ドイツの生情報」。第1回目は夏のアウトバーンの渋滞について。この時期、ツラいのは日本だけじゃないんです。

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日本の夏の悪しき風物詩

お盆休みも終わり、日本の夏の悪しき風物詩と言っても過言ではない帰省ラッシュも幕を降ろした。今年は南海トラフ地震臨時情報の発表を受けて、西日本を中心に旅行控えが発生。また、関東地方より北の地域では台風の影響で混乱を生じたが、各地の高速道路では相変わらず連日数十kmもの渋滞が発生した。毎年のこととはいえ、なんとかならないものだろうか? 自分自身も自動車ユーザーの一人であるものの、この如何ともし難い状況には毎年辟易とする。



ドイツもなかなか酷い

ではドイツの夏はどうなのかというと、こちらもなかなか酷い。ドイツでは例年、6月下旬を皮切りに、州単位で学校が6週間の夏休みに入り、それが9月上旬まで続く。その間に親世代も通常4週間のバカンス休暇を取り、家族旅行へ行くのだ。

当然アウトバーンは家族旅行のクルマたちで溢れ返る。今年のピークは、ほぼ全ての州の夏休みが重複した7月28日〜8月4日だったが、8月いっぱいはまだまだ渋滞に苦しむことになる。

アウトバーンの渋滞も、酷いときには数十kmに及ぶ。最近はあまり聞かないが、かつてバカンス・シーズンに、イタリア北部からドイツ南部まで、国境を超えて200km以上も断続的な渋滞が発生したこともある。やはり渋滞も大陸では島国とスケールが違う。場合によっては流れが完全停止してしまうこともあり、真夏の渋滞の酷さは日本より少しだけマシといった印象である。



9か国からやってくる

頭を抱えるような渋滞は、ドイツ人の多くがクルマでバカンスへ行くことだけが理由ではない。総延長1万3172km(2023年現在)のアウトバーンが、フランスをはじめ、ルクセンブルクやベルギー、オランダ、デンマーク、ポーランド、チェコ、オーストリア、スイスと、9か国の高速道路と繋がっていることが影響している。

アウトバーンの通行料はタダ(大型商用車は有料になっている)だから、ドイツ国内だけの移動ではなく、それらの国からドイツを経由して南へ北へ、東へ西へと移動するクルマが周辺国から大量に流入するのだ。それが渋滞を増長する。

そのため、夏のバカンス・シーズンには、アウトバーン上でイタリアやフランス、スイス、オーストリア、遠くはハンガリーやルーマニアなどのナンバープレートをつけたクルマを頻繁に目にする。彼ら隣国のドライバーは、アウトバーンを走り慣れていないので、流れも悪くなる。



ドイツ人はオランダ人が嫌い!?

しかも、彼らもドイツ人と同様に長期のバカンスが目的なので、速く走れないキャンピングカーやキャンピングトレーラーを牽引している車両が多い。ただでさえ交通量が増え、流れも悪くなっているうえに、平均速度もガクッと落ちるのだ。

ちなみに、これは渋滞の原因とは関係ないが、ドイツのドライバーは、オランダ・ナンバーのキャンピングカーを嫌っている。これは多分にオランダ人に対する偏見によるものだと思うのだが、とにかくドイツ人ドライバーは、オランダ・ナンバーのキャンピングカーを目の敵にしている。夏場にアウトバーン上でオランダ・ナンバーの車両を見つけては「ドイツに入ってくるなよ!」と、手を振り上げながら車内で罵声を浴びせているドライバーをよく目にする。



道路工事が拍車をかける

8月のアウトバーンには渋滞の原因となる要素がもうひとつある。それは交通規制を伴う道路工事だ。日本の道路工事は年度末に集中するイメージだが、ドイツは8月である。その理由はバカンス・シーズンだから。8月は多くの企業でビジネスがストップしてしまうほど休暇を取る人が多い。そのためドイツ政府は、8月なら交通に多少支障を来しても国全体の経済に与える影響が少ないと判断して、多くの工事を行うのである。

しかもアウトバーンの工事は、日本の集中工事のように短期間で終わることはない。数カ月、場合によっては数年も交通規制が続くものもざらだ。それらの多くが8月に被るように実施されるのだからたまらない。「工事区間のないアウトバーンは夢だ」と自嘲気味に言うドイツ人は多い。

タイミングによって混雑エリアが変化

ドイツ国内に限っていえば、各地域の夏休み期間が終了する直前の週末に、特にひどい渋滞が発生する。例えばノルトライン=ヴェストファーレン州と南オランダの夏休み終了直前となる8月の3週目の週末には、デュッセルドルフやケルン周辺を通るA3やA40、A44、A46、A52、A57あたりに交通が集中してカオス状態になる。その翌週末には、ヘッセン州やラインラント=プファルツ州、ザーラント州が夏休み終了を迎えるため、主にフランクフルトやコブレンツ周辺を通るA3やA5、A6、A7、A48、A61、A66、A67あたりが猛烈に混む。このようにタイミングによって混雑するエリアが変化する点が特徴だ。



ドイツの慢性的渋滞エリア

とはいえ慢性的に混雑するエリアは決まっているので、もしアウトバーンを走る予定があるなら、以下のルートには注意してほしい。

・A1:リューベック – ハンブルク – ブレーメン – ケルン
・A3:オーバーハウゼン – フランクフルト – ニュルンベルク
・A7:フレンスブルク – ハンブルク – ヴュルツブルク – フュッセン
・A8:カールスルーエ – シュトゥットガルト – ミュンヘン – ザルツブルク
・A9:ベルリン – ニュルンベルク – ミュンヘン
・A99:ミュンヘンバイパス

ADAC(ドイツ自動車連盟)の統計では、これら6つのルートで長年にわたり、バカンス・シーズンに渋滞が特に多く発生しているという。またドイツで発生する渋滞の3分の2以上がここに集中しているそうだ。

唯一救いがあるとすれば、ドイツのアウトバーンでは、大型トラックは必ず右側の走行車線を走り、追い越し車線には出てこないので、多少混雑していても乗用車は比較的スムーズに走ることができる。また平時から大型トラックは日曜日の走行が禁止されていて、さらにバカンス・シーズンには特別に走行禁止期間が設けられる。日曜日の走行禁止はキリスト教の影響が多分にあるので、そのまま日本に採り入れるのは難しいが、大型トラックの通行帯は日本の高速道路でも徹底されるべき。それだけでかなり渋滞が改善されるはずだ。

また近年ドイツでは、燃料価格の高騰や、電気自動車=バッテリーEV(BEV)の普及、鉄道の利用促進策などによって、アウトバーン上の渋滞は減少傾向にある。とはいうものの、まだまだ激しい渋滞が発生している。今年はパリでオリンピックとパラリンピックも行われているだけに、フランス方面に繋がるルートの渋滞に気をつけるべきかもしれない。



文・写真=竹花寿実

(ENGINE WEBオリジナル)

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