2025.05.13

CARS

「“軽いは正義”を体現したその仕立てが見事」と桐畑恒治(自動車評論家)が絶賛したクルマとは? 上半期注目の5台の輸入車にイッキ乗り!

桐畑恒治さんが乗ったのは、シトロエン・ベルランゴ・マックス、マクラーレン750Sスパイダー、アルピーヌA110 GT、ルノー・アルカナ・エスプリ・アルピーヌ、ポルシェ911カレラの5台

今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗! 

桐畑恒治さんが乗ったのは、シトロエン・ベルランゴ・マックス、マクラーレン750Sスパイダー、アルピーヌA110 GT、ルノー・アルカナ・エスプリ・アルピーヌ、ポルシェ911カレラの5台だ!

シトロエン・ベルランゴ・マックス「乗れば間違いなくシトロエン」

さてさて、本日の一台目はベルランゴか……と思ったが、会場で探し回る羽目に。そう、フェイスリフトを受けていたことをすっかり忘れていたのだ。果たしてその新しい顔つきはというと、兄弟車と見間違うほどすっきり精悍になった。以前のすこし陰鬱かつファニーな雰囲気を漂わせていた顔つきがシトロエンらしくて好みだっただけに、正直テンションは下がり気味だった。

シトロエン・ベルランゴ・マックス

だが、ひと転がしすると従来型より“シトロエン”らしさが増していることに気づき、思わずニンマリ。昔のハイドロ&ファブリック・シート時代のような、ふんわり心地よい乗り味が強まっていたのだ。

個性的なルックスは薄れたが、乗れば間違いなくシトロエン。それが最新型ベルランゴの魅力だ。足まわりの仕様変更は公式には発表されていないが、年次改良によるブラッシュアップの成果だろう。それで方向性を明確にしてくるのだから大したもの。このあたりの巧さとさりげなさが何よりスゴイ。運転中にデザインを愛でることはできないが、その心地よさは存分に堪能できる。

マクラーレン750Sスパイダー「知性が漂っている」

イタリアン・エキゾチックと肩を並べるハイ・パフォーマーでありながら、マクラーレンにはライバルたちの派手派手しさとは一線を画す、知性が漂っている。それは目にも鮮やかなグリーンのボディ・カラーを纏っていても、わずか11秒でオープン・エアが楽しめるリトラクタブル・トップを備えようとも、その知的でスマートな印象は変わらない。

マクラーレン750Sスパイダー

無駄なくきれいに体を包みこむシート形状や、オーディオやドライビング・サポートなどのスイッチ類を完全に廃したステアリング・ホイールとそのフィール、そして屋根を開け放ったときにこそ実感する整流の高さーーすべてが合理的で洗練されている。そこかしこの造りにまったく無駄がないのがスゴイ。

さらには750psを誇る4リットル V8ツインターボの吹け上がりも、7段ギアボックスのつながりもこの上なく滑らか。これほどの高性能でありながら、操ることに対してもほとんどストレスを感じさせないのが驚きだ。そして何より、この印象が最新のマクラーレン全車に共通していることこそが圧巻である。

アルピーヌA110 GT「軽いは正義」

この「ガイシャ大試乗会」とともに本誌人気企画である「HOT100」において、ここ数年、個人的ナンバーワンの座に君臨し続けているのがアルピーヌA110だ。それは何より“軽いは正義”を体現したその仕立てが見事だからである。

アルピーヌA110 GT

コンパクトな車体ながら大人ふたりが余裕をもって収まることができるパッケージングを実現しつつ、ミドシップ・スポーツカーらしい車体中心を軸としたボディの動きとフットワークのキレの良さに惚れ惚れする。

今回は久しぶりにステアリングを握ったが、初めて乗ったときの感動はそのまま。いや、むしろシャシーの粘りが増し、乗り心地がさらに向上したことで、進化の余地がまだあったことに驚かされた。

GTグレードでは最高出力がついに300psに達したが、シャシーにはまだまだ余裕が感じられる。登場から8年が経過したいまでも、新鮮な驚きを与えてくれるのがA110の凄みだ。マクラーレンのような知性すら感じさせるそのキャラクターは、やはりモータースポーツを極めたブランドならではのものだろう。

ルノー・アルカナ・エスプリ・アルピーヌEテック・フル・ハイブリッド「ルノー・スポールの技が息づく」

個性派揃いのフランス車のなかでも、ひときわ印象的なのがルノー・アルカナだ。クーペSUVというスタイルもさることながら、同社初の本格ハイブリッド・システムにF1由来のドッグミッションを採用したことでも話題となったのは記憶に新しい。

ルノー・アルカナ・エスプリ・アルピーヌEテック・フル・ハイブリッド

ただ、登場当初から感じていたのは、その個性派ぶりに反して、驚くほど爽快なドライブ・フィールを味わえる点だ。そして今回の試乗で、その印象はさらに強まった。

1.6リットルのE-TECH フル・ハイブリッドは電動化モデルらしくスタートは静々とした所作で力強いのが好印象。先の改良により、日本仕様は1.3/1.6リットルともに“エスプリ・アルピーヌ”グレードに一本化され、19インチ・タイヤとスポーティなサスペンションを採用したが、その足捌きはハードすぎず、絶妙な軽快感が加わっている。メガーヌR.S.などで培われてきたルノー・スポールの技が、アルカナにも息づいているように感じた。

SUVでありながら、ルノーらしい走りの楽しさがしっかり体現されているのが、何よりスゴイのである。

ポルシェ911カレラ「世界観は守られている」

先頃改良を受け、992.2となったポルシェ911。目玉はハイブリッド化だが、それは(今のところ)GTSグレード限定の話だ。カレラはデジタル・インターフェイスの刷新が主だった変更点となる。その影響でクルマとの一体感が薄れたのでは? そんな懸念を抱きつつステアリングを握ったが、まったくの杞憂だった。新型でも911の世界観はしっかりと守られていたのである。

ポルシェ911カレラ

デジタル・スクリーンは伝統の5連メーター配置を選択可能で、スターター・スイッチも従来どおりドア側に配置。そして独特の後輪駆動フィールも、その盤石なトラクションのようにまったく揺らぎがなかった。そのうえで乗り心地もしっかりと磨かれていて、スポーツカーとしての鋭さと日常での快適性を両立する万能ぶりには、改めて舌を巻く。

どれだけ時代が進んでも、いくら使い古された言い回しだとしても、やはりポルシェ911は「最新が最良」。その哲学が、今回の進化でも揺るがなかったことに深く納得させられた。

「多様性こそが魅力」桐畑恒治から見た、いまのガイシャのここがスゴい!


これだけの台数が集まっても、それぞれの個性が際立ち、印象が重ならない。これこそがガイシャの真骨頂だろう。見た目、音、匂い、そしてドライブフィール……あらゆる要素に国やブランドの哲学が凝縮され、その違いを体感するだけでも興味深い。

デジタル化が進み、人とクルマの関係が変化しつつある今、その影響はインターフェイスにも及んでいて、音声認識の精度や操作性、ディスプレイのデザインに至るまで、各メーカーの思想が表れ、なかには、ケータハムのようにプリミティブな姿勢を貫くという選択肢すらある。この多様性こそが輸入車の魅力であり、ブランドごとの主張の強さが、そのままクルマの個性に直結している。やはりそこのパワーがガイシャはスゴイのである。

だからこそ、その本質を見極めながら、それぞれの魅力を的確に伝える-そんなリポートをこれからも届けていければと、改めて思った。

文=桐畑恒治

(ENGINE2025年4月号)

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