クルマにおけるSDGsはガソリンかEVかという選択だけではない。車体のほとんどに使われる鉄とガラスも、廃車後の再利用が難しいという問題を抱える。トヨタが取り組む「廃材×伝統工芸」の方程式とは……。
2021年にスタートしたトヨタ自動車の構造デザインスタジオは、社内のさまざまな部署のエキスパートが集まった横断的な工業デザイナー集団だ。次世代の車両構造開発に加え、「捨てるところのないクルマ」づくりにも取り組んでいる。スタジオを主導するテーマプロデューサーの大學孝一氏は、その可能性を探る過程で車両のリサイクルについて限界があることを知る。

「現時点ではクルマを100%再生することは出来ません。だからこそ廃棄されることを考えてつくらなければと思いました」
着目したのは、必要不可欠な素材である鉄とガラス。それぞれ単なるパーツにとどまらず、運転や居住性、安全性能すべてに有機的に関わる。ハイスペックゆえに融点が高かったり、変色したりと再生しづらい難しさを持つ。そこで生まれたのが「クルマに戻らないものは別の形で輝かせる」という斬新な発想。それがトヨタの工場がある地域の伝統技術や作家との共創、いわば“廃材の地産地消”という試みだ。
伝統工芸から考える循環たとえば鉄は山形鋳物の急須・冷酒器や宮城県の中新田打刃物の三徳包丁に、ガラスは同じく宮城県の作家によるグラスやオブジェへと生まれ変わった。通常の素材とは勝手が異なる特性に現場で試行錯誤が繰り返されたが、結果的に圧倒的な完成度とともに独特の美しさと質感を作品にもたらす。昨年秋に東京都内で開催された展示イベントは大きな反響を呼んだ。
大學氏は「廃棄という言葉を無くす」というのが構造デザインスタジオの究極の目標と語る。確かにクルマの絶え間ない進化は、同時に環境への負荷と表裏一体。それをアートとして可視化することで気づきを与えつつ、同時に伝統工芸とのコラボを通じて地域の活性化も視野に入れる。世界一の販売台数を誇るトヨタ自動車が行う両輪のプロジェクトは、循環社会の新しいフェイズに向けてひとつギアを上げたようだ。
文=酒向充英(KATANA)
(ENGINE2025年5月号)