今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗!
佐野弘宗さんが乗ったのは、ジープ アベンジャー・アルティチュード、ランボルギーニ・レヴエルト、BYDシールAWD、ケータハム・スーパーセブン600、アストンマーティン・ヴァンテージの5台だ!
ジープ アベンジャー・アルティチュード「走りの本質はヨーロピアン」
ジープといえば、まさにアメリカを体現したようなブランド・イメージだけれど、アベンジャーは事実上の欧州車といっていい。

この100%電気自動車のジープは、もともと旧PSA(プジョー・シトロエン&オペル)が開発したeCMPプラットフォームを土台として、旧フィアットが設立したポーランド工場で、フィアットやアルファ・ロメオと混流生産されるからだ。
しかも、ジープの本場アメリカでは販売されない。アベンジャーのようなクルマは、ジープを擁していた旧クライスラーがフィアット・グループと経営統合してFCAとなり、そのFCAが今度はPSAと統合してステランティスになったから生まれ得たわけだが、あらためて、昨今の欧米クルマ産業はダイナミックに動いているところがスゴイ。
良くも悪くも。そんなアベンジャーは走りの本質は明らかにヨーロピアン風だけど、デザインはジープである。これを生粋のジープ・ファナティックがどう思うかはともかく、クルマ自体はなんとも軽妙な味わいで心地よい。
ランボルギーニ・レヴエルト「V12を見事に生き残らせた」
失礼ながら、クルマが電動化する時代になったら、ランボルギーニは真っ先に魅力を失って、絶滅の危機に瀕してしまうのだろう……と思っていた。しかし、それはまったく取り越し苦労だったようだ。

リアに1基、フロントに左右2基のモーターを備えて、いざというときは電気自動車にもなるプラグイン・ハイブリッドとすることで、ランボはこの電動化時代に、6.5リットル V12気筒自然吸気を積んだミドシップなどという内燃機関の権化のような存在を、見事に生き残らせた。
単体で825psを絞り出す12気筒のレブ・リミットは9500rpm! 8000rpm以上での、わずかに憂いが混ざったようなシャウトは、スゴイの一言である。
アヴェンタドールまでの12気筒ランボはリミット近くではどこか「わずかでも運転で下手こいたら、とんでもないことが起こる!?」という緊張感があったが、フロントの左右トルク・ベクタリングでべったりと牽引するレヴエルトは、この12気筒ランボにあるまじき(?)安心感と親近感を醸し出しているのがまたスゴイ。
BYDシールAWD「進化のスピードがスゴイ」
BYDはなによりスピードがスゴイ。ここでいうスピードとは、今回試乗したシールが走る速度ではなく、そのビジネスと進化のスピードだ。
日本で最初に導入されたATTO3の発売からわずか1年半のうちに、ドルフィンとシールも追加されて、BYDはあっという間に、日本で大・中・小の3車種という立派なラインナップを整えた。

さらに今年春には4車種目の日本導入となるシーライオン7も控えている。
クルマそのものの進化も速い。日本導入第1号のATTO3とシールの本国発売は半年強ほどのタイムラグしかないが、わずかに新しいシールのほうが、乗ってみると(価格や車格の高低を差し引いても)明らかに洗練されている。
正直、高速やワインディングでの接地感や一貫性など、日欧米のクルマにまだ及ばない部分がなくはない。でも、基本的な直進性や乗り心地は問題なし。さらに、BYDがこれまで見せてきたスピードを考えれば、そうした細かな機微の部分でも日本車に追いつくのもそう時間はかからないだろう。日本も負けるな!
ケータハム・スーパーセブン600「手のウチで楽しめる」
ネトフリ・ドラマ『地面師たち』のセリフではないけれど、ケータハム・セブンは現在入手可能な新車で、おそらく最もフィジカルで、最もプリミティブで、最もフェティッシュな1台だ。
とくに今回の600のパワートレインは、われらがスズキ製。エンジンは85psまでチューンされた軽自動車用ターボで、5段MTとリア・アクスルは軽トラのキャリイからの移植。車幅もナロー仕立てなので、日本では軽自動車扱いとなる。

乾燥重量440kgという超軽量車でも、パワーも限られるのでスピードや限界性能はそこそこ。走行中にさらされる風量はスゴイけれど、加速は軽妙で、フィジカル(肉体的)な負担は大きくない。
リジッド・アクスルに155/65R14という軽サイズのタイヤなので、ステアリングとアクセルの操作バランスを少しでも間違えると、低速でもスルッとテールを振り出してしまう。ただ、その動きはプリミティブ(原始的)で、アマチュアでも手のウチで楽しめる。
この瞬間の笑ってしまうほどの気持ち良さも一種のフェティシズムなのか?
アストンマーティン・ヴァンテージ「正義のエンジニアリング」
肉感的なボンネットを開けると、メルセデスAMG製V8ツイン・ターボ・エンジンは、まるでコックピット側にめり込むかのように積まれている。
さらに、変速機をエンジンと切り離してリアに置くトランスアクスル方式を採用するヴァンテージの前後重量配分は、FRレイアウトながら49:51。お約束の50:50と思いきや、駆動輪があるリア側がちょっとだけ重く、加速時はきっちりトラクションがかかる差配は絶妙というほかない。

さらに2.7mという短いホイールベース内でエンジンがギリギリ後退しているので、運転席ヒップ・ポイントはホイールベース中央より、少しだけリア・タイヤに近い。これによって、ヴァンテージの乗り手はFRドライビングのキモとなるリア・タイヤの状況が手に取るように、いや、お尻に取るように鮮明に感じ取れる。
だから、ヴァンテージはハンドリングがキレッキレのハイパワーFRなのに、変な緊張感がなく、どこで乗っても怖くないのがスゴイ。この情感豊かなスタイルの下には、正義のエンジニアリングが隠れている。
「すさまじいばかりのギャップ」佐野弘宗から見た、いまのガイシャのここがスゴい!
今回ワタクシが朝イチで乗ったのは、ほぼ無音で走るEVのジープ・アベンジャーでした。で、その直後に、今度はランボルギーニ・レヴエルトのおそらく今年の参加車で最大であろうエンジン音量に圧倒されたかと思ったら、その次はまたEVのBYDシールに乗って……と、なんというか、まるでジェットコースターに乗せられている気分でした。

で、ランチ休憩をはさんだ午後イチには、85psで屋根もドアもないケータハム・スーパーセブン600をあてがっていただいたと思ったら、最後はハイテク満載シャシーに665psのV8を積んだアストンって……。どちらも英国FRスポーツという共通点がありながら、凄まじいばかりのギャップです。
「あまりの高低差に耳がキーンてなるわ!」と、どこかの漫才のようなツッコミをひとりごちてしまいました。そうかガイシャの魅力の源泉とは、日本車ではありえない、このスゴイ高低差にある気がしました。
文=佐野弘宗
(ENGINE2025年4月号)