2024.10.25

CARS

地球上に敵なしのジムニーと狂気の爆速オフロード4WDのG63の対決 自動車評論家の清水草一が価格15倍以上のジムニーとGクラスを乗り比べて分かったこととは?

実は2台所有も少なくない

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G63に試乗した後ジムニーに乗り替えると、あまりの遅さに衝撃を受ける。G63と一緒に走るのにかなり苦労する。

最大の要因は、パワーのなさではなく、ファイナルギア比の低さにある。1速で発進するとまるで車速が伸びず、2速へチェンジしている間にG63に引き離されてしまうのだ。G63がほとんどISGだけで加速している程度でも、置いて行かれる。

ジムニーのエンジンはターボのみ。軽自動車としては決してそんなに遅くはないし、いったん速度が乗ればなんの問題もなく快適に走ってくれるが、さすがにG63とは別世界だ。



ただ、解決策はある。上り坂を除いて2速で発進するのだ。それで1速から2速へのシフトチェンジの時間を短縮できる。ものすごく原始的な解決法で恐縮だが、発進のたびにセナのような超速シフトチェンジをするのも大変だし、G63に付いていくためには現実的な方法だ。

前述のように、ジムニーは4輪リジッド・サスを守っている。4輪リジッド・サスのクルマは、直進安定性がとても悪いのが通例だ。昔の映画の運転シーンのように、左右に当て舵が必要になったりする。



Gクラスも4輪リジッド・サス時代はそんな感じだった。ステアリング・レスポンスが悪いなんてものじゃなく、高速道路ではまっすぐ走らせるのに苦労した。思えば30年くらい前のGクラスは、ガソリンもディーゼルも100馬力前後しかなくて実に鈍重で、今のジムニーよりも遅く感じた。昔のランクルもしかり。本格派オフロード4WDというのは、元来そういうものなのだ。

それと比べると現行ジムニーは、ショート・ホイールベースの4輪リジッド・サスとは思えないほど、高速道路でも割とまっすぐ走ってくれる。4輪リジッドなのに左右にフラフラしないのだから、それだけで「凄えっ!」っと言いたくなる。ターボのおかげで、時速100キロでも快適に巡航が可能。案外静かだし乗り心地も悪くない。天国だ! G63よりもステアリング・レスポンスは緩慢だが、そもそも横Gをかけるなんて思いも寄らないので、G63で首都高を飛ばした時のような怖さを感じることもない。

さすがに後席は狭すぎて大人が乗るのは難しいが、2名乗車以内なら普段の足として問題なく使える。ジムニーの国内販売で4段ATが7割を占めているのを見れば、多くが「本物っぽくてカッコいい足」として使われていると推測できる。ATなら2速発進といった小技も必要ない。「本物っぽくてカッコいい足」として使われているという点は、G63もまったく同じと言うか、G63はほぼ100%ソレだ。値段は10倍以上違うが、日本での用途はある意味非常に近い。この2台を同時所有している富裕層も少なくないと聞く。



ただし海外では、2台のありようは大きく異なる。G63は全世界共通で富裕層のラグジュアリーな足だが、海外でのジムニーは、主に途上国で、「どこでも走れるマルチな足」として活躍しているのである。

昨年、インドやオーストラリアでジムニー・シエラの5ドア・モデルが発表されて話題を集めたが、途上国には、生活圏にれっきとした悪路があり、雨が降ると泥濘と化したりする。ジムニーの活躍の場は、アジア、オセアニア、アフリカ、中南米、そして日本。スズキは12年前に北米市場から撤退しているし、欧州でも燃費規制の影響を受け、販売が一時停止された(現在は商用車として細々と販売再開)。

つまりジムニーの世界での立ち位置は、相変わらずコンパクトで便利な本格派オフロード4WDのままであり、日本での使われ方はかなり特殊なのである。現行モデルは快適性がぐっと増したが、それはジムニーにとって付加価値に過ぎない。

一方のメルセデスGクラスは、軍用車から出発して、現在は独自のラグジュアリー・カーに変容した。

この2台、機械としての本質やフォルムはかなり近いが、用途は見事に分化した。ただしここ日本でのみ、重なり合って共存しているというわけだ。あぁ、日本に生まれてよかった~。

文=清水草一 写真=神村 聖

■スズキ・ジムニー
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 3395×1475×1725mm
ホイールベース 2550mm
トレッド(前/後) 1265/1275mm
車両重量 1040kg
エンジン形式 水冷直列3気筒DOHCターボ
排気量 658cc
最高出力 64ps/6000rpm
最大トルク 96Nm/3500rpm
トランスミッション 5段MT
サスペンション(前) 3リンク・リジッド
(後) 3リンク・リジッド
ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム
タイヤ(前後) 175/80R16
車両本体価格 190万3000円

■メルセデスAMG G63
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4690×1985×1985mm
ホイールベース 2890mm
トレッド(前/後) 1655/1660mm
車両重量 2570kg
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ+モーター
排気量 3982cc
最高出力 585ps/6000rpm
最大トルク 850Nm/2500-3500rpm
トランスミッション 9段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン
(後) 5リンク・リジッド
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/通気冷却式ディスク
タイヤ(前後) 285/45R21
車両本体価格 3080万円

(ENGINE2024年11月号)

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